歓迎会の、その後2
(部屋にいる時は分からなかったけど、ここってタワマンだったんだ……。)
エレベーターで降りながら、夢姫はそんな事を考えていた。
(しかも最上階……だよね?山の手線内から外れた場所とはいえ、ここら辺のタワマンも相当なお値段のはず。家賃いくらなんだろう?それとも、まさか購入?
いやいや、独り身でさすがにそれはないか……。)
広い玄関ロビーを抜け、エントランス部分で待っていると、白いミニバンが一台やってきて、中から神風が出てきた。
(あのエンブレムは、高級車だよね?もしかして神風さんてお金持ちだったの??)
「お待たせしました。後ろは荷物が入っているので、助手席に乗ってください。」
神風は、助手席のドアを開けて夢姫をエスコートした。
「あ、はい。ありがとうございます。」
パタン、と扉が閉まり、運転席に神風が乗り込んだ。
「自宅付近になったらナビしてくれると助かりますが、道案内は出来ますか?」
「花々駅付近の道なら大体分かるので大丈夫です。」
「了解です。じゃあ、このまま出発しますね。……ちょっと失礼。」
神風は突然助手席に腕を回して体を寄せてきた。
(はわわわっ!ち、近い…!)
急に神風が近付いてきたのでドキッとした夢姫だが、神風は車をバックをするために半身を捩っただけだった。
(あ、なんだ車をバックさせるためだったのね。うぅ、今朝の添い寝事件があってから、嫌でも意識しちゃう〜。)
「ゆめちゃん、顔が赤い。もしかして、男として少しは意識してくれている?」
ガン見している夢姫の視線に気付いた神風が、少し意地悪そうな顔で訪ねてきた。
「え!!!いや、その……。」
「ふふっ、冗談ですよ。ゆめちゃんて、いい意味であまり年上っぽくないですよね。……そーいえば、朝聞きそびれたんですが、寝言で「ヒロ」って何度も呼んでかなり魘されていましたけど、悪い夢でも見ていたんですか?」
(……ヒロ……。)
「それは……元夫の名前ですね。寝言をしゃべっていたところを見られるなんて、お恥ずかしい限りです。」
「……ゆめちゃんて、結婚していたんですか?」
「あ、はい。でも……最近離婚したんです。バツイチってやつですね、あはは。」
「そうだったんですか……。すいません、余計な話を振ってしまいましたね。でも、もしお子さんがいるなら早めに帰らないと。」
「あ、子供を授かる前に離婚しているのでその心配はいらないです。お気遣いいただいてありがとうございます。」
「そうでしたか。それなら安心しました。」
「すいません。バツイチを隠すつもりはなかったんですが、中々言い出す機会もなくて。サークルのメンバーにも先に話しておいた方が良かったですか?」
「プライベートな話題だし、無理に話す必要はないと思いますよ。」
「そうですか。じゃあ、必要に応じて対応することにしますね。離婚は嫌な思い出だけど、悪い事していないのに隠すのも何か違う気がするし。それに、元夫と別れて今は清々しい気持ちなんです。大体、借金した挙句に浮気するやつなんてこっちから願い下げです。」
「……借金と浮気?」
「『世界一のボディビルダーに、俺はなる!』とか言って、プロテインやらトレーニング機材に湯水のようにお金使っちゃって。借金でどうしようもなくなったら、今度は金回りのいいマダムを捕まえて、不倫の末に海外逃亡ですよ?今はどこで何をやっているのかすら分かりませんし、知りたくもないです。」
「未練は、ないんですか?」
「夫にですか?そんなもの、ない、ない!!むしろ離婚出来て良かったと思っています」
「……そうですか。」
「ごめんなさい、変な話をしちゃいました。」
「話題を振ったのは僕ですし気にしないで下さい。話してくれて、ありがとう。」
「えと……こちらこそ、聞いてくれてありがとうございます。……ふふっ。」
「……?どうかしましたか?」
「いや、2人してありがとうって言い合っているから。
なんかおかしくなっちゃって。」
「……ふ。確かに。」
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「場所的にゆめちゃんの自宅より早くグラウンドに着くので、先に荷物だけ置いてきてもいいですか?」
「あ、はい。いいですよ。」
「じゃあ、このままグラウンドの駐車場にに行きます。荷物運ぶだけなので用事はすぐに終わりますが、エンジン切った車内は蒸し暑くなるかも知れないので、良ければグラウンド内の休憩所で待っていてください。」
「分かりました。」
駐車場に着いた神風と夢姫は車から降り、荷物を持った神風は夢姫と一緒に歩き出した。
「ここから真っ直ぐ見える建物が休憩所なので、中で休んでいてください。僕はこのままグラウンドに行ってから休憩所に寄りますので。」
「あぁ、あれですね?了解です。」
「では、後ほど。」
そう言い残し、神風はひとりグラウンドへ向かって歩き出した。
(じゃあ私は休憩所で待っていよう。)
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「……あれ?もしかして、ゆめちゃん?」
休憩所に着き適当な場所に座っていると、いきなり背後から声を掛けられた。驚いて振り向くと、そこには大河がいた。
「え、大河さん!?こんなところで会うなんて、びっくりしました。どうしたんですか?」
「俺はサッカーチームの助っ人で準備に駆り出されてきたんだけど。……それよりなんでこんなところにいんの?今日はうちのチームとの練習試合以外には使用予定はなかったはずだけど?」
「……あっ。えーと……。」
(どうしよう、こーゆー時は何て答えたらいいのかな。
やましい事をしていた訳じゃないけど、神風さんと一緒に来た、なんて言ったら色々と誤解されそうだし。でも、ここは正直に経緯を説明した方がいいかな。)
夢姫が言葉に詰まっていると、背後から神風の声がした。
「ゆめちゃん、お待たせしました。……大河?」
(あっやば。鉢合わせになっちゃった。)