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歓迎会の、その後1


夢姫は夢を見ていた。

離婚した元夫とトレーニングをしている夢だった。場所は某スポーツジムで、目の前には巨大なバーベルが。ちなみに、元夫はスポーツトレーナーをしながら若手のイケメンボディビルダーとしても活躍する、自他共に認めるトレーニングバカであった。


「はっはっは!夢姫!こんな重さも持ち上げられずにどうするぅ!!俺を超えて行け!さぁさぁさぁっ!あとワンセットォ!!」


「ヒロ!無理だよ……!ゔっ、つ、潰れる……!!」


「人はこんな重さでは潰れないぞぉ!!さぁさぁさぁっ!昨日の自分を超えるんだ!!行けっ!夢姫!!己を超えろぉー!!!」


トレーニング中に暑苦しいくらいの掛け声で煽るのが元夫の癖だった。


「……ほ、ほんと……む゛り゛……」


(た、助けてーー!!)


夢姫は上から乗ってくる巨大バーベルから逃れようと、そばに落ちていたこれまた巨大なプレートにしがみ付いた。プレートはビクッと動いたあと、なぜか手がにょきにょき伸びてきて巨大バーベルから守るように抱きしめてきた。本来プレートは金属製のはずなのに、なぜか温かい。夢姫はその熱が心地良く、プレートに頬を寄せた。


(……あぁ〜気持ちいい。ヌクヌク。)


しばらく温もりを堪能していると、不意に頬に柔らかいものが触れた。


「ん……?」


頬から顎にかけてその感触は移動し、首筋にくすぐったいような甘い刺激を感じた。


(なんだろう。首筋がくすぐったい。)


「ふ?んん……。」


「このまま襲っちゃってもいいの?」


(…………男の声!?)


夢姫は、聴き慣れない低声にびっくりして目を開けた。目に飛び込んできたのは明らかに女とは違う逞しい腕と、服の上からでも分かる引き締まった胸板だった。


「!?!?!?!」


(お、おおお!男!!男が寝てる!?一体何事!?)


夢姫は声にならない声を上げつつ、びっくりして飛び起きた。


「おはようございます。」


隣で肘枕をして寛いでいた男は、神風だった。


「………え?神風さん……?あれ?ここは……」


見覚えのない部屋と、神風がベッドにいる状況に混乱する夢姫。


(ま、まさか!!)


慌てて服を確認すると昨日の服のまま寝ていたらしく、服にシワが寄っていた。


「昨日酔ったゆめちゃんが駅のホームで寝てしまって起きなかったので、そのまま僕の家に来たんです。僕はリビングのソファで寝ようとしたんですが、寝ぼけたゆめちゃんがしがみ付いたまま離れなくて……。落ち着くまで隣にいたんですが。覚えていませんか?」


(……あ、一晩の過ちではなかったのね。ってか、私!!色々やらかしてる!!)


少しほっとしつつも、自分のやらかした事の大きさに申し訳ない気持ちの夢姫は、ベッドにいたまま神風に向かって土下座した。


「神風さん!申し訳ありません!!」


「……そんなことをされても困りますので、頭を上げてください。」


「で、でも……!」


「それより、服が乱れているので、直した方がいい。

もしかして、誘ってる?」


「……え!!!いや、あの、その……。」


「ふふっ、やだな冗談ですよ。それより、朝食用意するので、その間に良かったらシャワーや洗面台を使ってください。寝室出てすぐのところにありますので。」


「……ありがとうございます。」



ーーーーーーーーーー



身体がお酒臭かったので、シャワーを借りることにした夢姫は、浴室で最大限に落ち込んでいた。


(ああぁぁあー!!なんということ!!!良い年してお酒で失敗するなんて!しかも記憶が全くないとは……。ってか!!神風さんセクシー過ぎない!?年下なのに、あの余裕と色気はなんだ!??いやいや、そんな事よりまずは迷惑かけた事をしっかり謝らないと!)


一人悶々としつつ、浴室を出て身支度を整えた夢姫は、リビングへ顔を出した。


「あ、ちょうど良かった。今コーヒーが出来たところなんです。簡単な朝食ですけど、良かったら一緒に食べませんか?」


テーブルには、トーストとベーコンスクランブルエッグ、それにサラダが二人分並んでいた。


「……これ、神風さんが用意したんですか?」


「?そうですが。」


「男性でここまでしっかりした朝食を用意するなんて凄いなと思ってびっくりしちゃいました。しかも私の分まで……。ありがとうございます。」


「あぁ。普段はコーヒーだけなんですが、休日は簡単に作って食べています。このくらいならあまり時間もかからないし。……トーストが冷めるんで、よかったら食べて下さい。」


「あ、はい!!ありがとうございます。いただきます!」


(男性が用意してくれた食事を堪能出来るなんて、生まれて初めての経験かも。元夫は料理どころか家事全般からっきしだったからな。ちょっと感動。)


夢姫は神風に促されるまま席につき、出された朝食を噛み締めるように味わった。


(はぁぁ〜。どれも美味しい……!)


「ゆめちゃんは美味しそうに食べますね。」


「そうですか?どれも美味しくてつい黙々と食べてしまいました。」


「歓迎会の時も美味しそうに料理を食べていましたよね。」


「そうかな?自分じゃ良く分からないけど……。あっ!それよりも……。神風さん、改めて、昨日から今日にかけてご迷惑をおかけしました。本当にごめんなさい。」


「そんなに畏まらないで下さい。こちらこそ、男の部屋に連れ込む様な形になってしまって、なんだか申し訳ない。」


「いいえ、そんな!!そもそも私がお酒を飲み過ぎたのが原因だし、神風さんは何も悪くないですよ!」


「……いや、まぁ……。この話はもう終わりにしましょう。それより、怪我した箇所は大丈夫ですか?」


「あ、はい。もう全然大丈夫です。ありがとうございます」


「良かった。でも怪我の範囲が広いので、念のため病院に行って診察は受けて下さいね。」


「はい、そうします。」



ーーーーーーーーーー



雑談しながらの朝食も終わり、後片付けをした後、神風は夢姫に話しかけた。


「今日はこの後、剛力さんのところのジュニアサッカーチームのコーチをしに行くんです。ちょうど他チームとの練習試合で場所がゆめちゃんの使う駅の一つ先の駅なんですよ。荷物を運ぶ関係で車を使うので、よかったら自宅まで送ります。」


「あ!もしかしてあのグラウンドかな?あそこなら自宅から自転車でも行ける距離にあります。……でも、本当にいいんですか?」


「ついでなので気にしないでください。車はここの―地下駐車場に停めてあるので取ってきますね。エレベーターを降りて玄関ロビー出たところで待っていてください。」


「はい、分かりました。」


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