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2.世界は狭いことを思い報せれた。ちなみにまだ常識が身についていないので世界の広さも知らない

 この世界の常識など調べる間もなく、兵舎に連れて来られた。展開に追いつけない。兵舎の中にはホーリーの他に槍を持った赤髪の青年と、剣を佩いた茶髪の地味な見た目をした男がいた。互いに顔を見つめ合っていると、兵舎の奥から筋骨逞しい男と、準礼服を着た紳士風の男が出てきた。筋骨逞しい男はゆるりと両腕を広げて話し始めた。


「やぁ諸君。私の名前はブローン。こちらの男はケインだ。私はこの騎士団の団長を務め、ケインは副団長を務めている」


 ケインが会釈し終えるのを見て、ブローンが再開する。


「今日から君達は誉ある騎士団員だ。騎士として、その職に恥じぬ行動をしてほしい。さて、挨拶はここまでだ。本来であれば、私達以外の団員もこの場で新人の君達をいび……歓迎するのだが、一部で任務で払っていてね。簡素な歓迎になってしまったよ」


 ホーリー達3人は首を振った。








 路地裏の壁に凭れかかる少年は、その翡翠色の瞳に街の光景を映していた。少年は佩いている剣の柄を人差し指でリズミカルに叩く。少年の位置から見える光景はメインストリートの一部である露店建ち並ぶ商店街だ。今も多くの客が行き交っている。


 ある者は八百屋で野菜を買い、ある者は武器商人の持ってきた剣を見定めている。


「どうした坊主。辛気臭い顔して、迷子か?ほれ、リンゴ食うかい?」


 少年がいる路地を作り出している店の店主が心配して話しかけてきた。少年は鬱陶しそうな顔を全面に出しながら、首を振った。


「迷子じゃないよ。あと、僕はリンゴが食べられないんだ」


「おっとそいつはすまねぇ」


 触らぬ者に祟りなし、と店主が店にリンゴを戻す。すでに話しかけている時点で触っている気がするが、そこは気の持ちようだ。


 少年が再び剣の柄を叩き始める。彼が熟考するときによくする癖だ。


(どうやらこの街は賑わっているように見せているだけのようだ。外部から来た人、特に商人あたりにかな?よく見せておけば商談に繋がる可能性があるからな。僕もそうだが武器を携帯している人が多いな。外部から来たからか?それとも自衛用?いや、――)


 そこで考えが途切れた。路地裏の奥の方から女の子が話しかけてきたのだ。


「お兄さん、何してんだい?」








 一部の人がいない理由についてブローンが話し始めた。


「君達ももう団員だからな。話しておかないといけないだろう。この国が魔王軍に脅かされているのは学校で習ったよね。侵攻してくる魔王軍を騎士団が押しとどめて、拮抗していたんだ。だが、最近になってその均衡が崩れかけている。何故だか分かるかい?」


「いえ」


「知りません」


「騎士団が負けている?」


「白髪の君、半分正解だ。最近、魔王軍の動きが活発になってきていてな。武器の強化、戦闘員の訓練、諜報活動。奴らは本気でこの国を落としにきているらしい」








 話しかけてきた少女の身なりを見て、ちょっと綺麗な格好をして少しでも多く恵みを貰おうとしてくる乞食だと判断した。ここで無下に扱うと、この後に何を言われるか分からない。任務を遂行できないのが一番の問題だ。


「悪いなお嬢ちゃん。恵める物は持ち合わせていないんだ」


「ありゃ。それは残念だなぁ」


 少女は乙女色の髪を掻き毟り、残念そうな顔をする。少年の心が少し痛んだ。別に少年に人の心がないから断ったわけではない。本当に恵める物がないのだ。


「本当に悪いな。帰りの駄賃を除けば無一ビーなんだよ」


「しけてんなぁ」


「うるさいな。土産はあるから御主人様には怒られないから良いんだよ」


 少年は茶化してくる少女が鬱陶しくなり、立ち去ろうとした。しかし、それができない。少女に袖を掴まれたのだ。


「待っておくれよ。別にお金じゃなくてもいいんだぜ。例えば物品とか、あとほら、お金になる情報とかさ」


 少年は必死になる少女に不審な目を向けた。








 ブローンは椅子に座って頬杖をついた。


「魔王軍は手始めに部下の強兵化を行ったんだ。具体的なやり方までは知らないが、それに諜報活動もしている。私には到底見分けがつかないがね」


 ケインも同調して肯定する。


「なので、私達の中でその見分けに詳しい者が出払っているのです」








「情報も何も、僕は外の人間だぞ。金になる情報なんて持ってないよ」


 少年が手をひらひら振って少女を追い返そうとする。そろそろ面倒になってきた。どうしてこの少女はここまで食い下がるのか。少年の眉間にできていた皺がさらに刻まれていく。


「え~~。何を言っているのさ」


 少女が少年の袖に掴まったままだ。少年に新たな疑問が浮かんでいた。この少女、力強くないか?少年はこれでもこういうことに長けているタイプだ。なのに、少女はそれを超えてきている。この少女は何者だ?


「外の人だから知っていることもあるだろ。しかも、住んでいるところを考えればさ。なぁ、主人は誰なんだい?魔王軍?」


 少女の眼が片目だけ見開かれ、少年の表情が豹変した。








「詳しい者?」


 赤毛の青年が質問する。ブローンはにやりと口角を上げ、質問に答える。


「あぁ、諜報の専門家、ラントさんだ」


 ブローンが名前を出したその時、兵舎の扉が開いた。


「よぉブローン。何?歓迎会の真っ最中だった?」


 乙女色の髪を揺らしながらラントが入ってくる。


「いや、歓迎会は最初っからやってない。今は、魔王軍の最近の動向と、この建物について話していたところだ」


 ブローンが答えると、ケインは怪訝な顔をした。そりゃするだろう。ラントの手には少年が引き摺られていたのだ。


「そいつは誰だ?」


「これ?魔王軍の下っ端」


「ふむ。なら、そいつから魔王軍の情報やら情勢やらを聞き出しておいてくれ」


「了~解」


 そう言うと、ラントは少年を引き摺り去っていく。ブローンはラント達を見届けると、ホーリーたちの方に向き直り、笑顔で告げた。


「それじゃ、3人は仲良くな。あと、ホーリーだけは個人的に話がある」


 兵舎の奥に消えていくブローン達についていくように、赤髪の青年――パイクと茶髪の青年――プラダ―がホーリーの背中を押した。








 ホーリーは小走りでブローンの元に辿り着く。個人的な話の内容を予測しておく。この世界について何も知らないホーリーは何を話されるのかビクビクしてしまう。この世界に来てやったことは闘技場の参加だけだ。もしかして不正を疑われている?いや、そもそもお前は誰だ?という話かもしれない。身辺調査をしてもホーリーについてわかることはここ1.2日についてだけだ。そこを突かれたら何と答えようか。


 ブローンが執務室に入り、奥にある自身の机まで歩く。中は余計な飾りのないさっぱりとした部屋が広がっていた。


「適当に座ってくれ」


 執務室の中に入ったのはブローンとホーリーの2人だけだ。ケインは入ってきていない。執務用の机の前にある2つの長椅子を見比べ、向かって右側に座る。ホーリーが右利きだからだ。


「話す内容は一つだ。君も知っているのではないかな?」


「お、私も知っていますかね?」


 この世界に来てから話したことがある者など、両手で数える程度だ。闘技場で戦った3人、そこの司会・レポーター、大会を教えてくれた少女、今目の前にいるブローンやおそらく部屋のすぐ外にいるケイン、名前は知らないが行くよう命じてきた同期2人。この10人くらいか。


 しかも、ブローンにも繋がりのある人物と考えるとかなり限られている。騎士団関係者だろうか。


 悩んでいると、ブローンが答え合わせをする。


「答えはキャニバルだよ」


 絶句した。まさかここが繋がっているとは、考えてもいなかった。


「キャニバルがもう一度君に逢いたいと言っていてね。彼女がこんなこと言うのは初めてなんだよ。駄目?」


「あまり会いたいとは思いませんし、調べたいことがあるのでお断りさせていただきたいです」


「そうか。彼女のことだ。秘密裏に会いに行くだろうね」


 ブローンは肩を竦め、あっさりと引く。


「良いよ、もう行って。3日後ぐらいに実践があるかもしれないけど」


 …………は?








 部屋へ行くと、新米2人がホーリーに用意された部屋にいた。パイクが仕切っている。


「改めて自己紹介しようぜ。オレはパイクだ。24歳の槍使いだ。よろしく」


「僕はプラダ―。歳は22で剣士だよ。どうぞよろしく」


「…………オレはホーリー。24歳で剣士だ」


「お前等ってどういう経緯で騎士団になったワケ?ちなみに、オレは槍術が上手いって噂が騎士団まで届いていたみたいで、勧誘されたって経緯。お前等は?」


「僕は木剣で素振りしていたら、偶然通りかかったライダーさんに勧誘されて」


「お前も勧誘か」


「オレは武闘会で優勝してここにいる」


「お前が今回の優勝者か」


 値踏みするようにパイクはホーリーを見る。ホーリーはそれに合わせて目を向ける。デフォルトが睨んでいるように見えるので、パイクは少し怯んでしまう。睨み以外に纏うオーラも怯んだ原因ではある。


「何か言いたいのかな」


「ひょろがりだな、と思っただけさ」


「…………剣奴だしな」


「…………何かすまん」


 誤魔化しで言った一言がとんでもない雰囲気になってしまった。誰も何も言えない時間が過ぎる。


「明日のために早めに寝ましょうか」


 話に入れなかったプラダ―が重すぎる空気を読んで、時間を置くことを提案してくれた。

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