【神風視点】見つけた 後編
神風視点のお話です。
サークルに入ってしばらくした時、奇跡が起きた。
最初はほんの偶然だった。
……そう、あの時。
落とした携帯を拾い上げようとして手が触れた時、君の『印』を見つけた。
「「あっ」」
「……その、ホクロ……」
僕は一瞬見間違いかと、目を疑った。
しかし、あの『印』はきっと君である証。
名前は「ゆめき」。恐らく君で間違いない。
僕はそれを確かめるために再度君に接触を試みた。
「月野さん。ここからはペアでの動きだから、ちょっといいかな?」
「あっ!は、はい!」
君の手を取ってみて、それは期待から確信に変わった。
「……やっぱり……。」
「どうしましたか?」
「……いえ、何でもありません。月野さんは指が長いなぁと思って。ボールを掴みやすそうでいいですね。」
「ボール?確かにそうかも?あはは、神風さんて面白いこと言いますね。」
目尻が下がって、老若男女問わずに取っつきやすさを感じる笑顔は昔のままだ。
……やっと、やっと……君に会えた。
君はあの時の約束を覚えているだろうか?
昔の……僕が幼稚園の頃の話だ。もしかしたら覚えていないかも知れない。いや、例え覚えていなかったとしても、僕は君を手放すつもりは毛頭ない。
……さぁ、どうやって君を僕の手中に納めよう。
僕は高鳴る気持ちを隠し、彼女に笑顔を向けた。
しかし、君を見付けて僕は浮かれていたのだろう。
柄になく調子に乗った僕は、初心者の君に無理をさせ過ぎたようだ。
その結果、君に怪我をさせてしまった。
僕は酷く後悔した。
しかし、そんな僕に挽回のチャンスが巡ってきた。
酒に酔った君を送り届ける口実を元に、2人きりになれる時が来た。
最初は君を家に帰すつもりだった。
「道案内もぉ、練習のサポートもぉ、私が色々迷惑かけてもぉ、神風さんは嫌な顔ひとつせずに丁寧に接してくれやした。……私ぃ、とても嬉しかったれす。」
君は僕を見てくれていた……。その言葉が嬉しくて、僕は君を帰したくなくなった。
そう……だから、電車で眠る君をそのまま寝かせてしまおうと思い付き、咄嗟に起こすのをやめた。僕の最寄り駅で降ろしたのは、実は僕の計画通りだったんだよ。電車から降りた後に再び眠り出した君には少し困ったけど、君を連れて帰るには逆に好都合だった。
ずっと探していた君が、僕のベッドで眠っている。
……長い睫毛、小さい鼻、血色の良い唇は昔から変わらない。無防備な姿を曝け出してくれる君に、僕は感動で胸が熱くなった。でも、意識のない君を無理矢理抱く気なんてなかったから、添い寝だけして君の寝顔を堪能していた。
……そうしたら、君は魘されながら僕に抱きついてきた。あの時は死んでもいいと思うくらいの至福の時間だったが、君は僕に抱き付きながら違う男の名を呼んだ。
……ヒロ?そいつは誰だ!!
僕は酷く嫉妬して、君に僕の印を付けることにした。きっとこれを見たヒロって男は気付くはずだ。
しかし、蓋を開けてみればヒロって男は別れた元夫だと言う。ホッと安堵したと同時に、再び嫉妬心が芽生えた。話を聞けばそいつはろくでもない男だった。
そんなやつが君と結婚し、一時でも君を独占していたのかと思うと、一刻も早くそいつを見付け出し嬲り殺してしまいたい……そんな感情が心の奥底からジリジリと湧き上がってきて、僕の心は再び仄暗い感情に支配された。
しかし、僕が過去の女達にしてきた事を知ったら、君はどう思うだろうか?
僕は自分のした事を棚に上げて君に嫉妬している事に気付いた。それと同時に、それが彼女に暴露て軽蔑される事に恐怖心を抱くようになった。
本当は君の連絡先を聞きたかったが、まだ根回しが済んでいない状況で、もし何かの拍子に過去が暴露たら……。連絡先を交換するチャンスはあったのに、僕は躊躇ってしまった。その結果、そのまま機会を見失ってしまった。
そうこうしているうちに、邪魔が入った。
僕の親友……大河だ。
アイツは中高と濃い時間を共に過ごしただけあって、僕の行動の変化に気付いていた。
見せ付けるように君の肩を抱いてみたり、ジュニアサッカーの子供達を使ってちょっかいを出してきたり、最初はからかっているだけかと思ったが、それは違った。
「もし、俺がゆめちゃんにアプローチしてゲットしちゃっても恨みっこなしね♡」
こともあろうに、大河は僕に対して宣戦布告をしてきた。その一言に、僕は一瞬で大河に殺意を抱いた。
「……ふざけるな!!」
絶対に君は渡さない。
君は僕のものだ。
……まずは君をアイツから守る。
それから君との距離を縮めていこう。
そして、昔の約束通り、僕と君は結ばれるんだ。