21.決戦当日②
「くっそっ!?」
「ダミー!」
六体もの操り人形がホーリーに殺到する。一体一体は大したことない相手だが、数が多いと苦戦する。
ダミーとパピティアの間を一閃するが、ダミーの動きは止まらない。
(糸はない? 動かしている手段は何かしらの魔術か?)
ホーリーはパピティアから距離をとると、足元が柔らかいのに気付いた。
(っ!? 何だ? これは、粘……)
「クレイッ!!」
パピティアが右手を挙げると、粘土が動き出す。粘土は硬くなっていき、感触はまるで人肌。
(マズイ!)
着地後、一瞬の硬直が相手への隙となる。
「むがっ!」
ホーリーはクレイに殴られ、ダミーの輪の中に飛ばされた。
剣、槌、槍、棍、小柄、匕首。六つの得物が一点を狙う。
ガキンッ!
槍を持っていた人形の上部を跳び、ホーリーは人形の首に剣を刺し、着地と同時に切り捨てる。振り返るときに横に一閃し、棍と小柄の人形を壊す。
三体はもう動かない。どこかに繋ぐ”糸”があるのかが分からない。
考える暇を与えず、後ろからクレイの拳が飛んでくる。横に跳んで避けると、匕首が迫る。咄嗟に剣で防ぐ。
白磁器のような指であどけない少女が”糸”を操れば、夥しい量の人形が不可思議な踊りを踊り出す。
クレイだけはパピティアの指の動きに合わない動きをしている。動きが読みづらい。
動きを見極め、楯に一閃。クレイの左腕と槌の人形を斬る。そのままの勢いでクレイを斬ろうとするが、クレイは飛び退く。
クレイが左腕の切り口から粘土を撒き散らす中、パピティアはクレイの左肋骨部から粘土を取り出し、捏ね始める。
姫を守る騎士が如く、クレイと、剣、匕首を持った人形が立ち塞がる。
「くっそ! どきやがれ人形共!」
ホーリーが剣を振るうと、剣と匕首の人形とクレイは事切れる。
パピティアの眼がつり上がる。
ホーリーがパピティアに肉薄する。
そういえば、捏ねていた粘土はどこ行った?
パピティアが言い放つ。
「粘土の塊でさえも十分な熱意をもって、それを絞めるならば、何かしらの意味を持つ。何を創り上げたか見てみろ!」
悪寒が走った。この今言われている粘土が、クレイのことでないことは直感で分かった。だが、もう遅い。
「命そのものだっ!!」
振り上げた剣を自分の胸に引き戻す前に、腹に衝撃が来た。何なのか、確認する前に着壁。肺の中身が押し出され、そして腹の衝撃により、嘔吐く。たちまち砂煙が立ち、姿が確認できない。剣を手に持っている感覚がある。剣を強く握り締め、横に転がると、先程まで自分のいた場所が爆発した。
ようやく姿が見えた。女型の細い粘土だ。なぜあの威力が出ているのか不可思議でならない。
そんな考えを打ち切るように、女型の人形は肉薄する。その速度は目では追えるが、体がついてこない。
顔、胸、肩、腹、途切れることなく、人形の連打が来る。
「凄い。クレイから生まれたから名前はクウィキだな」
少女は年相応のあどけない表情を見せ喜ぶ。
冗談じゃねぇ。虚仮にしやがって。
座り込み、項垂れる体勢で剣を握り込む。
クウィキは頭を潰さんと、腕を振り上げる。
剣を振るい、ついた血を飛ばし、布で拭い取る。血がついたままでは、血中の脂分により、切れ味が悪くなってしまうのだ。
プラダーは勝色の男を一瞥すると、部屋を進んでいく。
部屋を一つ抜けた時、視線を感じ振り向く。
何もない。誰も、いない。気のせいか?
次の部屋の扉に手を掛けると、背筋が凍った。圧倒的な剣気。開けることが躊躇われる。
プラダーは喉を鳴らすと、決意を固めて扉を開ける。
部屋の中で立っているのは白髪の老人。しかし、老人と呼ぶにはいささか達人の雰囲気が強すぎる気がしないでもない。
真っ直ぐプラダーを見据えると老人は口を開く。
「名乗るにはまだ早いようだな」
それだけ言うと、老人は後ろを向いた。
これ好機、と老人に切りかかろうとしたその時、後ろから殺気が。後ろを振り向くと、そこには勝色の鎧の男。
さっき殺したはずなのに。そんなことを考える暇など与えずに、勝色の鎧の男イモータルが攻撃を仕掛ける。
迫りくる剣の猛攻を紙一重で耐え凌ぎながら、隙を探す。
耐え、探し、耐え、探し、耐え、探し、耐え、ミツケタ。
見つけたのはイモータルの癖。型に忠実なイモータルは型と型の間が少し空く。その一秒以下の世界での決着。
プラダーはイモータルの剣を往なし、鍔で剣の腹を押し、型を崩す。
下からの切り上げにしろ、防御にしろ、刃を地面から抜く一手がある。その一手が命取り。
プラダーはイモータルの首を切り落とす。
現在、”屋敷”にいるのはオーバンだけである。数分前、ヴィクターとパイクは城に突入した。ヴィクターが送り出したのだ。そんなオーバンの元に一人の男が姿を現した。
煤竹色の髪をした小柄な男。
<断金>(大呂)のフリント。極めて固い体を持つ男。
「オイラは<断金>(大呂)のフリントだ。んで、誰だ、オメェ」
「オーバンだ。お前に、我が倒せるか?」
「オイラはオメェに興味ねぇ。そ、ソーサレスちゃんのとこに行くんだ」
「戦わぬのなら、それはそれでいいのだが、まだ通すわけにも行かんのだ」
フリントは顰めっ面を浮かべる。
「じゃあ、オメェを倒してでも行くしかねぇ」
ギャロウズは絞首の天才だ。ゆえに縄の扱いに長けている。しかし、それは絞首に関わることに限定だ。
だからこそ、この結果は必然だったのかもしてない。
「もう終わり?」
ラントは小刀をギャロウズに向けている。
「本当に相性悪ぃ」
首を絞めようと縄を操れば、そのたびに切り落とされる。
ギャロウズは後ろに下がり、二人の少女と距離をとる。
パシャパシャと足元の水を鳴らしながら、二人の少女は距離を縮める。
距離をとる。距離を縮める。とる。縮める。
ラントが先程までギャロウズが攻撃を放っていた場所に着く。
ッガッチャガシャガシャガチャンッッッ!!
ラントの首に縄がかかり、絞首台が完成する。
ラントの手から小刀が滑り落ちた。
炎、水、風、土、雷、氷、様々なモノが飛び交う。はたから見れば、両者の実力は拮抗しているように見える。だが、両者には決定的な違いがあった。顔である。優醜の問題ではなく、
形相である。
ハグは鬼の形相を、エンチャントレスは余裕気な表情を浮かべている。
「くそ、くそ! くそ! くそっ! 何で余裕そうなのよ! 貴女みたいな整った顔の輩が優秀だと、私等みたいなのが輝けないのよ!」
「貴女がそちらにいるから輝けないんじゃないの?」
エンチャントレスの健常者の理屈に苛立ちを募らせる。
「アイツ等は実力と顔で選ぶんだ。顔が良くないやつは黴と埃に目を細め、開く本に並んだ文字列を視ることしか許されない、陽が差すことなどない場所に送られる。表舞台には立たされないのだよ!」
エンチャントレスは目を細める。
「そんな私を救ってを救ってくださったのが、シュド様なの。だから私はこちら側に着くの。例え、世間に悪だと言われても、こちら側に正義があるのよ!」
火球を放つ、その怒りを乗せて。
エンチャントレスの前に、ウィザードが立ち塞がり、土の壁を出す。しかし、それで防げるほど、ハグの攻撃は甘くなく、ウィザードは吹き飛ばされる。
「そんな目で見ないでよ。脳髄を焼く微熱すら感じてしまう、憐れむような目で見ないでよ!」
ハグの叫びに同調するようにソーサラとソーサレスの攻撃が加わる。
しかし、そんなことをものともせず、エンチャントレスの攻撃で相殺する。いや、相殺ではなく、上回った。
ハグは目を張り、ソーサラは驚愕し、ソーサレスは悲鳴を漏らす。
エンチャントレスは上品な笑みを浮かべる。
「そろそろ、終わらせましょうか」
「わ、私は愛されたい。惨めで滑稽で、無様に踊ることしか出来ない。あざとい愚物たる私は、ただ愛されたかっただけなの」
「自分をそこまで卑下するなんて、愚かで醜い穢れた思考ね」
エンチャントレスの放つ火球が着弾する。
何度壁にめり込んだだろう。
戦ってみた感じでは、グラディエイタはサヴィチよりも強いような気がする。
丹色の髪を土埃で汚し、骨を軋ませながらも、闘志が消えない。
「テメェの眼ェに宿る闘気が消えねぇな。何だ、負けたくねぇ相手と俺を重ねた目ェしやがって」
グラディエイタは苛立ちに任せて、舌打ちをし、赤銅色の頭を乱暴に掻き散らす。
「足りねぇならいくらでも来い。満足するまで相手してやる」
「君、速さ自慢だったようだね」
明らかにアヂルの様子がおかしい。調子悪そうにしている。
「大丈夫か?」
「駄目だな。使いモンになんねぇ」
ストールは減速の魔法を使用している。進行形であるのは、正に今も発動しているからだ。徐々に徐々に相手から速度を奪っていくこの魔法は、一度発動すると、術者が解除するまで効果を発揮し続ける。
待ち焦がれているラサレイドの瞼の裏に映る景色には、そのすべての要素にアイツが映る。無意識の中にアイツがいる。愛と恋とは違う、別の何か。
柄にもなく、物思いに耽っていると、レタが入ってくる。
「行コウ。ラサレイド、オ城ニ」
追い詰めたと思っていたのは勘違いだった。まさか行き止まりじゃなくて、曲道だったなんて。
「ごめんよ、ブローン、ケイン、セイバー。この戦いでの死者はなしだ。悪いね」
とはパームの話。途中で廊下を走って消えた。
数秒、三人は突然のことに呆然としたが、流石に立て直す。
「行くぞ」
衝撃は、来なかった。
振り下ろされた腕の先が取れ、頭上の壁に飛び散った。
クウィキが瓦解していく。
間に合わせの人形が崩壊していく。
体に似合わない力を有していたのが災いとなり、体が耐えられなかった。
もはや護ってくれるものなどいない。
パピティア本人に自衛の手段がない。
断頭台の囚人のようにしの瞬間を待つしかない。
その瞬間に怯える少女にある約束が過ぎる。
嘘をつかないこと。ずっと傍にいること。悲しい涙を流さないこと。そんな幼稚な約束。交わした男性。そう、今目の前にいる藍墨茶色の外套を着たエクスキューショナー。
エクスキューショナーの断頭斧とホーリーの剣が交わる。
「誰だ、お前っ……」
「<珊底羅>エクスキューショナー。貴様の名を教えてもらう。死刑執行人は囚人の名を意外と覚えているものでな。貴様の名も覚えていてやろう」
両者が一度離れる。
「改めて、<珊底羅>エクスキューショナー」
「王国の新米騎士ホーリー」
二人が同時に動き出し、再び断頭斧と剣を交える。その衝撃が床に伝わり、そこが抜けた。
「エクスキューショナー!」
叫ぶパピティアの声に返答はない。少女は下にある場所を知らない。ただ闇雲に走り、探し始める。
誰かいた形跡のない瓦礫の中、仰向けになっているホーリーにエクスキューショナーが馬乗りとなり、首を斬り落とさんとするが、剣で鍔迫り合う。
「く、おぉのぁあああああっ!!」
「ぐ、ふ」
ホーリーは器用に膝をエクスキューショナーの脇腹を蹴り、緩んだ隙にホーリーはエクスキューショナーを足裏で押し上げ、蹴り上げる。
両者は立て直し、構える。
エクスキューショナーが断頭斧を横薙ぐと、ホーリーは屈み、足の跳躍力を利用して刺突する。
当たる直前に体を引くことで心臓を免れたが、左腕の一部と首の右側を斬り裂かれる。
ホーリーが剣を抜くと、血が噴き出す。脈動を感じさせながら、膝を着く。外套の頭巾がはらりと落ちる。
「そうか。何か言い遺したことはあるかい? なるたけ聞き入れてやろうじゃないか」
「随分と上からだな。……そうだな。パピティアは、ゴボ、殺さ……ないで……く……れ……ゴポ、ゴボ」
口から血が溢れてくる。
あの少女は敵だが、頼みは聞いてやろう。
早めに接触しなければ。
「三大拳闘士が一人、グラディエイタ」
「俺も三大拳闘士の一人だ。<真達羅>サヴィチ」
「俺は俺よりも強ェ奴と会ったことがねぇ」
「俺もだ。これで勝った方が”王”だな」
拳闘士の世界は王政のように一人の頂点だけが決められている。便宜上この一人を”王”と呼ぶ。
”王”は一番強い者と定められており、そのため拳闘士達は争い、強者を決める。拳闘士達は本能的に勝敗が分かり、まだ戦っていないことも分かる。
両者は、後者。まだ戦っていない。両者とも未だ一度も負けていない。北げていない。三大拳闘士たる由縁。勝った方が実質的な”王”。
二人の”王”が、今ぶつかる。
殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。殺したはずだ。
殺した……はずだ。
幾度、奴を殺しただろうか。
斬り、刺し、潰し、砕き、捩じり、捻り、抉り、絞め、千切る。
できることは試した。手段は尽きた。だからもう、起き上がらないでくれ。心が尽きそうだ。
プラダーは絶望という闇にまであと一歩。ギリギリの崖にまで進んでいる。
勝色の鎧の男の首を再び別つ。
「ひっひっひっ!」
ハグはもがき苦しみながら、螺旋階段を四つん這いで昇る。
「先生っ!」
弟子達がハグに手を伸ばすが、エンチャントレス達は許さない。
「貴方達はここで仕留めるわ。逃げられたら面倒だもの」
魔法を放とうと、掌をハグ達に向ける。
コツ。コツ。
誰かが下りてきた。
攻撃を一旦待つ。巻き込んでしまいたいから。
ソーサラ、ソーサレスはその姿を見て、顔を俯ける。直視は失礼ではないかと、本能が訴えかけたから。
ハグが目撃する。下りてきた男は黒髪赤目だった。男はソーサラ、ソーサレスの間を通り抜け、ハグの横を通る。
「あら、素敵な殿方ね」
言うだけ言うと、エンチャントレスは火球を放つ。
火球は男に辿り着く前に、威力が弱まり消える。
「いきなりだなぁ、テメェ。俺は<毘羯羅>のキルだ。まぁ、この顔が素敵だって言うんなら許してやるよ」
十二神将最強の男が動いた。その事実にハグは驚きを隠せないし、なぜ助けてくれたのかが分からずに困惑する。
火球を放つ。
「ちょっと温けぇな」
水流を放つ。
「お、涼んだ。あんがとよ」
暴風を放つ。
「ん~~~。涼しいな」
土流を放つ。
「んあ? 泥遊びか? ガキ臭ぇな」
電撃を放つ。
「んあ~、筋肉がぴくぴくする。気持ちいいなぁ」
氷柱を放つ。
「おぉ、綺麗だな」
火球を放つ。
「それさっき見たな」
キルは右手を振り上げる。
ウィザードはエンチャントレスの前に立ち、土壁を作る。ウィッチは火と風の合成魔法の準備に取り掛かる。エンチャントレスは火と雷の合成魔法の準備をする。
キルは右手を突き出すと、土壁を砕き、ウィザードの頭を掴み、握り潰す。
その惨状にウィッチとエンチャントレスは動きと思考が止まる。
あまりにも一瞬の死。あまりにもあっさりと死。理解が追い着き始める頃に悲鳴を漏らし、キルがウィザードを落とし、こちらを向く頃には腰が抜ける。
キルが右手を振り上げると、エンチャントレスは無理矢理ウィッチを立たせ、全速力で逃げる。
この状態では勝てないから。
態勢を立て直すため。
そんな言い訳を笠に逃走する。
「何で?」
「ん?」
「何で私達を助けてくれたの?」
キルは言葉を選ぶように上を向き、髪を掻く。
「何だ。あー、お前は魔王様の女なんだろ? お前が死んだら悲しむだろ? それが嫌だかんな」
「…………有難う」
「おう」
「俺はヴィクター。お前は?」
城のある一か所の部屋。暗赤褐色の髪と、猩々緋色の髪が相対する。
「僕は<囚達羅>のトラウンス。哀れだな、僕と相対するなんてね」
相当自信があるようだ。
目を逸らすことをしないまま、スラリと両者とも剣を抜いた。




