前編
深夜、僕たち2人はある場所の都市伝説を信じて月あかりもない山の中を歩いている。もう、何時間も。
その場所は「樹海のミステリーサークル」と呼ばれている。
登っているこの山には下から見ると円形で草すら生えていない異様な場所がある。
深夜に訪れると、どんな願いでも叶うらしい。
僕はこんな都市伝説を信じないが、一緒にいるこいつはそうじゃない。
なんでも、この都市伝説を元ネタにした映画を観てえらく感動したらしく、映画の背景を調べてまくって、この場所と都市伝説の事を知ったらしい。
まったくどこでこんな情報仕入れたんだか。
それから、聖地巡礼だの、この事を知ってるのは俺たちだけだの会うたびに話題にしてくるし流石にしつこいから講義の後、嫌々付き合うことにした。
同じ学部のマニアックな映画好きで友達になったがここまでとは思っていなかった。
少なくとも、今は友達になったことをものすごく後悔している。
「もう、何時間も歩いてるけど、遭難してないだろうな、僕たち」
「遭難してねーよ!もう、すぐ着く。たぶん…」
「たぶんって、大体あの都市伝説がホントだったとして何を叶えたいんだよ、お前」
「もちろん、世界平和に決まってんだろー、俺世界一優しい人間だしさ」
「よく言うよ。どうせ本当は金持ちになりたいとか、彼女が欲しいとかだろ」
「ばれたか!じゃあ、お返しにお前の願いを当ててやるよ。別れた彼女ともう一回やり直したいだろ?」
「うるせえ…ん?あれ見て見ろよ」
森の中に草すら生えていない明らかに異様な場所が見えた。
間違いない僕たちが目指していた場所「樹海のミステリーサークル」だ。
僕たちはとりあえずその場所で腰を下ろして休憩した。
しかし、不気味な場所だ。
ここだけ、本当に何も生えていない。虫すら飛んでいない。
この場所、まさか呪われているんじゃないか?
「それで、ここで何をすれば願いが叶うんだ?」
「さあね、生贄の儀式とか?冗談だよ。
映画だと確か、新月の深夜2時に願い事をすると叶ってた。後、3分待ちかな」
まじか、そんな不確かな情報で連れてこられたのか僕は。
僕は最近、彼女と別れてただでさえ落ち込んでいるのに?
「それよりさ、なんでお前と彼女別れたの?」
「…お前に関係ないだろ。でも正直言って何が原因か分からない」
「別れるときなんか言ってた?落ち込んでるだろ話を・・・」
「もういいだろ!何なんだよ!」
こいつはいつも、そうだ!
ズケズケと僕のプライベートなことを聞き出そうとする。
「怒るなよ。だけど、そうゆうところだと思うぜ。他人に無関心な・・・。なんだ?お前、今俺の足触った?」
「急に何言ってんだよ!そんな、わけないだろ!気持ち悪い!」
「確かに誰が俺の足を引っ張ったような気がしたけどな…ちょっと、周り調べてくるわ」
幽霊とか…そんな訳ないよな。急に怖いからやめてくれ。
「あれ?おい、嘘だろ!俺の足が」
気になってライトで照らして見るとあいつの太ももから下が無い。
ちぎられた断面からは赤黒い血が吹き出し、苦しそうに地面でもがいている。
野生の動物でもいたのか?もしそうなら早く逃げないと最悪死んでしまう。
この場所から抜け出さないと。
なんだ、どうなってる?
さっきまで乾いていた地面いつの間にか沼の様になっていて足が動かせない。
しかも、そこから無数の手が出きて地面に引きずり込もうとしている。
ライトで照らして見ても暗くてよく見えない。
暗い、おかしい暗すぎる、真っ暗だ。
何も見えない、違う、僕の目玉がない。
「たすけて…」あいつの声だけが聞こえる。
もう、どうすることもできない。
体のほとんどが地面引きずり込まれ身動きが取れない。
死ぬのかこんな所で・・・訳も分からないまま。
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「おい、起きろ」
聞き覚えのある声で目を覚ました。
不思議だ。さっきまで見え無くなっていた目が見え、目の前あいつがいる。
しかも、あいつのちぎられた足も元に戻っている。
場所も変だ、地面に引きずり込まれたはずなのに今は見知らぬ家の前にいる。
状況が理解できない。
「どこなんだ、ここは?」
「ここは・・・俺もなんでここにいるか分からないけど、実家だよ。俺の」
あいつの実家の前になんでいるんだ?
「それは、ここにいる君たちの中で思いが一番強い場所を見せてるだけさ」
背後から突然、話かけられ振り返ると見知らぬ40-50代のスーツを着た男が
立っていた。
心なしか、顔はあいつに似てるような気がする。
「お前の親戚?」
「ちがう、こんな奴みたことない、誰だ?」
さらに、スーツを着た男は胡散臭い口調で話始めた。
「それも君の一番会いたい人の姿を見せてるだけさ。
混乱してるだろ、こんな目に遭って。
少しでも、リラックスしてもらうために。
それより君たちは願いを叶えに来たんだろ?願いを言ってみてよ」
あの都市伝説のことを言っているのか?
もしそうならこの男に願い事を言えば叶えてもらえるのか?
そう考えているとまるで心を読んだかの様に男はこう答えた。
「そうだね。何でも叶えてあげられるさ。
ただし、それに見合った、私からの試練を達成出来たらね。
出来なかったら・・・そんな話はしなくてもいいか。どうする挑戦する?」
どうする?と聞かれても目の前にいるこの男が誰なのか、試練ってなにをするものなのか一切分からない状況で信用できるはずがない。
だいだい,失敗した後に何が起こるが教えない事が一番怪しい。
この場所は不気味な事が起きすぎて、何か絶対にヤバい事が起きるに違いない。
男に「断る、帰らせてくれ」と言おう思った時あいつは怪しい男に
話かけた。
「何でも叶えてくれるのか?」
「もちろんそうだね。落とし物を見つけたいみたいな小さな事でもいいし
世界征服みたいな大きな事でも叶えるさ」
「じゃあ、こいつ最近、彼女と別れてさ。彼女と仲を戻してあげて欲しんだわ
ずっと落ち込んで不機嫌でさ何とかしてやれないか?」
「なんだよ!お前の事じゃなくていいのかよ。彼女ほしいとか、世界平和とか
言ってただろ」
「あんなの嘘に決まってるだろ・・・そうでもないか。
まあ、それよりお前の気晴らしのつもりで来たんだよ。
・・・だいだい、都市伝説は本当だったんだそれを知れただけでも興奮するだろ!
あの映画みたいでさ!」
「そっか・・・嬉しいけどそこら辺は相変わらずだな」
「そこら辺ってどの辺だよ!心配してやってるのにさ」
言い争いをしていると話に割り込んで笑いながら男はこう言った。
「そうか、そうか君は友達思いだね。そんな君に免じて簡単な試練にしてあげるよ。
君はこの場所から一歩も移動しちゃいけない。私が戻るまでね。
それで叶えてあげるよ」
いったいどれだけの時間を待てばいいんだ?と聞こうとしたが、すぐに男は目の前の家の玄関を開けて奥に行ってしまった。
あいつの方を見てみるとまだ何も起きておらず一歩も動いていない様だった。
とりあえず、声をかけてみた。
「大丈夫か?この場所来てから奇妙な事ばっかり起きてるからさ。
あいつの言っている事も信用できなし何か騙されてないか?」
「大丈夫だって、何も起きて無いよ。たしか映画でも試練を達成、出来たら願いが
叶うはずだった。もっと理不尽で達成不可能なような事だった気がするけど。
動かないでいるだけなら、別に難しくないだろ」
「動かないでいるだけって言っても何時間待たされるかによるだろ。一日か、一年か」
「いや、一年はないだろ。心配しすぎ」
「心配だろ、さっきから変な事ばっかおこってさ。ついでに聞くけどその映画では失敗すると、どうなるんだ?」
「えっと…‥たしかなんだったけ?」
「いや、僕に聞かれてもお前しかその映画見てないし」
「何だったけ?思いだせない。あれ俺なんで家の前にいるんだ?
帰った覚えないけど。それにお前もなんでここにいる、実家教えたか?」
なにいってんだこいつ、ほんの数分前の事を忘れてるのか?もの忘れが激しい方だとは思ってしたがここまでとは。とりあえず状況を説明してみる事にした。
「お前の誘いで都市伝説の場所に…」
「お前、誰?」
説明を遮る様にあいつが言い返してきた。
"お前、誰"ってたしかに友達になってから一年くらいしかたってないけど忘れるわけないだろ流石に。
まさか記憶が無くなってる?そうだとしたら、まずい動いてしまうかもしれない。
動いたらマズイ事が起こるかもしれない。
警告しておかないと。
「頼むから、その場所から動くなよ。絶対に」
「おいおい、名前を聞いてるのにいきなり命令してくる馬鹿いるか?初対面なのに?17年間生きてきて初めてだぞ」
やっぱり記憶がなくなっていってる。
俺たちは大学生のはずだ、17歳はあり得ない。
いきなり警告するのは間違えだったか余計、不信がられてしまった。
どう切り出そうか迷っているとあいつの方から声をかけてきた。
「俺の事知ってるなら、俺の名前を言ってみろよ、それくらいえるだろ。おっさん」
「おっさんって…同い年だろ。お前の名前はえっと…」
そう言えばあいつとは、映画の話ばかりしていて名前を覚えていない事に気付いた。
「いえない。じゃん、やっぱり怪しい人だね。変な人の言う事は聞いたらダメって先生、言ってたよ。家に帰るね」
「まって!今、動いたら…」
あいつ止めようとすると家の奥から足音が聞こえた。
奥の方から人影が近づいてくる間違いないあの男だ。
もう少しで願いが叶って何事もなく終わるかもしれない。
口調も変わっているしもう小学生位の記憶しかないのかもしれない。
でも何とかしないと。
そうだ、あの男を父親と言う事にしてこの場所で待ってもらおう。
「もう少しでお父さんが来て迎えに来てくれるからここで待ってればいいと思うよ」
もうこの嘘で状況をやり過ごすしかない。頼む動かないでくれ。
「お父さん?お父さんはいなくなっちゃったんだ、突然。あれがお父さんなの?
やったー!会いに来てくれたんだ。ありがとうお兄ちゃん」
そう言うと、あいつは男の方に走りだして家の中に消えていった。
すると、入れ替わる様に人影が玄関の方に向かってくる。
近づてきたのは、あの男ではなかったこいつは、僕だ。僕の顔をしている。
そして話かけてきた。
「残念だったね~。もう少しだったのに君がもう少し彼の事を知っていれば対処できたかもね。まあ、無理だけど。自分の事しか興味ないもんね。
彼の生い立ちとか、何が好きとかどうせ
”あいつとかお前”とか言って、名前すら覚えてないでしょ。
ちなみにさっきの顔は彼の蒸発した父親、彼は最初気付かなかったけどね」
「なんだよ!どうなってる!あいつはどうなったんだよ!」
「あいつじゃなくて、山田良平ね。
言い忘れたけど試練に失敗したら、ここに来る前の状態で帰ってもらうよ。
だから、彼は足がもがれた状態で樹海に返したよ。
放っておいたら死んじゃうね。
大丈夫だって何もしなければ、無傷で元の場所に戻してあげるよ。
彼の事なんて事故とか、野生の動物に襲われた事にして無視して帰ればいいさ。
だってどうでもいいんだろ、彼の事なんて。
人のプライベートにズケズケ入ってくる、うっとしい奴が居なくなって、精々するよね。
やっかい払いできて、ちょーど、よかったんじゃない?。違う?
それとも、何か願いを叶えるために試練に挑むかい?」