白き魔女の世界
46億年という、長い長い時を、私はひとりで生きてきた。私自身の、深くせつない溜息と冷たい視線だけが、その世界を満たす、全てだった。私は暗い部屋に閉じ込められた、一匹の白い子猫だった。
その世界には、「孤独」という概念はなかった。私が「さみしい」と思うまでは。私がそう思った瞬間、世界には白いブリザードが吹き荒れ、海は凍り付き、草木はばらばらに分解された。私は、さらに孤独になった。孤独のスパイラルだ。そこに突然、あなたが生まれた。あなたは白い雪原に氷の家を作り、その中に火を灯した。火は、氷を溶かし、それは水になり、小さな草を、蘇らせた。広大な冷え切った空間は、あなたの家から少しずつ、温められた。私はそんなあなたに、目を奪われた。私はあなたを見つめ続けた。
何十年、何百年が経っただろう。あなたの営みは、世界を春にした。そして奇跡が起こった。鳥が、魚が、獣が、そして虫たちが、生まれたのだ。世界はにわかに活気づいて、時代が動き始めた。私はもう、孤独ではなかった。うれしかった。私はあなたに感謝した。
それだけでも、私にとっては、とてつもない奇跡だったのに、ある日もっとすごい、奇跡が起きた。それはあなたが森の中で、食べられる実を、探しているときのことだった。あなたは、とてもいい香りのする、みずみずしいフルーツを見付けて、手に取り、口に入れた。その瞬間、世界はあなたの気で満たされた。ずっとずっと孤独だった私が、初めて触れた、私以外の人の心。それはとても温かで、優しかった。うれしくて、泣き始めた私をあなたは見つけた。あなたは目を丸くして驚いていた。あなたが何かを叫び、私に向かって、手をさし伸べた。私もあなたに向かって、手を伸ばした。こうして、この世界に愛が生まれた。
もともとは、MとRの物語という作品の中で、
主人公の女子高生が書いた小説、という設定で書いたものです。
「さがしもの」、という
お題にそっている気がしたので、短編として投稿させていただくことにしました。