11.キャニバル達の食事風景はおそらく誰が見ても恐怖を抱き、戦慄するものとなっていることだろう
ダイハード達が屋敷に着いた頃、エンチャントレスによって計画がバラされていた。
「迎えに行くぞ」
ブローンの声に怒気が籠る。エンチャントレスは息を呑んだ。こんなブローンは初めて見た。
エンチャントレスは未だに謹慎の監督という立場があったので、ついていくことができない。ブローンとホーリーとライダーとスクワイア、アベイトが参加することとなった。ライダーは馬に乗っているため、余分な回復道具と予備の武器を積んできてもらうことになり、少し遅れて合流することになった。
道すがら、ブローンは深く考える。
(おそらくダイハード達が勝手な行動をしたのは、私が原因だろう。ダイハードはここまでの行動をしようとしない。あれはあれで仲間の輪というものを大事にするからな。ビゴトのほうが原因か)
アベイトは少しがっかりしながら考える。
(プラダー君がいない。私、一目惚れしちゃったな。初恋だよ、もう。早く迎えに行って、早く帰りたいな)
ホーリーはげんなりとしながら考える。
(オレって巻き込まれ体質なのかな?偶然、外に出ようとしたら何かの作戦会議をしていて、その横を通ろうとしたらブローンに捕まって『行くぞ』って。疲れるなぁ)
スクワイアは表情を硬くしながら考える。
(見習い騎士として、皆さんのお役に立てるように頑張らなくてはいけない。私にできることはあくまでも補助。足を引っ張らないように気を張らねば)
各々は想いを胸に戦場へと向かう。
頑固者2人がそれぞれの部屋に分かれて入った時、十二律の1人、モータが前庭に現れた。彼は周りに二十数名の衛兵を引き連れて、あたりを見渡す。
「敵はいないな。それじゃあ、準備に取り掛かれ」
「はい!」
ゴロゴロと低く重い音が響く。黒い筒状の物が運び込まれていく。それを見ながらモータは呟いた。
「セイヂ様の期待に応えなくてはな」
準備中に敵が現れた。監視役をしていた兵が4人程近づいてきて報告してきた。モータはご苦労と伝えると、腰に手を当てて溜息を吐いた。
「まだ、準備が整っていないのにな」
モータは準備が整うまでの時間稼ぎのために、剣による迎撃を指示する。
「来いよ。漆喰で塗り固めてやる」
容器を持って凄むモータに胡乱な目が集中する。敵からも味方からも。
筋骨隆々逞しい男が抜剣し、何やら指示を飛ばしている。それに合わせて、白髪と樺茶髪が横に跳び、女を背に隠した扇形の陣形が完成する。
成る程とモータは考える。おそらく隠した女はかなり重要な役割を担っているな。そこで、瞬時に判断すると号令をかける。
「数で押し切るぞ!かかれ!」
「「「「ウオオオオオオオオオオオ」」」」
敵の男3人に対して、それぞれに3人以上で押さえる。一撃で陣が崩れると思っていないので、一定の間合いをとって、動きを封じる方向で動く。
(こっちは時間稼ぎだ。準備ができ次第合図を送れ。退避する)
モータは観測手に眴する。観測手は『準備しているもの』の後ろに立ち、敵に向ける。
「目標北北東、片腕の石像、距離32、射角60」
観測手はモータに合図を送る。目視していないが感じ取ったモータは号令を出す。
「退避、退避~~~~~~!」
筋骨逞しい男は怪訝な顔をした。全員が退避する頃には、照準手が告げる。
「照準よし」
モータはにやりと笑った。
筋骨逞しい男は目を見開いた。白髪の男は歯噛みする。金春色の女は頭を抱えて身を低くした。樺茶髪の男は何が起こるのか分からないという風な顔をする。
無慈悲に、残酷に、戦いを終わらせる号令がとぶ。
「撃て!!」
迫撃砲がうねりを上げる。轟音を放ち、地を爆破し、戦場を蹂躙していく。
「走れぇえええ!!」
敵の声が砲撃音に掻き消える。
固定した状態ならば5秒に1発は撃てる迫撃砲が、7台もあるため、絶え間なく砲撃が鳴り響く。4人の敵がばらばらに散って逃げていく。モータはそれを見届け、左腕を水平に伸ばした。
「撃ち方止め」
モータは射手のほうに向き直る。
「残弾は?」
「2です」「2です」「2です」「2です」「0です」
「補充に行くぞ」
「前庭がボコボコなんだけど」
「モータかな?」
「何か分かるのか?」
「分かるけど分かんないから尋問を、いや、拷問をして、ね?」
「教えろ」←静かに威圧しながら縄をきつくしている。
「ハァハァ、おそらくモータですぅ。弾の補充で今はいないと思われますねぇ。人数は約30人かと~。話したから、もっとご褒美を~~」
オレは走った。ひたすらに走った。我武者羅に走った。
肺が焼ける。身体が燃える。喉が枯れる。
降り始めた淫雨に身体を打たれるが、熱が冷めない。喉も潤わない。肺も鎮火されない。
いつの間にかオレは翠巒を走っていたが、気付けない。
有り得ない。それに思考が支配されていた。
有り得ない。
有り得てはいけない。
何が?
重火器が、だ。
魔法が発展し、剣が主体の戦争で、主な足役は馬。そんな世界に、火器の入る、科学の入っている隙間はない。発達する動機がない筈だ。
ぬかるんだ山道を走っていた足が、道を踏み外した。身体が沈んで、体勢を崩す。
崖。
体の向かう先は崖だ。下が見えているが、落ちる勇気などない。咄嗟に左手が木の枝を掴む。
しかし、世界は嘲笑する。
枝が折れた。思考に空白が生じる。その空白が命取りだった。速度を落とすことができず、真っ逆さまに落ちる。ギリギリで受け身をとったが、意味はあったのだろうか。辛うじて頭を守れたが、背中や腰には動けない程の痛みが走った。
「死んで…たまる……か……」
痛みに耐えながら生き汚く、這いずり始める。
「オレは……戦いの中で……死……にたいんだ。そ…のために……鍛えた……んだ」
木に寄りかかりながら、立ち上がる。よろめきながら、木々を縫うように歩く。
「おにーさん?なーにしてるのー?」
声をかけてきたのは、赤毛の少女だった。
まさか、こんなところでカプリースに出会えるとは思わなかった。治療ができる場所に案内してくれるのだそうだ。有難い。
ただ、なぜ手を繋がせてくるのだろうか。抑、オレの脚力に不安を感じているのならば、肩を貸してくれればいいのだが。
カプリースは時々こちらを振り返る。振り返る度に満面の笑みを見せてくる。和む。和むのだが、引っ張る力が意外に強く、足腰が痛むので辛い。
カプリースが一点を指さした。着いたのだろうか。カプリースの指の先の光景に目を奪われた。
2人の少女がいた。
片や髪を纏め上げ、何かの生肉を食べる少女。
片や髪を腐肉に染め、人体のどこかの部位を毟り喰らう少女。
戦慄の感情を抱かせる光景を前に、オレは微動だにできない。白銀の少女、キャニバルは口に含み、咀嚼していた人肉を嚥下する。
「この場面はあまり見せたくなかったです。ところで、何でホーリーは笑っているんですか?」
「は、え?」
笑っている?
この場面で?
オレが?
何で?
分からない。
解らない。
判らない。
しかし、言われて初めて気付いた、自分の表情は笑っている。嗤っている。
恐怖が抱いている。
戦慄だってしている。
ならば、なぜ自分は嗤っている?
きっと。
それは。
「肯定、されたから」
キャニバルとエスキモーは眉を顰めた。
「自分の考えが、肯定されたから」
おそらく、高揚したからだ。
「報われたのなら、救われたのならよかったね」
初めて会って、話した人。キャニバルとは人肉主義の意。疑念はあった。好奇もあった。邂逅を望んだ。再開を拒んだ。確かめたいと思った。可能性に留めたいと思った。
希望と失望の2つを含む再会を経て、狂おしいほどの歓喜が、圧倒的なまでの恐怖が、暴力的なまでの興奮が決河の如く奔流し、心を飲み込み、面には滂沱の涙として現れた。
治療を受けつつ、これまでのことを話す。すると、キャニバルは優しく頭を胸に引き寄せた。
「貴方は運命って感じますか?」
運命を信じるか。
そんな語りだしで、キャニバルはエスキモーやカプリースとの馴れ初めを話す。ブローンとの関係を話す。人肉食をしている理由について話す。そしてもう一度冒頭に戻ってくる。
「運命って信じますか?」
「私は、あまり感じませんね」
「私は感じます」
熱の籠った声になる。潤む目が見える。
「私は貴方に声をかけた。何で貴方に声をかけようと思ったのか解りません。でも、声を掛けました。私はそれは運命によるものだと思っています。ちょうどその時に見た貴方は輝いて見えました」
恋する乙女のような顔で語る。
「ブローンに死体を持ってきてもらうのではなく、自分で好みの死体を育てるということをしてみたかったのです。そこで貴方に出会った」
少し申し訳なさそうにする。
「私は貴方を私の大好きで最高の状態の死体で食べたい。駄目ですか?」
上目遣いでお願いしてくる。ホーリーは一切流されることなく、はっきりとした意志でもって返した。
「嫌です」
その後、ホーリーはエスキモーに兵舎まで送ってもらった。




