表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ありふれた劇の奇抜で普通の結末

しがない貧乏男爵家のあたしが、ここまで良くやったと思う

本当は、王子か王子妃付きの侍女を狙ってたんだけどね

でも、あたしじゃ正妃なんて絶対無理よ

横恋慕してる王弟殿下に連絡回したから、早く断罪されて身軽になりたいわ

ちゃんとこっそり逃してくれるかは賭けだけど、大丈夫な予感がするわ

学園の卒業パーティ

エスコートに現れない婚約者

学園での浮名の噂話


これだけ揃っていれば、何が起こるかはエンタメイトに触れた事のある人ならば想像出来るだろう


衆目での婚約破棄


ただし、劇では無く現実のものなれば、結果がどうなるか

そう。破棄された側からの糾弾。所謂ざまぁと呼ばれる断罪である

しかしながら、それすらも劇中

現実は小説より奇なり

そしてそれは、新たなエンタメイトに昇華されるであろう


この国は平和が長く続いた為、エンタメイトが多数に発展している

最初は、悪役をヒーローが倒す勧善懲悪

次に、虐げられた者が幸せになるシンデレラストーリー

更に、シンデレラこそが悪役であるざまぁ

この3つが得に流行っている劇である

全てが過去の事件を参考にしているので、権力者には戒めに。平民には娯楽とガス抜きに丁度いいのだ


話が逸れていたが、本題が始まるようだ

しっかりと記録せねば


能力はあるが最近は一人の女性にうつつを抜かしだしたと噂の王子

その横に居るのは、小柄だがはっきりと物を言う「おもしれー女」の異名を持つ男爵令嬢

彼らは学園生活に置いて、主に令嬢側が逃げながら愛を育んだ

男爵家の、更には庶子である令嬢は軽んじられ虐げられていた

王子はそれを助け、勧善懲悪がなされた

婚約者が居るからと、泣きながら去ろうとした令嬢を引き止めシンデレラの舞台を作り上げたのは王子

だが舞台を、もといシナリオを描いたのは令嬢である

悪役となってしまった王子の婚約者を、冤罪により罰する事で主役は入れ替わる

婚約者は令嬢の嘘を解き明かし、王子の不貞行為をも言及して二人を追い詰める

また、王子は公務をほぼ全て婚約者に押し付けていたと王子の側近が付け加える

会場の雰囲気は婚約者側に同情的で、王子側へ冷たい視線を向ける

止めに王弟が現れ、王子たちを完膚無きまでに叩きのめし、ざまぁが完遂された




「………やっと出てきましたね、王弟殿下。私の婚約者を誑かし国家転覆を狙う獅子身中の虫が」




王子のその一声に、会場の空気が凍りつく

婚約者が怒りに任せ、王弟とは婚約前から惹かれ合っていた。王命での王子との婚約のせいで叶わなかった初恋だと叫ぶ

王弟も婚約者を背に庇いながら、婚約者を蔑ろにした不貞の輩が何をと応戦する

側近も王弟側に付き、婚約者に仕事を押し付けて女遊びをしていた事を再度糾弾する


「婚約者の初恋は知っていた。だが私も彼女も王家の血を引く者。政略の駒にならねばならぬ。だから私は彼女が少しでも傷付かぬよう、婚約者として優しく振る舞った。しかし彼女は私を王弟殿下と何かと比べてくるのだ。婚約が決まった十の頃からな。そのような相手に義務感以外の感情を持てた私を私は褒め称えたい。それと、私は婚約者に無理な仕事を押し付けたりはしていない。彼女の能力はとても素晴らしく、私が不在でも国が回る程の才女であると改めて実感したよ。そのおかげで私しか出来ない仕事も完遂できた」


王子が指を鳴らす

それを合図に側近が王弟を拘束する

更に事態を見守っていた婚約者の父親の公爵も、衛兵に拘束される

王子にしか出来ない仕事とは、強い権力を持つ者の不義不忠を裁く為の準備であった

王弟は、内々に決まっていた王子の婚約話を知っていた

その上で、公爵を拐かし婚約者と接触する

年若い箱入り娘の恋心など、簡単に掴めた

そして、度々王弟を思い出すように公爵がしたなら、王子のメンタルは擦れ拗れる

拗れた王子に慰めの相手を掴まさせれば、この舞台が出来上がると言うわけだ

計画と違ったのは、充てがう相手だけであった

令嬢は全くの無関係で、かつ頭の切れる策略家

王弟の手の者に成り代わり、王子の籠絡を見事なしとげたのだ


「このような家庭環境でも、私の婚約者は素晴らしい才能を開花させた。その結果、そちらの手の者が仕掛けた冤罪の証拠を集めれた。我が側近も誇らしい仕事をした。公爵や王弟の信頼を勝ち取り、その懐から必要なピースを集めてくれたな。彼らの手の者を蹴散らした彼女のこの手腕もとても良い。だからこの場に横に置いた。この手腕は他国との交渉において素晴らしい成果をあげるだろう。私の婚約者に今一歩及ばない所もあるが、二人とも負けず嫌いで気が強いから切磋琢磨してくれるだろう。災い転じて福となす、素晴らしい拾い物だ」


王弟の計画は完璧だったが、それは盤上だからだった

王子は気のない婚約者に恋をしたし、甘やかし籠絡するはずだったが逆に手の者を潰された

婚約者に罪を着せた筈なのに、冤罪の証拠を掴まれた

劇の主役を演じていただけだと思っていた令嬢は、思った以上に手強かった

同情で味方にした側近は、情に流されていなかった

婚約者の父親という強い立場だった筈の公爵など、簡単に証拠を掴まれる無能だった

兄より優秀だと自惚れた王弟は、その兄の子供より劣っていた

慕った男と父親に裏切られた婚約者を、王子は優しく抱き寄せる


「辛い思いをさせて悪かった。だが、そなたを幼き頃より縛り付けていた鎖は今この時断ち切った。これからは、私を私として見て評価してほしい」


甘く囁く王子相手に、放心状態であった婚約者がぴくりと反応する

感情が追い付いていないのだろうが、理性的な部分も本能的な部分も脈ありのように見える


「さて、先程も言ったが貴女は側室に最適な能力がある。私でも父でも、好きな方の側室に入ってもらいたい。しかしまさか、正室を望むなどとは思っていまいな?」


笑っていない笑顔で、王子は自らが連れてきた令嬢に語りかける

令嬢の方は不満など一切無いようだが、王と王子のどちらに入るか真剣に悩んでいるようだ

この王子ではお手付きは一切期待出来ないと理解したが故である。腹黒な彼女もうら若き乙女なのだ


「王弟殿下…いえ、叔父上。そして公爵様。養子縁組と当主の引き継ぎ、相続権の放棄で手を打ちましょう。叔父上は公爵の妹様の子。血縁的にも問題ありませんよね?」


実質、王家の公爵家乗っ取りである

王子に勘付かれ利用されたとて、殆どの貴族が騙された王弟も策士

お互いの力が次は、一つに出来るとなるなら…

心から屈服した王弟は、王子に恭しく頭を垂れた

公爵はこれまで全ての事柄を他人に任せてきた根無し草だ

先代公爵に言われるままに得た当主の地位に、何も未練は無いらしい

これからは楽隠居として領内や国内を巡り、市井の情報を妹や娘、王弟に回すそうだ

元々権力欲は無いが、お人好しな性格だったのだ

親子とはやはり似るものだ


「さて、短くない時間を突き合わせてしまった事をまずは謝罪しよう。市井の観劇では断罪からの破滅と言うのが流行っているそうだが、それは劇中だからだ。破滅など簡単にはしないし、私がさせない。簡単な教養さえあればな、防げるのだ。だから、不安は共有すべきだ。相手が格上なれば、尚の事本人達で話し合いをして欲しい。相手を見下し優越に浸る権力者など、新興にすらおらぬ。ノブリス・オブリージュは我が国に深く根付いている!」


王子がそう締めくくる

束の間の静寂。誰かが、拍手を送った

それは疎らに電波していき、遂には会場に響き渡る大きな音となる

その拍手に紛れ、涙を流し抱き合う者。晴れた顔で離れる者。結末は違うとはいえ、円満解決した事は間違いがないカップルが見てとれる


「さて、最後に。君、君も中々優秀そうじゃないか。知っているとも。今流行の3つの観劇、悪役が破滅するシナリオ。原本は君なんだろう?どれほどの時を生きた怪物かは知らないが、物書きで国を揺さぶれるとは、とても素晴らしい。是非とも今の哀愁劇も、書いてくれないか?」


やはり現実は、ショーより奇抜で面白い

学園に潜り込んだかいがあった

今しばらくは、過激な破滅エンドでなく

皆が幸せになるトゥルーエンドにて平和を続けようか

また人々が平和に飽き、過激になるまではね

何も考えてない権力を振り回すだけのバカなんて物語の中だけでは?から書いた話

ラブコメ特有の鈍感、難聴はあったりする

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ