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返事


サアァ……。冷たい夜風が頬を掠める。

夢姫の熱くなった頬には、その冷たさが心地よかった。

夢姫はしばらく呼吸を置いたのち、口を開いた。


「……ミツ君、迎えに来てくれてありがとう。私、心のどこかで、ずっとミツ君が来てくれるのを……待っていた。……でも、今の私は結婚に失敗して、臆病になっているの。だから、すぐに結婚は考えられないんだけど……それでも、いい……?」


神風は弾かれた様に立ち上がると、ベンチに座っている夢姫を抱き上げた。


「ひゃあっ!」


急に視線が高くなり、驚いた夢姫は情けない叫び声を上げながら神風の頭にしがみ付いた。

夢姫を持ち上げたまま、神風はその場でクルクル回り、ストンと夢姫を降ろした。


「ちょ、ちょっとミツ君!いきなり何すんのよ!!」


夢姫は声を荒げて神風に向かって抗議した。

神風は満面の笑みを浮かべ、その瞳は少年の様にキラキラ輝いてみえた。


(あ、昔の『ミツ君』と同じ目だ。)


「ははっ、ごめんごめん。嬉しくて、つい。もちろん、今はそれでいいよ。……今は、ね。」


神風は少年の様なキラキラしていた瞳を、スッと細めた。鋭く、獲物を狙う様なその瞳は、まるでネコ科の猛獣を連想させた。

そして、どこか妖艶さを含んだ微笑を夢姫に向けた。


「でも、覚えておいて。僕はいずれ、ゆめきちゃんをお嫁さんにするつもりだから。……やっと、手に入れたんだ。一生、離さない。」


神風はそう言うと、夢姫をきつく抱きしめた。

夢姫もおずおずと神風の背中に手を回し、コテンと神風の厚い胸板に頭を預けた。


(ミツ君の想いと私の想いは、まだ同じ重さではないけれど……これで、いいんだよね?)


そうしてしばらく二人はお互いの熱を分かち合った。


(はっ!そうだ!すっかり忘れていたけど、明日大河さんと会う約束していたんだった!!)


夢姫は、ハッと我に返り、ガバッと神風から身を離した。

急に引き剥がされた神風は、やや不満そうな顔付きで夢姫を見る。


「どうかしましたか?」


「あ、あの!明日、大河さんと会う約束しているのを思い出しちゃって……。」


神風はとたんにしかめっ面になり、甘さを含んだ眼差しから一転し、冷たい目に変わった。


「アイツの事は放っておけばいい。……まさか、行くなんて言わないよね?」


(うーわー、思いっきり怒ってる!で、でも、ここで怯んではいけない!ここは、年上の威厳を見せなくては!)


「ミツ君、そんな事言わないの。確かにミツ君とこういう関係になった以上、大河さんと二人で会うのは良くないと思う。でも、大河さんは同じサークルの仲間だし、今後のためにも一度しっかり私達の関係を話しておいた方がいいと思うの。」


「……それで?」


「……っ。」


神風の目は光を失い、その身体からは絶対零度の冷気が漏れているかのようだった。


(うっ!こ、怖い……。)


夢姫はあまりの迫力に気圧され、一瞬言葉に詰まったが、一呼吸置いた後に話を続けた。


「だから、明日は大河さんと会って話をしてきます。もちろん人目の多い場所で会いますし、終わったら必ず連絡をします。だから心配しないで……。」


「それなら僕から大河に話します。何もゆめきちゃんと大河が二人きりで話す必要はない。」


「で、でも!それだと大河さんとの約束を破ることになります。それは良くないよ。」


はぁ……と、神風はため息を吐いた。


「そんなに二人きりになりたいですか?アイツと。」


「ち、違う!そうじゃない!ただ、約束を破るのは良くないって言ってるだけ!!確かに二人きりで会うのは良くないかも知れないけど……。でも、話す内容は私達の事だよ!?何もそんなに怒らなくてもいいじゃない!!」


サアァ……。冷たい風が二人の間を抜けていく。


「………わかりました。」


夢姫の頑なな態度に神風が折れた。


「ただし、何時にどこで会うのかは教えて下さい。それと、終わったら必ず連絡して。……返事は?」


(……ほっ、なんとか話が纏まった。)


夢姫は安堵して肩の力を抜きながら「はい。」と返事をした。

気が緩んだ夢姫は、急に寒さが身に染みてきて、「くしゅっ」と小さくくしゃみをした。

神風は着ていたジャケットを脱ぎ、夢姫にフワリと掛けると肩を抱いた。

女性用の服とは違いズシリと重いその感触に、幼かったミツ君の面影はない。


(……もう、あの頃のミツ君とは違うんだなぁ……。)


フワッと香る、神風の優しい匂いに包まれていると神風が徐に口を開いた。


「寒くなってきましたね。ひとまず、車に戻りましょう。」


夢姫はこくりと頷くと、神風は夢姫の肩を抱いたまま車へ向かって歩き出した。

サクッサクッと二人分の落ち葉を踏み締める音が辺りに響き渡った。


ピピッガチャ

電子キーで車を開錠した神風は助手席の扉を開けた。


「ゆめきちゃん、どうぞ。」


「あ。ミツ君、ありがとう。」


夢姫はお礼を言うと、そっと車に乗り込んだ。

神風は運転席に乗り込むと、徐に口を開いた。


「この後どうしますか?ご飯、まだでしたよね。」


「あ、そういえば……。」


怒涛の展開にアドレナリンが出ている様で、夢姫は全くお腹が空いていなかった。


(うーん、そんなにお腹空いていないしなぁ。ご飯に行くより一度頭を整理する時間が欲しいな。)


「今日は色々あったし、ご飯は次回にしませんか?」


「……そうですね。では、自宅まで送ります。」


神風はそう言うと車のエンジンを掛け、静かに車を走らせた。

車は夜道を順調に進んでいく。

光るネオンや街灯が次々と窓ガラス越しに流れていく様子を、夢姫はボーッとしながら眺めていた。


(明日、大河さんに会うのは気が乗らないけど、大河さんには一度しっかり話しておきたい。……あの時、言われた『大事なモノ』が、何のことかは定かではないけど、何となく大河さんは私のことを良く思っていないような気がする。それにも関わらず、私に興味があると言ってくるのには、何か事情があると思うのよね。)


頭の中でぼんやりと考え事をしていると、あっという間に自宅へ着いた。


「……ちゃん……ゆめきちゃん?」


夢姫はハッとして神風を見る。


「は、はいっ!」


「着きましたよ。……どうかしましたか?」


「……あ、えーと、少し考え事していただけ。何でもないです。」


「そう。外は冷えるから、このまま上着は持っていて。」


「えっ、でも……。」


夢姫は羽織っていたジャケットを返そうと肩に手を掛けた。

神風はその手を止めると、そのまま優しく握った。

そして、手の甲に優しく口付けを落とす。そのままちゅっと軽く吸われ、ピリッとした刺激が走った。


「明日、大河との話し合いが終わったら僕が直接ゆめきちゃんの家まで取りに行きます。だから、そのまま持っていて。」


神風はいつも通りの無表情と抑揚の無い声に戻っており、夢姫には神風の感情が読み取れなかった。


「……分かりました。」


「今日は色々あって疲れたでしょ?ゆっくり休んで下さい。大河と会う場所については、後でメールで送ってくれればいいです。では、また明日。」


「ミツ君、ありがとうございます。……じゃあ、また、明日。」


夢姫はそう言うとガチャッと助手席の扉を開け、外に出た。

途端に冷たい夜風が身体を掠める。

夢姫は風で飛ばされないように神風のジャケットを軽く押さえながら手を振った。

神風は運転席から夢姫に向かって手を振り返すと、そのまま車で去っていった。

神風を見送った後もしばらく神風のジャケットを抱きしめてその場に立ち尽くしていた夢姫だが、寒くなってきたのか、くしゅっと小さいくしゃみをする。

そしてジャケット越し自身の腕を摩りながら身を翻すと、玄関の扉を開けた。


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