社会人サークル「リーガル」へようこそ 6
(はぁ、ついに私の番か)
Cチームには夢姫と神風、Dチームには夕日と小ノ道が振り分けられている。
女の人数が少ないこともあり、Cチームに女性は夢姫しかいなかったため、男性陣に囲まれた夢姫は少し緊張していた。
そんな夢姫の心情を察して、神風が話しかけてきた。
「月野さん、大丈夫ですか?女性が一人しかいないから緊張しますよね。月野さんは試合に出るのが初めてだし今日はピヴォ……って言っても難しいかな。相手のゴール前にいてもらっていいですか?初心者には一番分かりやすい位置だし、シュートが決まると試合も楽しくなりますよ」
「は、はい!分かりました!」
「僕は普段、ゴールキーパーかディフェンダーのポジションが多いけど、今日は月野さんのフォローも兼ねてミッドフィルダーのポジションにいますんで。……あ、三人とも、ちょっといいかな」
神風が残りの三名について、ポジションについての指示を出し始めた。
「……ということで、今日はこのフォーメーションでよろしく」
「りょーかいです」
「わっかりやした〜」
「へーい」
三人はそれぞれ返事をし、持ち場に移動し始めた。それに合わせて神風と月野も移動を始める。
「じゃ、スタートはこの位置から。僕に来たボールはなるべく月野さんにパスするから、月野さんは来たボールをゴールに目掛けて蹴ってみて」
「は、はい!頑張ります!」
試合を終えた剛力が、レフリー役の交代のために小ノ道のところへやってきた。
「いやぁ、今日は大河君に押されて負けちゃったよ。後でルリちゃんに怒られそうだなぁ」
「剛力、お疲れ〜。大河君、飛ばしてたねぇ。じゃ、レフリー役よろしく」
「あいよ。それじゃ、CチームとDチームいいかなー?先攻後攻決めるから一人ずつこっちに来て」
本来なら代表を決めて行くところだが、練習試合のため、それぞれ剛力の近くにいたメンバーが向かった。
コイントスの結果、先攻はDチームとなった。
各自持ち場についのを確認した剛力は、試合開始のホイッスルを鳴らした。
(わわわっ!ついに始まっちゃった……!)
過去に体育の授業でサッカーをやったことはあったが、虚弱体質で体育全般が苦手だった夢姫。
すぐ息切れを起こして周りについて行けなかったため、サッカーの試合中はいつもコートの隅っこにいて、たまにくるボールを少し蹴るだけだった。
「……月野さん!パス回すよ!ボールを前に蹴って!」
あっという間に敵チームからボールを奪った神風が、早速夢姫にパスを回してきた。
(わー!どうしよう!早速ボールが回ってきたー!!)
「ふんっ!」
夢姫は渾身の力を込めてボールを蹴り上げた。
……はずだったが、蹴り上げる位置がボールに全く届いておらず、思いっきり空振りをした。
外れたボールはそのままタッチラインを割り、敵のボールに変わってしまった。
「……ああぁ!!ど、どうしよう!ごめんなさい!!」
(ギャー!空振りしちゃったっ!)
「……っ、ぶはは!すごい空振り!」
「おい、笑うなよ。月野さん、ドンマイ!」
「ドンマイ、次狙ってこー。」
三人は大して気にした様子もなく、次に来るボールに向けて構えた。
「月野さん、謝らなくて大丈夫ですよ。みんな気にしていないし、初心者のうちはそうやって試合に慣れていくものだから。空振りなんて気にしないで、まずは積極的にボールに向かってみて。今よりもっと前に出て蹴るように意識したら絶対当たるようになるから」
「はい……。次から気をつけます。」
試合は小ノ道からのキックインで再開された。
小ノ道からボールを受けたメンバーは、向かってきた敵を上手くかわし夕日にパスをした。
パスを受けた夕日はそのままシュートを決めた。
「きゃー♡やったぁ!」
(わっ!すごい、夕日さんがシュートを決めた!)
「ユウユウ、ナイシュー!」
「ナイシュー!」
敵チームの雰囲気が盛り上がる。
「切り替え、切り替えー!」
すぐに試合は再開された。
ボールを持ったメンバーのもとに敵チームがジリジリと近づいてきてくる。
味方のメンバーは神風にパスを回した。
神風は、一度止まり敵を引きつけたあと、左右にフェイントをかけ、相手の隙を狙って一気に敵のガードを突破した。
(おぉ!凄い足捌き!)
夢姫が神風のプレーに見惚れていると、神風と目が合った。
「月野さん!ボール回すよ!」
神風の絶妙な力加減により、先程より速度の落ちたパスが夢姫に回ってきた。
(ひえー! またボールが回ってきた!)
今度は失敗出来ない……!
と意気込んだ夢姫はボールに向かって猛ダッシュする。
が、一度止まっていた足がうまく付いていかず、足が絡んで前につんのめった。
(あーーれーー!!)
ザザザッ!!
砂埃と共に凄い勢いですっ転んでしまった。
「……っ! 月野さん!」
(あぃたたたぁ……やっちゃったぁ)
パスを回した神風が慌ててこちらに走ってきた。
「大丈夫!?怪我は!?」
「すいません、転んじゃいました。いたた」
「血が」
夢姫はその言葉に反応して神風の視線の先を見ると、膝小僧と手のひらが派手に擦り剥けて血が出ていた。
「あぁ。ちょっと痛いけど、このくらいへっちゃらですよ」
「怪我を舐めてはいけません。範囲も広いし、ここのグラウンドは土だから放っておくと雑菌が入ります。
早めに洗って消毒しないと。……歩けますか?」
「はい、たぶん。………いっ!」
思ったよりも膝小僧の傷が深かった様で、立ち上がろうとすると傷口が痛んだ。
そんな夢姫の状態を見て、神風は剛力に向かって合図をした。
「剛力さん!!月野さんが怪我をしているので試合を一旦中止にして下さい!」
神風はそう叫んだ後、次に夢姫に話しかけた。
「一旦コートの外に出ましょう。……ちょっと失礼します。」
そう言うと、神風は夢姫の肩と膝下に手を回して、お姫様抱っこをした。
「わわっ!か、か、神風さんっ!」
夢姫は羞恥に顔が赤くなるが、申し訳なさそうな顔をする神風を見て少し冷静になった。
「すいません、月野さん。休憩棟までの数分間だけ我慢してもらってもいいですか?」
「は、はい……」
夢姫は大人しくお姫様抱っこされることを決めたのだった。