歓迎会の、その後5
夢姫がぼんやりと考え事をしているうちに、練習試合が終了したようだ。
「「「ありがとうございました!」」」
子供達の元気な声が響く。
しばらくして、神風や大河の元にワラワラと子供達が寄ってきた。
「神風コーチ、僕のドリブルどうだった?」
「レオ、俺シュート決めたぜ!」
(子供達、神風さんは「神風コーチ」、大河さんを「レオ」と呼んでる。そーいえば、2人の下の名前ってまだ聞いた事なかったな。)
大河が子供達に向かって話しかけた。
「お前ら、俺の事もコーチと呼べって言ってるだろ。公私混同するなっつーの!」
「練習の時はちゃんとコーチって言ってるよ!」
「そーだよ、今は試合終わった後だしいいじゃん!」
「……はぁ〜、これだから生意気なガキは。」
(ふふっ。大河さん、あんな事言ってるけど子供達に囲まれてなんだか嬉しそうな顔してる。)
神風は子供に向かってアドバイスをしていた。
「ドリブル、かなり良くなっているね。でも、まだ足の軸がブレる時があるから、基礎練習をしっかりするといい。今度みてあげるから、一緒に練習を頑張ろうな。」
(神風さんは何やら真剣にアドバイスしてるみたいね。2人ともタイプは違うけど、子供達からとても好かれているみたいで、なんだか微笑ましいな。)
夢姫の生温かい視線に気付いた子供が、大河にコソコソ話しかけた。
「レオ、あの女の人は?もしかして、レオの彼女?」
「残念、違うな。あの姉ちゃんは神風のお気に入りらしいぜ。」
「じゃあ、神風コーチの彼女なの?」
「さぁ、どーだろうな?お前、直接神風に聞いてみたら?」
大河はニヤニヤしながら夢姫と神風を見た。
(大河さん、ニヤニヤしながらこっちを見てるんだけど。なんか嫌な予感……。)
子供が神風に駆け寄って大声で話しかけてきた。
「神風コーチ!あの人彼女なんでしょ?側にいなくていいの?」
神風と夢姫はびっくりした顔をしてその子を見た。
「……急にどうした?この人は僕の知り合いだよ。」
「でも、お気に入りって事は好きなんでしょ?まだ告白してないの?」
「えっ……。」
(……んなっ!どっからそんな話が!?……犯人は大河さんか!?)
「早く告白しちゃえば?俺、応援するよ!」
その言葉を聞いた子供達がザワザワし出した。
「え、そーなの?神風コーチ!」
「神風コーチ、好きな人連れてきたの?」
「まだ告白してないの?じゃあ今しちゃえば?」
勝手に盛り上がった子供達は、一致団結したようで、どこからともなく告白コールが始まった。
「「「こーくはくっ!こーくはくっ!」」」
(ギャー!何だ、この展開!?)
「お前達、この人とはまだ何もない。ちょっと落ち着け。」
「なんだよ、神風コーチ!男らしくないぞ!」
「いや、だから……。」
「……くくっ」
神風が対応に困りながら子供達を宥めていると、大河の笑い声が漏れてきた。
「……大河、犯人はお前か。」
「か、神風が!ははっ!チビ達に押されて困ってるなんて、あはは!傑作!くく……笑いすぎて腹いてぇ。」
「お前、余計な事するなよ。ゆめちゃんも困ってるだろうが。」
「ははっ!わりぃわりぃ。チビ達がこんなに盛り上がると思ってなくてさ。……でも、お気に入りなことは否定しないんだ?」
「大河。お前さっきからしつこいぞ。言いたい事があるなら言え。」
「別にぃ〜?……おいおい、そんなに怒るなよ。悪かったって。おい、チビ共!そのくらいにしとかねーと、後で神風コーチに鬼のように扱かれっぞ!!」
「げっ!マジ!?」
「やべっ」
「神風コーチ、ごめんなさい!」
騒いでいた子供達は、まるで蜘蛛の子を散らすように一目散にその場を離れていった。
(蜘蛛の子を散らすようって言うけど、本当にその現場を目の当たりにするとは。子供達って色んな意味で素直ね。……って、いやいや!そんな事より大河さん!)
「ちょっと大河さん!子供達をからかったりしたらダメですよ!」
「ゆめちゃんも悪かったってば。ごめんちゃい♡」
「もー、今後はダメですよ。……あ、そういえば、大河さんて下の名前、レオっておっしゃるんですか?」
「ええ!?今更!?名前すら覚えてくれないなんて悲しいなぁ。じゃあ改めまして……俺の名前は、大河レオ。二十五歳、独身、彼女はいません、ヨロシク!」
「あ、こちらこそ、よろしくお願いします。……って、そうじゃなくて!歓迎会の時はみなさんあだ名か苗字呼びしていたじゃないですか。だから名前が分からなかったんです。」
「ゆめちゃん、ノリいいねぇ♡……あ?そーだったっけ??じゃあ、もしかして神風の名前も知らねぇの?」
「はい、知りません。」
「名前知らない間柄でお泊まりなんてハレンチな!って、やだなぁ、ゆめちゃんそんなに怒らないでよ〜。あ、そうそう、神風の名前ね。あいつの名前はミツキ。神風光希だよ。」
(ミツキ……?あれ?なんか前に聞いた事があるような名前だな。……気のせいか?)
「そうなんですね、覚えておきます。」
「おい、大河。余計な話はいいから、荷物まとめるの手伝え。ゆめちゃん、悪いんですが、荷物をまとめてくるので少しだけ待っていてもらえますか?」
「神風も人使い荒いな〜。はいはい、分かりましたよ。じゃーねー、ゆめちゃん。またサークルで会おうね。」
手をヒラヒラと振りながら、大河は神風と共にグラウンドに戻っていった。