子供には関係ない
ユキとパパとママは、おばあちゃんの家に居候している。
今日は朝から騒がしかった。
おばあちゃんから外で遊ぶように言われたユキは
吐き出し窓の下にお家のある、名犬ちびと遊んでいた。
家の中からはおばあちゃんの叫び声が聞こえている。何かに怒っているようだ。
しばらくすると、パパとママが家の中から出てきて、ユキに何も言わずに二人で何処かへ行ってしまった。今まで感じた事の無い、なんだか嫌な気持ち。
ユキはどうしたらいいのかわからなかった。
「一緒に行ったんじゃないの?」
おばあちゃんが家から出て来てユキに問いかけた。
ユキは今まで見たことのない、能面のような冷たい
おばあちゃんの顔を見て、ただ事でないと察した。
「おばあちゃん。パパとママと喧嘩したの?」
ユキはドキドキしながら勇気を出して聞いてみた。
しばらく黙って、おばあちゃんは言った。
「子供には関係ない。」
それだけ言って家の中へ入っていった。
ユキは気が遠くなって、目の前が真っ白になった。
何日か過ぎていったある日、おばあちゃんは一人で買い物に行くようになっていた。
ユキはおばあちゃんの寝室の窓から、おばあちゃんがあの角を曲がって帰ってくるのをじっと待っている。
あの日から、お留守番ばかりで、なんだか嫌な気持ちはずっと続いている。
ある日、パパとママがあの角を曲がるのが見えた。
嬉しくて家の中を走り回り、柱の角に足の小指をぶつけてしまった。涙が溢れるほど痛かったけれど、嬉しくて笑顔が溢れたままだった。
急いでお気に入りのチューリップのワンピースを着て、窓から見えていたチューリップを、あるだけ全部引っこ抜いて。
ユキはチューリップの花束を両手いっぱいに抱えて、パパとママを迎えに行った。
パパとママの笑顔が見たかった。
パパの優しい腕に抱き上げられて、ほっぺをくっつけたかった。
おばあちゃんの笑顔が見たかった。
一緒にお出かけして、ビックリドッキリおばあちゃんと笑い合いたかった。
そして、それがずっと続くと信じていた。
ユキとパパとママが去っていったおばあちゃんの家は、ただ広かった。
おばあちゃんは、ユキが引っこ抜いた沢山のチューリップを、一人で拾い集めて、お隣にお詫びに行った。
お隣の奥さんは事を察したのか、おばあちゃんの肩に手をかけて、もう片方の手でおばあちゃんの背中をさすってくれた。
お隣の庭のチューリップはもうない。
ユキはどうしておばあちゃんと離れ離れにならないといけないのかわからなかった。
どうしても納得いかない。
勇気を出して「おばあちゃんの所へ帰りたい!」
とお腹の底から叫んだ。
ママは一瞬足を止めたが、直ぐにまた歩き始め、
転げそうになるユキの手を引っ張り
「子供には関係ない。」と吐き捨てる様に言った。
ユキは、目の前が真っ白になった。
目の前が真っ白になるのは、初めてでは無かった。
たった今まで、頭の中でグルグルグルグル
みんなが元に戻れる方法を考えていたのに。
もう、何も考えられない。
ただ、息を吸うのも忘れるくらい悲しい気持ちが
身体中を襲った。
ユキ、3歳の誕生日がくるのを楽しみにしていた
春だった。




