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22.決戦当日③

「やぁ、パイク」


 崩れた瓦礫の上から声がした。上を向くと、エイリアスがいた。


「エイリアス?」

「おっと、ごめんよ。エイリアスは偽名なんだ。本名はパーム。よろしく」


 パームは可笑しそうに額を叩く。


「裏切りか?」


 パイクは槍を持つ手を強める。


「おっと、勘違いしないでほしいな。あたしは最初っから魔王軍。ちゃんと<波夷羅>って称号持ちでもあるんだから」


 誇らしげに薄い胸を張る。

 パイクは槍を構えようとすると、パームは慌てて止める。


「待って待って。あたしに戦う意志はないんだって。お話ししたいだけなんだなんだって」


 パイクは怪訝な顔をすると、パームはわざとらしく咳払いをして始める。


「お父さんとお話しできた?」


 パイクは明らかに警戒色を強める。


「あ、もしかしてその頬の傷って、そういうこと?」

「負託した人だ。パームには関係ないだろ」

「そっか……」


 沈黙が挟まり、パイクが切り出す。


「……有難よ、パーム」

「っ!」


 パームは目を張る。


「久し振りに親父に会えて、まだ理解できないことはたくさんあるけど、スッキリできたことはできなかったことよりも多い。それでも会えてよかった。有難う、パーム」

「うぇっへっへ。照れますな。まぁ感謝されるとはね、あたし的には有難迷惑だと思ってやってたからなぁ。まぁ、でも、君がよかったなら、よかったよ。よっし、パイクには特別に教えてやんよやんよ」

「教えるって何を?」

「この後の展開さ。ブローン隊の何人かが魔王シュド様に会うことになる。ブローン隊は数人の犠牲を出してなくなく撤退するだろう。ってなことで、パイク君。君は来た道を戻るのが吉」

「吉って言われても。俺だって騎士の一人だ。言われてそうですかって引き返せるかよ」

「命あっての負託だよ?」


 パイクは数瞬考え込む。


「じゃあ、魔王の弱点教えてよ」

「欲張りだなぁ。今回だけだぜ。城下町のセラちゃんが焼いてくれる林檎の包焼だよ。あれあたしも食べたけど本当に美味い」

「真面目に聞いたんだが」

「超大真面目な回答だよ」





「お前等はあっち行け、俺は持ち場に行く」


 ハグ達と別れたキル一人戦場へ戻る。キルは廊下を曲がり、名乗りを上げる。


「俺は<毘羯羅>のキル。楽しく()ろうぜ」





 ストールは小刀を逆手に持ち振り上げる。


「こいつで最後だ」


 ドスッ。


 標的となっていたダイハードは顔を上げる。目の前にいたのは小刀を振り上げるストールと、ストールの方にククリナイフを刺すラサレイド。


 ストールは横目で確認する。


「て、め、<下無>(姑洗)のラサレイド! なぜっ!」

「なぜ? 決まっているでしょ? ダイハードを傷つけていいのは私だけなんだから」

「いや、傷つくのはやだよ」


 ラサレイドが頬を紅潮させ叫ぶが、ダイハードは冷静に突っ込む。

 ストールは肩のククリナイフを抜き、距離をとるが、そこにいたのはアヂル。後ろから組み付き頸動脈を掻き切る。


「ストール!?」

「ゴボ」


 速度が戻る。

 一対三。


 ランパートは敵討ちを決意する。しかし、というか、やはり、というのか。一対三には限界がある。

 ランパートは押され始め、やけっぱちの一撃をかます。

 しかし、空振りに終わり、各一撃が三撃となり、力尽きる。





 再び老人と対峙する。


「こ、今度こそ」


 老人はゆるゆると首を振り、立ち去る。


 嘘だ。まさか、そんな。

 後ろを向くのが躊躇われる。

 膝が震える。

 奥歯が鳴る。


 しかし、向かねば。発条仕掛けの機械人形のように後ろを向く。


 そこに、勝色の、男が、いた。


「う、うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 壊れた。瓦解した。プラダーは絶望の闇に身を投じた。

 全速力で逃げた。


 走り、走り、走り、走り続け。逃げ、逃げ、逃げ、逃げ続けた。


 何で生きているんだ。どうして僕の前に立ち続ける。

 答の出ない問いを自分に課する。


 走り、走り、走り、走り続け、辿り着いたのは”屋敷”。廊下に立ち尽くし、思考が耽る。

 気付けば涙が流れていた。


(どうして泣いている? 自分の未来に希望が見えてこないから? 夢が否定されたから? どうしようもなくなったその果てだから?)


 急速に熱が冷めていく。

 次に体の痙攣に気付く。


(恐怖している? いや、そもそも僕の心が完全に壊れ切っていない。こんな冷静に考えらえれる部分が残っているのがおかしい。神はまだ、僕に役目があるとおっしゃるのか)


 痙攣はまだ止まらない。このままでは戦えない。


(どうする。どう凌ぐ。……そうか。嘘を吐こう。嘘は悪いことじゃない。自分を守るための手段。人を幸せにすることだってできるはずなんだ)


 痙攣が引いていく。

 振り返り、部屋を見渡す。

 成る程。





 発狂した男が走り去ったのは”屋敷”の方角だったか。私の能力は不死。文字通り、死なずだ。この能力を利用する戦い方は、格上にしかしないのだが、まさか、何度も死ぬことになろうとは。


 だが、奴は心が壊れた。荒み、擦り切れ、壊れた。後はもう、体のみ。


 イモータルの剣を持つ手の力が強くなる。そして、”屋敷”に入ると、部屋を一つ挟んだ向こう側に奴がいた。奴は剣を構え、その目には決意が宿っていた。


 バカな。この短時間に何があった。


 焦りを悟られぬように堂々たる態度でプラダーと対峙する。


 歩み、進み、近づき、部屋の中の中央に差し掛かったその時、床が崩れた。

 この部屋はかつて、下からは溶岩の熱気に焼かれ、さらに上からは魔法合戦の影響で脆くなっていたのだ。

 地下の部屋に着地することを許さず、ぽっかりと空いた大穴は飲み込んでゆく。

 注意を払いながら穴を覗きこむ。イモータルは剣を側面に刺し、生きていた。


「プラダーとやら」

「何だ」

「私はここから上がることはもう諦めた。叶わない。私の負けだ。だから少し話をしないか」

「何のだ」

「私の話だ。死に逝く前に、誰かに知ってほしい、覚えていてほしいのだ」

「分かった」

「私は騎士の家に生まれた三男坊でな。親すら見限った。当然だろうな。長男が継ぎ、次男はその補完。三男に役割などほとんどないのだ。だから旅に出たのだ。旅に出て私を見つけようとしたのだ」

「よく喋るな」

「本来の私だ。旅先で出会った御師様オイスター様の教えでな、『多くを話すものは敗者である』と。無口に憧れたのだ。だから喋らなかった。後はそうだな。私の能力のことか。私は何度も君の前に立っただろう。私の能力によるものだ。私はな不死者なのだ。死なないのだよ、殺されても。だから、何度も立ち、君に違う戦い方で挑み続けた」


 プラダーは話を聞きいる。イモータルは自分に似ているのではないか、と。


「私は御師様の後を追いすぎた。後追いをするあまり、自分の戦い方を見失ってしまったから、君に負けたのかもしれない」

「そんなことはない。僕も師匠を真似し、成ろうとするかのように修行をしていた。ただ、貴方に勝てたのは最後の最後に師匠の教えを初めて破った。自分に鞭打ち、嘘を吐けたから勝てた」

「謙遜するな。君が強かったから。君の師の教えがよかったからだろう」


 イモータルは最期に、と続ける。


「君にあった老人は我が師だ。私など足元に及ばない程の実力者にして、弱点などない。学ぶものも多いだろう。生きて帰れたならば、利用するといい」


 イモータルは兜をプラダーに向けて投げると、剣の柄から手を離す。


「ありがとう。さらばだっ!」


 勝色の兜を手にし、プラダーは最期を看取る。


 ぐんぐんと姿は小さくなっていき、遂に溶岩の中に落ちた。





 きた! 勝った!

 そう思ったのがいけなかったのだろうか。突然手斧が飛んできた。


 ラントの首を絞めていた縄を断つ。


 通常、絞首刑は一気に首を圧迫することで気絶させ、その間に死に至る。しかし、時々気絶でできずに死亡まで苦しむことがある。今回のラントのことだ。

 ゲホゴホとラントは喉を押さえ咳を止めようとしながら、手探りで小刀を探る。


「く、くっそ!」


 バシャバシャと音を立てて、走り続ける。


「ラント!」

「大丈夫」


 トマホークがラントに呼びかけると、ラントは首元の縄の痕を撫でながら応じる。

 段々と、段々とギャロウズの脚が遅くなる。二人の少女は警戒して、一定の距離をとる。


「(何?)」

「(分かんない)」

「(様子見)」

「(了解)」


 ギャロウズは歩みを止め、ゆらりとこちらを振り返る。その顔には笑みが張り付けられていた。


「なぁ、何で人は生まれてくると思う?」


 二人の少女は怪訝な顔をし、様子を窺う。


「本来、人の、いや生き物の魂、記憶の音色は風に運ばれ、空へと舞い上がり、雨に打たれることなく、短い生を謳歌する」

「(いきなり詩人になったんだけど)」

「(もう少し様子見)」

「だが、実際はどうだ。雨に打たれるどころか、嵐に巻き込まれている。自由などどこにもない。自由を探す者は自由ではなく、自由を謳う者は自由と思い込み、周りに認知させることで自由を得ていると勘違いしている。自由などどこにもない!」


 怒りに染まっていたギャロウズの顔は再び笑顔になっていく。


「死が! 私を! 自由にする! 肉体から解放され、魂のみとなり、自由となる。自由だ。遂に自由だぞ! おい、実に良いものだよ! あぁ、人生最高の瞬間だよ!」


 ギャロウズは狂気じみた笑みを作り、自らの胸に手を置き、少女を見つめる。


「殺してくれないか?」


 トマホークが一歩後退する。


「自殺をする勇気が出ないんだ。でも死にたい。だから、殺してくれないか?」

「本当に死にたいのか?」


 ラントが聞くと、ギャロウズは首肯する。


「君達をもうこれ以上傷つける気はない。まぁ、私が、で、物理的に、なわけだが」


 ラントがギャロウズの腹を裂き、トマホークが手斧で介錯する。

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