乱入者
「「…………。」」
店内に流れる音楽と、遠巻きに聞こえる客同士のザワザワとした会話、カチャ……と時折聞こえる食器とカトラリーが擦れる音。
二人の間に会話はなく、黙々と目の前の料理を口に運んでいた。
そして、二人は無言のまま食事を済ませると、先程のウェイターがビクビクしながら食後のコーヒーと紅茶を運んできた。ウェイターはそれらを手早く置くと、逃げるようにササっと厨房に引っ込んだ。
大河はコーヒーをゴクッと一口飲んでから、口を開いた。
「……じゃ、食事も済んだことだし、話の続きでもしようか。」
「そうですね。」
夢姫は飲んでいた紅茶のカップを静かに下ろして返事をした。
「大河さんにとって、神風さんが大切な存在だということは分かりました。それなら余計に私達の関係について話しておく必要があるかと思います。」
大河は片眉を釣り上げ、鋭い眼差しで夢姫を睨む。
「私達ぃ?」
「ええ。……実は、昨日から神風さんとお付き合いすることになりました。私は離婚の経験があるため結婚に対して慎重になっていますが、神風さんは先のことも考えているそうです。」
「……はぁ!?離婚!?それに付き合ってるって、それ本気で言ってんのか!?」
「はい。本当は、なぜ大河さんが私にちょっかいを出してくるのか、真相を知りたくて今日お会いするつもりでした。ただ、神風さんとお付き合いすることになった今、それに加えて、今後は二人きりでは会えない旨をお伝えしようと思ってここに来ました。」
「ふざけんな!お前みてーな女がアイツと付き合えるはずがねーだろ!!」
「私は事実を伝えたまでです。」
「……お前、アイツの弱み握って脅してるんじゃねーの?離婚経験がある地味女をわざわざ神風が選ぶわけねーだろ。」
「脅してなんかいません。……神風さんと私は小さい頃、結婚の約束をしたことがありました。そして、神風さんが引越しでいなくなる前夜、私に言ったんです。『迎えに行くから、待っていて』と。神風さんはずっとその約束を覚えていてくれて……本当にその約束を果たしてくれました。」
大河は『約束』というフレーズを聞いた途端、みるみる顔が青ざめて行った。
「……ま、まさか……お前が、神風の『約束した人』……?」
「え?何ですか?もう一度……、」
大河の独り言が聞き取れなかった夢姫は、テーブルに手をつき、少し身を乗り出して大河の声に耳を傾けようとした。
大河は急にガタッと立ち上がると、テーブルに置いた夢姫の手をガシッと掴んだ。
「きゃっ!」
「どう取り入ったのか知らねーけど、俺はお前を認めねぇ!……ご丁寧にキスマークまで見せつけやがって、この薄汚い売女が!」
「痛っ!た、大河さんっ…落ち着いて!」
ギリッと食い込む大河の指に、夢姫は小さく悲鳴を上げ、手を振り解こうとした。……次の瞬間、ズイッと二人の頭上に黒い影が出来た。
そして影の主は夢姫を掴んでいた大河の手をむんずと掴むと、ベリッと引っぺがした。
「大河、いい加減にしろ。」
頭上から降り注ぐ聞き覚えのある声に、夢姫はふっと顔を上げる。
……そこにいたのは、神風だった。
「神風!?」
「ミツ君!?」
神風の突然の乱入に、二人は驚き同時に声を上げた。
夢姫はまるで幻でも見ているかのように一瞬固まっていたが、ハッと我に返り神風に話しかけた。
「ミツ君……なぜ、ここに!?」
「それについては後程説明します。……それより大河。お前はゆめきちゃんに一体何をしていた?」
突然の乱入者に夢姫と同じく固まっていた大河だが、神風の怒りを孕んだ声に、動揺した様子で口を開いた。
「な、なんだよ。ちょっと会話が弾み過ぎてボディランゲージがオーバーになっただけじゃん。ってか、なんでお前がここにいんの?」
神風は殺気立った目で大河を鋭く睨み付ける。
「そんな事はどうでもいいだろう。手を強引に掴む行為が、お前にとってはボディランゲージなのか。」
怒りを通り越して殺気を感じるレベルの冷たいオーラを放つ神風に、さすがの大河もぐっと言葉に詰まる。
神風は殺気立ったオーラを隠そうともせず、話を続けた。
「話がある。」
大河は、ふんっと鼻を鳴らしたあと、意地の悪い目付きで神風を見上げた。
「奇遇だな。俺もお前と話したかったところだ。」
神風はその言葉を聞くと、夢姫に向かって優しく話しかけた。夢姫を見るその瞳に先程の殺気立った怒りはなく、トロっと柔らかいモノに変わっていた。
「ゆめきちゃん、少しだけ大河と話をしてきます。このままここで待たせてしまうのは忍びないので、一度自宅に戻っていてください。」
「で、でも……っ!」
「ごめんね、これは僕と大河の問題でもあるんだ。大丈夫、少し話をするだけ。終わったら、ゆめきちゃんの家に上着取りに行くから……少しだけ自宅で待っていて?」
夢姫を見つめる瞳も声も甘いのに、ノーを言わせない雰囲気を纏った神風に、夢姫は従うしかなかった。
「……分かりました。あ、でもお金!」
「ああ、それなら僕が払っておきますから心配しないで。……じゃあ、一緒に出ましょう、ゆめきちゃん。」
神風は夢姫の手を優しく持ち上げると、優しく手の甲にキスをした。そして、ゆっくり唇を離すと、大河に鋭い視線を向けた。
「大河、お前も一度外に出ろ。」
「ああ、いいぜ。」
大河は神風の提案に乗る事にした。
連日の睡眠不足で作者の体力がそろそろ限界になってきたのと、筆が進まなくて次話が書き終わっていないので、1〜2日程度更新おやすみします´д` ;
しばしお時間をくださいませ…。よろしくお願いします(_ _).。o○




