社会人サークル「リーガル」へようこそ 4
準備運動の終わった初級チームは、剛力の掛け声で練習に移った。
「じゃあいつも通り、まずはボールタッチとリフティングの練習ね。最後にさっきのペアでパスの練習をします。一応手本を見せるので月野さんも見ておいてくださいね」
剛力はそう言うとその場でボールを蹴り始めた。
「初心者の方は、まだ足でボールに触れる感覚に慣れていないので、ボールタッチの練習をしっかりしておくとリフティングやパスもしやすくなります。じゃ、みんなもやってみましょう!」
剛力の指示で皆も練習を始めた。中級チームに所属している神風と大河は当然ながら練習メニューは完璧にこなせる。
(わっ、思ったよりみんな上手だなぁ。特に神風さんと大河さんはズバ抜けて上手い……)
夢姫は周りに圧倒されながらもボールを蹴る。が、やはりうまく出来ずにあちこちにボールが転がってしまう。一人アワアワしている夢姫を見兼ねて神風がやってきた。
「……月野さん、ちょっといいですか?どうもボールを当てる位置がズレているみたいだから、足のこの辺りに当てるようにするとやり易くなりますよ」
「は、はい!」
神風に言われた通りにボールを蹴ると狙った位置にボールが行くようになった。
「わっ!!ちゃんと狙った位置に行くようになりました!神風さん教えるの上手ですね。もしかして誰かに教えるの慣れてます?」
「あ、いや」
神風が言葉に詰まっていると、後ろにいた大河が話し掛けてきた。
「こいつ、元サッカー少年で、今はジュニアサッカーチームのコーチをやってるんだよ」
「なんだよ、大河。お前も同じだろ?」
「神風、俺のハードル上げるなよ〜。コーチって言ったって、空いた時間に見ているだけの名ばかりコーチだしぃ?」
「大河、それは僕も同じだよ。仕事があるから休日しか教えていないし、プレイヤーとして活動しているのはこのサークルくらいだよ」
「えぇ!!二人ともサッカーチームのコーチやっているんですか!?すごいですね!」
「うーん、と……月野さん、実はコーチやっているのは僕たちだけじゃないんですよ」
「そうそう。実は俺ら、そこにいる剛力さんが取り纏めをしているチームのコーチをやってんだ。ちなみに中級チームをまとめてる小ノ道さんも同じ」
(な!なんと!!四人もコーチ経験者がいるなんて!なんだかレベル高いサークル選んじゃったな。私ついて行けるかな……)
夢姫は急に不安になり、思わず黙り込んでしまった。
なんとなく空気を察知した神風が夢姫に話しかけた。
「こんな話を聞いたら萎縮しちゃいますよね。このサークルは、誰でも気軽に運動を楽しめるようにって剛力さんが作ったそうで、上手下手関係なく楽しめるのがここの魅力だから、心配しなくても大丈夫ですよ」
三人で話している内容が耳に届いたのか、剛力が話に加わってきた。
「なーに?大河君と神風君。コーチやってる事、先にしゃべっちゃったの?萎縮しちゃうとかわいそうだから新入りさんには話さないようにしてたのに〜」
「大河が勝手にしゃべりだしたんですよ」
「えぇ〜?俺だけ悪者扱いかよ。神風のフォローをしてやっただけじゃん」
「僕は頼んでいない」
「まぁまぁ、二人とも。そうジャレないでよ」
「「ジャレてない!」」
(なんだかみんな仲良しでいいなぁ)
夢姫は温かい目で三人を眺めていると、剛力が視線に気付いて話し始めた。
「こいつらこれが通常運転なんですよ。同じコーチの立場だからよく言い合いになっていますけど、根は真面目な奴らだし。ま、喧嘩するほど仲が良いってか?ははは!」
「剛力さんがいると話が拗れるんで、さっさと持ち場に戻ってください。」
「神風君、扱いヒドッ!」
剛力はしぶしぶ持ち場に戻り、他のメンバーの指導を始めた。
ーーーーーーーーーー
一通り練習が終わったため、剛力は全メンバーを集めて全体に聞こえるように声を上げた。
「体もだいぶ慣れてきたと思いますので、練習はこれで終了です。この後は、中級チームと合同で練習試合をします!!練習試合後は歓迎会を予定しているので、行けるメンバーは着替えが終わった後もこの場に残ってください。じゃあこれから四つにチーム分けするから、名前呼ばれた方はこちらに来てください。
Aチーム!……」
(私はどのメンバーと一緒なのかな。出来たら今日話した人達のうちの誰かと一緒になれればいいけど。ちょっとドキドキする……)
「次、Cチーム!月野さん!」
(わっ、名前呼ばれた!)
「は、はい!」
夢姫は慌てて移動を開始した。
「……君。神風君。最後にDチーム!」
(あ、神風さんも同じチームだ。良かった、ちょっと安心した)
「それじゃあ、まずはAチームとBチームが先に練習試合をしましょう。終わったらCチームとDチームね。最後勝ったチーム同士で試合をして今日の活動は終了です。……ちなみに今日勝ったチームは、この後の歓迎会で、次回から使える飲み放題無料券をプレゼントしますので、みんな奮って参加するよーに!!」
「「「 うぉー!剛力さん、太っ腹!! 」」」
飲み放題無料券の言葉に反応した男性陣から歓喜の声が上がる。
目の前の釣り餌に張り合いが出たのか、一気に場の空気が盛り上がった。
(な、なんだか男性陣の食い付きっぷりが凄いな)
夢姫は場の空気に若干引きつつも、青春に戻ったようなワクワクした気持ちになった。
(私の青春時代に運動の文字はなかったけど、体育会系のノリって、きっとこんな感じなんだろうな。なんとなく青春をやり直している気分だわ)
「それじゃあ、AチームBチームはコートに残ってください!CチームとDチームはあちらに移動して待機していて下さいね。じゃあ移動をお願いします!」
剛力の合図の元、メンバーが移動を始めた。