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19.決戦の前夜にそれぞれのキャラはそれぞれの過ごし方をしたのち、その決意を固めていった

「パイクの奴、父さんに会えたのかな」


 疑問符に成り切れない疑問を口にしながら、ゆったりと城の中を歩く少女が一人。

 エイリアスである。

 左手で常盤色の髪を梳きながら目的地に向かう。

 エイリアスは知り合いを見つけ、大きく手を振る。


「あ、おーい」


 話しかけられた人はこちらに顔を向けた。


「あ? あ、……久しいな、パーム」


 サヴィチは少し目を逸らす。


「……なんか隠してない?」

「お前は俺の母さんかよ。隠し事なんて誰だってあんだろ。……お前の部屋の本棚の中身、ばら撒いちまった」

「……ん? 何で?」


 怒りが滲み出ている少女に赭の男は必死の弁明を行う。

 サヴィチと言えど、自分よりも年下のパームには言葉では敵わないのだ。






「パピティア」


 城の中のとある一室。藍墨茶色の外套を羽織った長身の男が呼びかける。

 パピティアと呼ばれた少女は顔を向けることなく、人形作りに没頭している。


「反応はしなくてもよい。ただ聞いてくれ。敵は深くないが、着実に中に侵入している。近いうちに私達も戦うことになろう。……約束は覚えているな」


 男が少女に目線を合わせると、初めて男の顔を見てきた。

 泥を付着させた顔を拭うことなく男に小指を差し出す。

 男は少女に小指を絡ませ、指切りげんまんをする。


「……約束」


 少女は可憐な声を震わせ、承和色の髪を揺らした。





 勝負は一瞬だった。

 二人は同時に動いた。


 ファイタは刀を振り、首を落とす勢いだ。

 パイクは前傾する体のまま無理矢理顔を動かし、左の口内から右の外頬を切り裂かれる。


 パイクは槍をただ素早く前へ突き出す。

 ファイタは技を仕掛けるという一手を解除することができず、槍が腹を貫く。ファイタの内臓は傷ついており、既に虫の息だ。

 パイクは右頬から歯をのぞかせながら、ファイタを睨みながら蹴って槍を抜く。


「あぁ、何もかもが崩れていく気分だ。汗と涙で作り上げた財産が、だが、崩落や崩壊といったものではない、美しく綺麗なものだ」


 ファイタはすでに死の覚悟をしている。

 パイクは全身の痛みのためなのか、父親の死を察したからなのか、顔を歪めた。


「私は、人それぞれには、何か特別なものを持っていると信じている。お前にもだ、パイク。真に心を強く持てば、大きな試練も乗り越えられる。自分を信じ、常に正直で意思を持ち、そして何より、自分を見失わないことだ。パイク、信念を持て、夢を見よ! お前の弱さを許せぬ優しさと揺るぐ独占欲を秤にかけられぬ父親の我儘な愛を許してくれ」


 パイクは瞑目する。


「親父、俺はアンタを超えられたのか」

「結果を視ろ」


 それがファイタの最後の言葉だった。





 簡易的な墓を作った頃、エイリアスがいないことに気付いた。

 ブローンたちと合流したが、結局、エイリアスは見つからなかった。





 親子の決着がつく少し前のこと。

 城の前には長身の男と痩身の漢と常盤色の髪をした少女がいた。


 エイリアスことパームはサヴィチとあとで話をする約束をし、ここに来た。目的は二人を侵入させること。

 三人は慎重に城の中を歩いていく。


 パームは騎士団内でも信頼されている。諜報員という立場から、正しい情報を持っているという先入観によるものだ。

 だから気付けない。今向かっている場所に。

 だから気付けない。エイリアスの正体に。

 だから気付けない。この後どうなるのかに。


「よくやった、パーム」


 声が聞こえた。どこか優しいけれど冷たい声。

 長身の男スレッヂハンマーと痩身の男ライダーは辺りを見渡す。


「どこから!?」


 気付くとエイリアスはいなくなっていた。覗かせる顔はパームのもの。


「エイリアス、お前」

「じゃあね」


 スレッヂハンマーは驚愕し、パームは舌を出し、別れを告げる。


 前から歩いてくる男がライダーの眼に入る。優男の風貌をした黒髪の男はゆったりとした歩調で向かってくる。

 スレッヂハンマーは大槌を両手で構え、ライダーは馬上槍を構える。


 目が赤く光る。


「良い筋肉(にく)だな」


 姿が掻き消える。


 ガキンッ! 馬上槍と爪が交差する。

 空中という場での無茶な動きにもかかわらず、回し蹴りがライダーの頬を叩く。


「ぢぃやぁっ!」


 スレッヂハンマーの横薙ぎを軽々と躱し、両足跳び蹴りを顔面に喰らわす。

 不意を突き、ライダーが後ろから飛び掛かるが、目もくれずに横腹を叩き、壁まで飛ばす。


 何かが光り、スレッヂハンマーの胴が抉れる。

 ゴボリと口から血塊が零れる。そのままシュドはスレッヂハンマーの横腹を蹴る。スレッヂハンマーの腹から腸が零れる。


 ライダーはその光景に瞠目し硬直する。

 シュドは蹴りにより、ライダーの右腕を折る。


「ッッッ!? ぁっがああぁあああっ!?」


 ライダーは横に転がり、距離を取る。

 シュドは冷静にスレッヂハンマーの大槌を使ってライダーの両足を潰す。

 ライダーは悶え苦しみながら左腕だけで這って扉の方へ向かう。


「良い、凄く良い! 人は醜くとも生きようとする。それを私はとても美しいと思っている。今の君、とても輝いているぞ!」


 恍惚としながら、シュドは馬上槍をライダーの腹を刺し、身動きできなくする。


「楽しいんだよ、これが。相手の得物で命を奪うってのは、至福だよなぁ」


 ライダーの頭に大槌を振り下ろす。






「ごめんなさい、パイク。その右頬の傷、痕が残っちゃった」


 アベイトは金春色の髪の中で目を伏せる。

 しかし、パイクは清々しい顔をしていた。まるで憑き物が落ちたようであった。


「この傷はただ美しく優しい思い出が鋭く刻まれているだけで、忘れること、そんな予定もなくて。こう、上手く言えないですが、残ってよかったと思うので、気にしないでください。頬から、肩から、腕から、手から、指先から、流れ落ちる血液、傷跡は消せない。消えないんです。歪んだ夢を叶える。親父を殺した時点で、この夢は俺の夢にもなったんです」


 パイクはどこか悲しげな表情をする。






「すまねぇな、集まってもらっちまって」

「……」

「いや、何てことはない」


 部屋の中にいるのはサヴィチ、パーム、オイスター、イモータルの四人である。


「本題に入る前に聞きたいのだが、サヴィチよ。パームのその状態はいつからなのだ?」


 パームは現在サヴィチの腕に腕を絡ませ、体を密着させていた。ちなみにサヴィチはもう諦めている。


「知らん。出会って3,4回目辺りからこの状態だった気がする」


 何か求められている気がして、パームは昔話を始めた。


「あれは――


 あたしが初めてサヴィチと出会ったのは十二神将の顔合わせの時だった。だけど、ほとんど印象になく、唯一思ったことは粗悪者。終わった後、図書館に籠り、本を読み漁っていたら、サヴィチが入ってきたんだ。何かの本を探していたサヴィチがあたしに近づいてきた。


『お前、確かパームだっけか』

『……そうだけど』

『探している本があんだけどよ……てか、お前は何読んでんだ?』

『何でもいいじゃん』


 あたしはこんな乱暴者とひと時も一緒にいたくなかったから素っ気なく対応した。

 すると読み返していた本をサヴィチに勝手に取られて読まれたんだ。


 しかし、サヴィチは本を上下にクルリクルリと回したあと、あたしに返してきた。何かと思ったよ。


『……読めねェ……。俺は文字の読み書きができる本を探しているんだよ』


 あたしは呆気にとられて、少し笑ってしまった。それに対してサヴィチは早口で弁明してきた。あたしはそのほとんどを聞き流し、あたしの手にしていた本を読み聞かせた。そんな気分になったから。読んだ本はあたしの自伝。

 突然、サヴィチは顔を顰めた。本の終盤の出来事だった。


『読み聞かせてくれて有り難いんだけどよ、何だ、その、悪いんだが、これ何も始まんねぇ書物だな。結局何が言いたいんだ?』


 普通に捉えれば悪口にしかなっていないけど、あたしには違った。そんなことを素直に口にできるなんて素晴らしいと思ったんだ。だからこそ、そんなことを言ってきたサヴィチのことが気になってしまったんだ。


――的なことがあったんだよ」

「……」

「……」

「……」


 誰もかける言葉が見当たらない。サヴィチが沈黙を破る。


「よしっ。本題に入ろう」


 全員が賛同する。


「今回の作戦は成功すると思うか?」





 キャニバルのところに通い詰めて、どれ程が経ったのだろう。日本では女性の元に百日間通ったなら結婚できると言われているが、この世界では二百日間らしい。


 キャニバルのところに通い詰めて、どれ程が経ったのだろう。人肉食を目にした次の日から、毎日通っては、剣を振る。そのたびにキャニバルは話しかけてくる。理想について。俺は毒されていた。いや、洗脳の類か。


 キャニバルのところに通い詰めて、百九十九日目を迎えたようだ。エスキモーに冷やかされた。我に返ると、今の理想の剣士がキャニバルの理想に近づいていた。洗脳の賜物だな。今ではアイツの好みの(せんし)になってもいいかもなんて思える。明日には突入の日だ。二百日目は行けるのか分からんな。





 汗が目に入り、夕方になっていたことに気付いた。プラダーは腰に巻いていた手拭いを顔に押し当てる。


「……昼食ってないや」


 囁きを一つ零すと、顔を上げた。


 翳る日暮れにふと向かう眼差しの先、言葉をなくした景色の中に貴方はいた。家族や友人、仲間の温かさに笑みを貰っても、貴方を思い出してしまう。稽古だって欠かさずしている。涙だけは流すなという貴方の教えに逆らいそうになり、ひたすらにただひたすらに夜空を見上げた。

 あれから、貴方が急逝してから幾つの年を重ねただろう。貴方はもういないのに、貴方と手合わせをする夢を何度見ただろう。今でも到底敵わない。敵う光景が浮かばない。

 貴方を忘れられず、今日も苦しみ、貴方を忘れないために、今日も剣を振るう。


 今はまだ、この苦しみさえ、好ましい。





「レタ」


 ヴィクターの呼びかけにレタが顔を上げる。


「明日は留守番してくれないか」


 レタは少し、ほんとに少しだけ落ち込んだように見せ頷く。


「ワカッタ」





「ラサレイド」


 ダイハードの声に何かの期待を寄せ、ラサレイドは顔を向ける。


「明日は留守番をしている」

「えぇ~~~」


 ラサレイドは抗議の声を上げるが、本気で抗議をする気はない。何故なら、ダイハードは頑固者だということをラサレイドは分かっているからだ。





「おい、シュド」


 サヴィチは話し合いを終えると、シュドの元を訪ねた。

 シュドはアドーラブルと同衾していたが、体勢を変えずに応答する。


「何だい、サヴィチ」

「あぁ、あぁ、その女は?」

「アドーラブル。可愛らしい少女だろ?」

「流動的な筋肉をしていて好感を持てるが、その媚びるような目は嫌いだ」


 アドーラブルはサヴィチを睨みつけて舌を出す。


「そういえばサヴィチは自分より強い女が好みだったな。アドーラブルでは無理か」


 シュドは納得をして、アドーラブルの頭を慰めるように優しく撫でる。


「それで? 本題は?」

「セイヂの暴走は止められねぇのかよ」

「まぁ、それがこの国の在り方だからね」


 シュドは初めてサヴィチの顔を見る。


「不満か?」

「セイヂのやり方じゃ、この戦い負けるぞ。オイスター達もそう思っていて、従う気もあんまりねぇみたいだぞ」

「まだ”気”はあるか」

「あるぜ。終わったら隠居な」

「成る程ね」


 シュドはうんうんと頷く。


「シュド、お前は構えてりゃいい。ヤンチャし過ぎだぜ」

「僕もお前も愚者だ。勇はあるが愚者だ。お前と伴に歩けて良かった。愚者で良かった」








 それぞれの一日が終わる。

 それぞれの朝が来る。

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