16.いらないことをする奴しかいない仲間は結構多いため、その長であるブローンは毎日頭を抱えている
「ラサレイド」
「リムボウ」
寝返った2人が見つめあう。どこか気まずそうに汗を流していたり、髪をいじっていたりしている。
それを、少し離れたところでヴィクターとダイハードとエイリアスが見守っている。いつでも飛び出せるように少し前傾姿勢をとっていた。
「あの2人何してんの? っていうか誰?」
エイリアスは2人を初めて見るため、見守り方が少し違う。ヴィクターとダイハードがエイリアスのことを見ずに答える。
「ラサレイドっていう切り裂き魔と、リムボウっていうかレタっていうか、まぁ、レタでいいか。レタっていう魔術師。同じ元魔王軍の対談」
「お互い興味なさそう、いや、気まずそうにしているけど。ラサレイドって呼ばれた方に関しては欠伸してんだけど。この対談って何目的なわけ?」
「対談させれば、お互い懐かしんで魔王軍のこと離さないかなって」
「尋問しろよ」
おじさん2人の目的をエイリアスはバッサリと斬った。その絶対零度の視線に一切の反応を見せずに、対談を見つめている。
「その前に仲良くたって無理でしょ。話す内容って、魔王軍のことじゃなくて私的事物でしょ」
「外したか」
「大外しよ」
「もうちょっと粘れば」
「あたし進展しないほうに6万ビー。てなわけであたしは部屋に戻るね」
エイリアスは手をひらひら振りながら、部屋に向かって歩き出した。
エイリアスは基本的に兵舎の人達のある程度の動向や習慣を覚えている。
今の時間であれば大抵の人が暇をしている。
ブローンやケインは責務が多くあるため、多忙を極めている。暇な時間などないだろう。新人3人は用事があるとかで、今日は街に繰り出しているはずだ。後の者は武具の手入れや散歩をしている。
ホーリーは最近どこかに出かけている。毎日のようにいなくなっているので女だろうか。無粋なことはしたくないので、聞くことはしない。
パイクはセイバーにエエカッコ見せたいためか、セイバーの見やすい場所で槍の修行をしている。めちゃくちゃ不純な動機だが、強くなれるなら、まぁ……いいか。
中庭には街に朝早くに出かけたはずのプラダーが、一心不乱に木剣を振っていた。10分くらい前に帰ってきていた。まだ午前中なのだが、どこに行っていたのだろうか。剣を振るプラダーの目には光がない。どこを見ているのか皆目見当がつかない。その姿が怖いため、アベイト以外の者は誰も話しかけようとしない。エイリアスも例外ではない。
エイリアスはプラダーを尻目に通り過ぎ、パイクがいるであろう広場に向かう。しかし、いない。
エイリアスは可能性のある丘に向かうと、そっちにはきちんといた。その丘はかつて砦が築かれていた遺跡がある。背の高かったであろう壁は崩れ去り、今では腰掛けるのにちょうどいい高さの瓦礫と化している。時折、かくれんぼをしている子供を見かける。
パイクは無駄にかっこいい技をやっている。やはりエエカッコしたいのだろう。セイバーは気付いているが、無視している。
瓦礫の一つに腰掛け、パイクに目線を送る。パイクは1分と待たずにこちらに気付き、小走りで寄ってきた。落胆している。悪かったな、セイバーじゃなくて。
「どうかしたんですか、エイリアスさん」
「あぁ、超重大なことだ」
エイリアスの雰囲気に当てられ、パイクは即座に真剣な顔になる。
「重大なこと?」
「……超暇だ」
「……は?」
「休みの日ってよ、いつも何すっか悩むんだよなぁ。もちろん、弓の練習はするよ。でも、それだけだと飽きてくんじゃん」
「今、こんな状況でそれ言いますか?」
パイクは呆れた様子でエイリアスを見ている。エイリアスの真剣な表情に加え、奇妙な重さの乗っている言葉に、パイクはどうにもできなくなっていた。
「だって事実なんだもん」
「怠けると死にますよ。いざという時に」
「だってだって~~」
「駄々っ子ですか、まったく」
エイリアスは手足をバタバタと動かしながら、主張を繰り返す。
「あたしの本来の得物は弓じゃないし」←小声&早口
「何か言いました?」
「文句!」
パイクの立場は駄々っ子をあやす父のようになっていた。だんだんこの上司が嫌いになりそうだ。
「そういえば、パイクって槍術を誰に習ったの?」
「……親父です。昔、オレがまだ弱い1桁だった頃、母の話では親父がオレに槍を持たせていたそうですよ。オレが覚えているのは、10歳の誕生日に親父が槍術を教えてくれたことです」
エイリアスが自身の顎を撫でる。
「お父さんって、槍の名手か何か?」
「らしいですよ。母曰く、槍術を極めた人なんて呼ばれていたみたいですし」
「あたし知らないんですけど」
「オレもです」
2人で一頻り笑う。
パイクは再び悲しそうな顔をした。
「今から7,8年前くらいです。オレの17の誕生日の夜、親父が失踪しました。最初は帰りが遅いだけとか、仕事なんだろうとか思い込ませていましたが、親父は結局帰らずじまいでした」
「会いてェか?」
「思いますね。会って、オレの槍技見せて、アンタに教え込まれたこと、ここまで昇華させてやったぜって、言ってやりたいんです」
「……会えるといいな」
「はい」
尻を叩きながら立ち上がり、パイクに別れを告げた。後頭部で指を組みながら空を見上げる。
「会えるだろうけど、言えるかなぁ、あの台詞」
「おう、エイリアス」
声を掛けられた方に顔を向けると、赤銅色の青年が歩いてきた。
「どうしたの、グラディエイタ」
「うんにゃ。そこにいたから声を掛けただけ」
挨拶だよ挨拶、とエイリアスの背を叩いて、頭を雑に撫でる。
「どっか行ってたのか? 出掛け用の服なんて着て」
「あぁ、パイクのとこだよ。っていうか早く手をどかせよ、首が取れるだろ!」
「何だ。セイバーから寝取ろうってか?ハッハッハッ」
快活に笑い飛ばすグラディエイタを、首を痛めたエイリアスが睨む。
「パイクっていえば、エイリアスの目から見て強いと思うか?」
「潰すとブローンに怒られるよ」
「戦いを挑もうなんて、少ししか考えてねぇよ。魔王軍とどれだけ戦えんのかなって話だよ」
ニヤニヤと笑っているグラディエイタを殴ってやりたい。
「さぁ、遅れはしないんじゃない」
「そっかそっか。じゃあ、パイクを連れて、魔王城に勝ち込みにでも行って確かめてやるかな」
「あ~~。ブローンに1ビー剥げができるね。御愁傷様」
「いた、いた」
冗談ではなく、本気で勝ち込みに行こうとしているグラディエイタは、パイクを見つけて気分を上げる。
「パイク」
「グラディエイタさん?」
「合ってる合ってる。あとさん付けは必要ねェ。っつーことでパイク、今から魔王城に行くぞ。勝ちこみだ」
「は? はぁ!? どういう、え!?」
「決定事項だ。行くぞ!」
文句など聞き入れてもらえるはずがなく。近くにいたセイバーは何も言わずに、小さく、いってらー、と送り出した。




