12.両者の準備が完了したので、総力戦のための前哨戦として人間をかなりの火力で燃やしました
先程、善神会議が終わった。十二神将と四天王が出席する会議だ。
サヴィヂはセイヂから書類を受け取った。前の会議でセイヂが言っていた、戦うべき相手について、だ。情報は力だという点は、サヴィヂもセイヂも一致しており、快諾したのだが、ここで一つ問題が生じていた。
サヴィヂは文字が読めない。
幼少期からの英才教育によって、戦闘能力は限りなく高いのだが、文字が読めない。典型的な戦闘馬鹿になった。そんなサヴィヂは書類が読めず、四苦八苦していた。
すると、扉の隙間から。ひょっこりとこちらを覗こうとする影があった。
(嘘だろ、オレ。気付けないくらい、この紙に悩まされていたのか)
覗く影の位置から、小柄な女性と判断した。パピティアかアモウスかパームか。頭髪の色から、パームと判断した。
パームだと分かった瞬間に安堵したのは、きっとこいつに毒されてしまったからだろう。
いつもなら絡みがウザいので邪険に扱うが、今だけは有り難い。
「おい、パーム、ちょっと」
手でちょいちょいと招くと、とても嬉しそうに近づいてきた。そして後ろから思い切り抱き着き、左肩から顔を出し、頬擦りをしてきた。
いつもなら、左の裏拳で顔面一発なところだが、依頼の前払いだと考え、ぐっと我慢する。
「パーム。これ読んでくれ」
「?」
「オレは文字が読めねェ。これ知ってんのは他にシュドだけだ。誰にも言うなよ」
(全力で頷いているが、これ信用できんのか?)
2人の秘密と呟くパームは、正に至上の喜びを嚙み締めていたが、ようやく正気(さっきから正気)に戻り、差し出される書類を受け取った。
「赤銅しょ」
「囁くな!気色悪い!」
耳元で蠱惑的に囁きだした。パームに一喝入れると、パームは唇を尖らせて猛抗議した。パームに対する対処法を知っているサヴィヂには、この状況は容易い。
「耳元で囁かれると、お前に集中しちまって、話が入ってこねぇだろぉ」
少女が嬉しそうに離れていく。
「えー、ごほん。そんじゃ、いきます」
わざとらしく咳払いをする。
「赤銅色の拳闘士、グラディエイタについて」
顔の彫りが深い彼は、いるだけで周りを震えさせた。
筋骨逞しい彼は、いるだけで格闘家を自然と構えさせた。
無口かつ背中で語る系の彼は、いるだけで畏友を集めていった。
剣士とも魔法使いとも取れる格好をした彼は、武器を携帯しているのを見られたことがないため、格闘家だと思われる。
赤茶色の髪を風に孕ませ、屋敷もとい魔王城を一点に見つめ、悠然と佇む彼の名前はオーバン。
服を押し上げる程の筋肉を有し、鋭い眼光を持つ。そんな彼は由緒正しき魔法使いである。
迫撃砲を見ていたが、構造が全く分からない。
「人が減って、撃ちづらくなったところを襲撃するのが、一番か」
今日も一人、悠然と佇む。
ホーリーは日課の素振りを済ませ、兵舎の扉に手をかける。大広間には2人の人影があった。
一人は革張りの長椅子に座り、手紙を黙読し、熟考しているトマホーク。
もう一人は、そんなトマホークに膝枕をされ、髪を梳かれて、満足げにしているラント。
百合百合しい光景に数瞬固まるが、顔を振って気を取り戻す。
「トマホークさん、どうしたんですか?そんなに難しそうな顔をして」
声をかけられて、初めてホーリーの存在に気付いたのか、肩をビクつかせた。
「ホーリーか。んー、実家から手紙が届いてさ。父さんが倒れたーって。言外に帰ってこいって言ってんだろうけどさ、何日間私が抜けても大丈夫なのかな、この状況でさ」
帰らないという選択肢がないのは、トマホークの持つ優しさだろう。
「団長に判断を仰がなければ、オレには判断しかねますね。ただ、立ち塞がる最難関はラントさんでしょうね」
「確かにね」
「行ーかーなーいーでー。トマホークー」
しっかりと腰にしがみつくラントを見て、苦笑した。
「お父さんはどんな方なんですか?」
トマホークがラントの頭を撫でながら答える。
「父さんはね、面倒な人だよ。アクスって名前なんだけど、知らない?」
「いえ、知らないですね。有名な方なんですか?」
「父さんはね、ここの元団長なんだよ。ブローンは直属の部下じゃなかったかな?今でも頭が上がらないって言ってたよ、ブローンの奴。不満をネチネチいう感じ」
そりゃ嫌われるだろう人ですね、なんて娘の前で言えない。
「だから、行かないと言うし、滞在が短くても言う」
「団長に相談ですね」
間髪入れずに責任を丸投げする。
トマホーク、ホーリー、ラントはブローンの執務室へ向かう。扉を遠慮なしに開けると、中にはブローンのほかにケインがいた。先程の会話を聞かせる。
「3日で良い。……良くない?」
「駄目じゃないですか?」
「5日、5日でいこう」
ブローンとケインは焦った。そして、妥協案として5日間の規制を提案した。
トマホークは報告直後、出発した。最初から行く気だったためか、準備はしていたようだ。ラントが嗚咽交じりに泣いている。
そして、見送った直後、パイクと合流した。
「あの馬車、誰が乗ってんだ?」
「トマホークさん」
「何処に行ったんだ?」
「帰省だよ。親父さんが倒れたんだってさ」
パイクの顔が曇る。
「親父さん、何か……あったのか?」
「トマホークさん曰く、娘の顔が見たいだけじゃないかって」
「……そうか」
「?」
「何でもねーよ」
吐き捨てるように言うと、パイクは私室に向かっていった。
「っ!?頭含めて10人!今だ!!」
風呂やら食事やら、睡眠の交代やらで残り自分を含めて10人になった。
4人を追い越し、遠目に馬が2人を乗せ、並走する1人見えた日から、何もないまま3日目となった。
警戒が薄れ、緊張が解けかけ、油断したその時、火が落ちてきた。
「グゥアッ!?フェアブレンネンかっ!?」
「否。ブレンネンなり」
返答を期待していない疑問に応答があり、さらに、予想よりも格下の魔法名に絶望の一歩手前に突き落とされる。
「フンケ!」
顔を向ける前に、火砲と見紛う程の火花に圧倒される。
9人の兵士の姿は見えない。耐えられるとは思っていない。
地面と擦れたことで、顔や体の肌が色落ちしていく。
足音から、離れていた残りの兵士が向かってきていることに気付いた。モータはその者達に迫撃砲の準備をさせる。こうしている間にも、火花が放たれている。詩が聞こえない。いつ詠唱している?
嫌な汗が噴き出す。しかし、勝利は確信している。何せ俺は漆喰なんだから。
ブレンネンとフンケにより、迫撃砲とその部隊は殲滅させた。
「ふむ。全滅したか」
オーバンが立ち去った後、しばらくして1人の影が立ち上がる。
「自分の力を過信して、死体を確認しない馬鹿め」
男は全身真っ白な裸体のまま、屋敷へ避難する。
「くそっ!迫撃砲は全滅かよ」
煙が昇る。
オーバンとブローンの間で決められていた約束、煙が昇ったら、突撃の合図。
煙の目視をしたブローンは、号令を出す。
「全員、行くぞ!」
「応っ!」
途中の森でオーバンと合流し、屋敷に向かう。オーバンに聞くと、未だ動きがないらしい。いっそ、奇妙な程に。
人肉の焼ける異臭に鼻を歪めながら、横を通る。まだ煙が昇っており、一部の人間はまだ燃えている。一切足を止めることなく、緩めることすらなく屋敷に入っていく。
大広間の左側の廊下に躊躇なく入ろうとした時、物音がした。後ろから。
誰が振り返ろうとする中、ブローンの声がそれを制した。
「アベイト、ヴィクター、オーバン、セイバー。4人は先へ行け。残りは殿だ。異論は認めん。行け」
いっそ冷酷なまでに、冷徹なまでに、感情の起伏のない声に全員が従う。
「オうや?お前ラはあノ時の筋骨隆々ト白髪の餓鬼ト樺茶髪の餓鬼ジャないか」
中途半端に肌色を見せる、白い人型がそこにいた。
「あの時の石火矢野郎か?」
ブローンが困惑した声を出す。もちろん他の皆も困惑している。
抑こいつは名乗っていない。名乗っていないため、どういう敵なのかの分析ができていない。
「剣は苦手ナンだがナ」
緩慢な動きで剣を抜く。
「<鸞鏡>(夷則)モータ。いざ、参ラン」




