18.パイクは親父との因縁を断ち切るために、好きな女性のことを差し置いて戦いに挑んでいく
その頃、城に二組が入ってきた。二組のうち一組は一団を殺し終え、ご満悦な魔王。もう一組は、
「さっさと連れ戻して帰るぞ」
ブローンとセイバーとエイリアスの3人である。
ブローンは右の、セイバーとエイリアスの左の扉へ入っていく。
時は昨日、ブローンはホーリーに言われたことがあった。
言葉にしてしまえば単純に聞こえる忠告、それはエイリアスに気を付けろというものだ。
根拠は兵舎内での不穏な動き。どこか弱みや癖を探るように団員を見ていたというのだ。ブローンもそんなことを感じたことがあったので、すんなりと受け入れられた。もしかしたら偽名かもしれないとも言われた気がするが、調べていない。
あの2人を一緒にしてよかっただろうか?
筋骨逞しい男は悩みを振り落とすように頭を振り、扉に手を掛けた。
目の前に広がる、腐臭と腐肉の光景に顔を歪めながら、目を逸らして奥に歩いていく。
奥にいるのはグラディエイタ。正確にはグラディエイタの後ろの方へ。青白磁色の右手に刀を持った、血まみれの男がそこにいた。
ブローンが辿り着く前に青白磁色の男がズルリと倒れた。
「生かすにしても殺すにしても、ちゃんと堕としておけ」
「お、おう」
目をぱちくりさせている。何でここにいるんだ? という感情がありありと窺える。
「勝手に行動している馬鹿な阿呆どもを連れ戻しに来たんだよ」
ブローンの顔は笑っているが、声が怒っている。1時間はお説教時間があるだろう。確信してしまったグラディエイタは話を逸らす。
「そこに扉あるけどどうする?」
「……ちょっと見ていくか」
好奇心に負けたブローンが扉に手を掛ける。
「……」
「……」
汗が滝のように流れ落ちる。
あ、開かない……。
「……帰るぞ」
「……あい」
ブローンの後ろを、肩を落として付いて行く。
「鍵がかかっているところ多すぎだろ」
鋼を幾度と交えていく。
「親父ぁ! 何で魔王軍にいやがる! いや、それより何で剣を持っている。何で槍を捨てた!」
口を開かない。
「親父はぁオレに、オレを、オレ”達”を裏切るのか!?」
「これは裏切りではない。愛だ」
ようやく開いた口から出た言葉に、パイクの眼が丸くなる。その一瞬の隙に、ファイタがパイクを蹴る。
「がっかりさせるなよ、息子よ」
袈裟掛けに切り捨てようとする。
キンッ!
甲高い音が響く。
庇われた。
腰まである刈安色の髪をはためかせ、間に細剣を差し込み、ファイタの剣を止めた。
「面倒だけど、助けに来たわ」
「セイバーさん」
ファイタは邪魔者を睨みつける。
「邪魔だ、女」
「聞けないお願いね」
「セイバーさん、退いて下さい」
セイバーの眉がピクリと動く。剣を重ねたままパイクに問う。
「パイク?」
「いつもみたいな格好つけだと思われても仕方ありませんね。実際それでも構いません。しかし、これはセイバーさんの入っていい戦いじゃない。これは善悪の戦いではありません。家族の戦いなのです。だからこそ、オレは引けないんです」
「その通りだ」
セイバーは、相手の剣が離れていくのをじっと見つめる。今細剣を振れば致命を入れられる。しかし、瞑目して見ていないふりをした。
「…………そう」
セイバーは細剣を収め、後ろに下がる。
「セイバーさんのおかげで心を落ちかせることができました。ありがとうございます。ところで、親父。親父の愛、歪んでねぇか?」
「舐犢の何が悪い。そして、これは愛であり、また負託なのだ」
「負託だと?」
「そうだっ! 私の! 成し遂げられなかった夢を! お前が! 息子であるお前が! 達成するのだ!」
唾を飛ばし弁ずる。
「お前は甘い。その甘さは優しさと言えば聞こえはいいが、重要な場面でもその甘さが出れば、それは弱みとなる。その甘さを払拭せねばならん。だからこそ、ここに私がいるのだ」
セイバーは眉を顰め、パイクの方を向く。
パイクはそれに気付くと困ったような顔をする。
「そんな顔されても困ります。俺もよく分かっていないので」
セイバーは顔を歪ませる。
「凄い執念ね」
「その通りだ! 信念、そう信念なのだ! 信念は私を、成功へと導く。信念は私を裕福にする! 信念は私を強くする!!」
ファイタは拳を握り熱弁する。
「十分な信念さえあれば死さえ誤魔化すことができる。お前が私を救済してくれるのだ。私が愛の犠牲者になるのだ。お前は私の屍を超え、強くなるのだ!」
「理解できねぇ」
「同感」
ファイタは肩を落とし、短く息をする。
「この美しくも愚かしい考え方は、お前等に理解しろとは思わない。ただ、つきあってもらうぞ。豎豆なお前を成熟させる戦いに!」
ファイタは地を蹴る。
パイクは焦り散らし、ファイタの剣戟を紙一重で防いでいく。
ファイタは刀で槍を弾き飛ばし、パイクの開いた顔面を殴る。
セイバーは愁眉を浮かべ、行く末を見守る。
砕かれた骨部を押さえながらファイタを睨む。
喘鳴を吐きながら、左手で槍を構え、ファイタを真っ直ぐ見据える。
ファイタがぴったりと動きを止める。
「良い目をしている。心に巣食っていた魔縁が消えたか」
ファイタが刀を構え直す。
「肉に喰らいつく犬のように従うだけでは真の槍士には成れん。刀の私に勝ち、槍の私を超え、槍の己に打ち勝て! 親を殺して、精強とし、槍師と成るのだ!」
炎のような赤と血のような赤が再び鋼を交えていく。
やはり分からない。
舐犢とはここまでいくものなのか。
私は物心ついた時にはすでに両親は亡くなっていた。だから親の愛というものが分からない。
アクスさんやブローン団長に育てられたため、育ての親になるのだが、全員が一歩引いたやり取りをしていた。
私は愛に飢えているのだろうか。
ファイタは私から見ても精錬されており、パイクの発言がなければ槍使いであるということすら分からなかっただろう。
そして、彼は先程”刀の私に勝ち、槍の私を超え”と言っていた。なぜ、刀で戦っているのかは不明だが、槍でも戦うのだろうか。
パイクの槍がファイタの刀の下に滑り込まされ、刀を弾き飛ばす。
大きく仰け反るファイタを石突で突き飛ばす。
「かはっ!」
ファイタはお腹を押さえ悶える。
飛ばされた刀はクルクルと空中を舞い、ファイタの左足に突き刺さる。
ファイタは痛みを我慢し、刀を引き抜く。
炎のように赤い髪の青年は槍を腰に溜める。
血のように赤い髪の老兵は刀を両手で持つように構え直す。
ゆるゆると戦いは終焉へと向かっていく。




