社会人サークル「リーガル」へようこそ 2
電車に揺られること、約十五分。
目的地の駅に着いた。
ここからは徒歩での移動になる。
「やばっ、少し急がないと集合時間に遅れちゃう!」
ここは都内屈指の国立公園。
広い敷地面積を持ち、競技場や野外ステージなど、様々な施設も兼ね備えた場所である。
集合場所は早歩きで移動してもそれなりに時間がかかるところにあった。
「え〜っと、案内板はここか。……真っ直ぐ行って右に曲がって左に行けばいいのね。まぁ歩けば着くでしょう」
夢姫は昔から地図を読むのが苦手で、いつも大雑把に当たりを付け、後は勘で目的地を探すことが多かった。
「初日から遅刻は良くないわ。ちょっと走ろう!」
ーーーーーーーーーー
「……はぁ、はぁ。あれ〜? この辺りだと思ったんだけどな……はぁ」
キョロキョロ周りを見回すも、人っ子一人いない。どうやら道に迷ってしまったようだ。
「おかしいなぁ……。どうしよう、このままじゃ間に合わないかも。遅れそうだって連絡しないと」
「……あの……」
「ひゃあっ!!」
ガシャン!!
電話をかけようとしたところで見知らぬ男に声をかけられ、びっくりして携帯を落としてしまった。
(ああぁああ〜! 携帯が!!)
画面が割れていないか心配になった夢姫は咄嗟に手を伸ばして携帯を拾い上げようとした。
……が、相手の男も携帯を拾おうとした様で、お互いの手が触れた。
「「あっ」」
「……その、ホクロ……」
夢姫は反射的に手を引っ込めた。
男は一瞬固まって何かを呟いたが、そのまま携帯を拾い上げた。
「……はい、携帯。ぱっと見ですが、画面は大丈夫そうですよ」
「ありがとうございます」
(この長身のイケメンは誰だ?)
「いきなり声をかけてすいませんでした。もしかしてリーガルに用事ですか? 社会人サークルの」
「あ! そうです! この辺りだと思ったんですが、道に迷っちゃったみたいで……はは……」
「やっぱり。この辺りは多目的コートとかもあって少し分かりにくい場所だから、最初に来た人は迷いやすいんです。僕はリーガルのメンバーでこれから集合場所に向かうんですが、良かったら一緒に行きませんか?」
「いいんですか!?ありがとうございます!!」
(ありがたい! なんて親切な人だ!)
夢姫はその男に甘えて一緒に歩くことにした。
「この道の裏通りに面しているコートが待ち合わせ場所なんです。フットサルが出来るコートはこの場所しかないらしくて」
「そうなんですか」
「フットサルの経験はありますか?」
「私ですか? 未経験です」
「初心者なんですね。うちのサークルは最初に初級と中級以上に分かれて簡単な練習をして、最後に練習試合をするんです。実力が偏らないように配慮してチームを分けているんで、初心者の方でも安心して参加出来ると思いますよ」
「そうなんですね。その話を聞いて少し安心しました」
こっそり目を盗んで隣の男を観察してみる。
長身のその男は全体的に色素が薄く、光を透かしたサラサラな髪は薄茶色だ。
体はやや細身だが、引き締まった体つきをしている。目は二重だが切れ長で、瞳の色は透き通った茶色。
独特の色気がある男だった。
(なんだか雰囲気のある人だな。若く見えるけど、落ち着いたしゃべり方だし、ひょっとして私より年上……?)
夢姫は隣の男をさりげなく観察しつつ他愛のない話をしていると、あっという間に集合場所にたどり着いた。
集合場所に着くと、入り口付近にいた男が声をかけてきた。
その男は、神風と同じく長身だが、ガッシリしたスポーツマン体型。短髪でこんがり日焼けした肌が特徴的で彫りの深い顔立ちだった。
「お、神風君! 彼女連れてきたの!? ヒュー、やるねーぇ〜」
「残念ですが、違います。今日初めて来た方で迷っていたから道案内をしただけです」
(道案内してくれた人、神風さんって言うのか。そして、目の前にいる、濃いイケメン……いや、イケメンってよりはナイスガイって印象かな)
「なんだ、違うのかぁ。あ、どうも、初めまして! リーガル代表の剛力です! 初めてってことはお名前は月野さんでお間違いないですか?」
「あ、そうです。月野夢姫です」
「初心者と伺っていましたが全くの未経験で?」
「はい、そうです」
「分かりました。では、リーガルについて簡単に説明しますね。リーガルは、まず初級と中級に……」
剛力が説明しようとしたところで、神風が横入りしてきた。
「剛力さん。その説明、僕が先にしました」
「なんだ、神風君。そうなら先に言ってよー。じゃあ、説明はいいですね。メンバーも揃ったので、まずは着替えてもらってもいいですか?あそこの建物に更衣室があるので。……おーい!! 他の人達も、着替えが済んでいない方は更衣室で着替えてきて下さーい! 着替えが済んでいる方はウォーミングアップするからこっちに来てねー!」
雑談で盛り上がっていた他のメンバー達も剛力の掛け声で移動を開始した。
(じゃあ、私は着替えてこよう)
夢姫は更衣室に移動することにした。
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更衣室は少し狭かったが、定期的に清掃が入る様で、想像していたより綺麗だった。
着替えていると、後から三名と二名グループが別々に入ってきた。
三名グループの一人、小柄で童顔、ロングな黒髪をツインテールにしているかわいい女の子が話しかけてきた。
「あっ! 新入りさんですかぁ? 初めましてぇ〜♡」
「はい、そうです! 初めまして月野です」
「月野さんって言うんですねぇ。……あ、私はユウヒって言いまぁす♡ よろしくお願いしまぁ〜すぅ♡」
「ユウヒさんっておっしゃるんですね。漢字は七夕の夕に日ですか?」
「はいそうですぅ。夕日って書きますぅ」
「ユウヒってお名前は苗字ですか? あまり聞かないお名前ですね」
「苗字で合ってますぅ。確かに珍しい苗字だってぇ、たまに言われますねぇ〜」
夕日と二人で話していると、残りの二人が話に入ってきた。
「ユウユウってさ、名前も現代にしちゃ個性的だよね」
「あはは、確かに。レトロでかわいいよね」
夕日が二人の会話に食い付いた。
「あーん、もぉ! マーサさぁんっ、ルリさぁんっ! 私の名前のことはいいじゃないですかぁ〜!」
夕日が泣きマネをしながら二人を咎めた。
「あはは! ごめん、ごめん、つい! ユウユウは名前の事をいじられるの嫌いだったよね。でも、私はかわいい名前だと思うけどな」
「もぉ〜、マーサさぁん! 私の名前のことはいいじゃないですかぁ!」
「まぁ、そう言わずに。そのうち分かることなんだからさ」
先に着替え終わった夢姫は話の邪魔をしないように、夕日と女二人を観察していた。
黒髪ショートの迫力ある美人でサバサバしたしゃべり方をする方がマーサと言い、茶髪ミディアムボブで切れ長の目が特徴的なアジアンビューティーがルリと言うらしい。
(夕日さんは声からして若いな。マーサさんとルリさんは美人で若く見えるけど、私より少し上かな……?)
そして、一足早く着替えたルリが、夕日とマーサを嗜めた。
「ほらほら、ユウユウもマーサもそのくらいにして、早く着替えなよ。あんまり待たせると男性陣が煩いよ?」
「はぁ〜い」
「はいはい、分かりましたよ」
「じゃ、私と月野さんは先に出てるよ〜」