歓迎会は、ドキドキの予感!? 2
剛力の向かいに座っていたルリは、収集の付かなくなっていた夢姫のあだ名について口を挟んだ。
「はいはい。いい大人が名前の呼び方ひとつでそんなに揉めないの。ちょうど歓迎会の場なんだし、この場にいるメンバーの多数決で決めたらいいじゃない。」
「お!さすが、ルリちゃん!分かってるね〜。この場も盛り上がるし、多数決にしようか!はい!みんなー、ちゅーもーく!!」
立ち上がって声を張り上げた剛力に、メンバー達が何事かと顔を向ける。
「ちょうど今、月野さんのあだ名について話し合いをしていたんだけどさ。収集が付かなくなってきたから、みんなの多数決で決めようと思いまーす!」
飲み会の席での多数決は割と盛り上がるイベントだ。「おぉー!」と、メンバー達が楽しそうに声を上げた。
「まずは、ユメユメがいいと思う人、挙手ー!!」
パラパラと手が挙がる。
「じゃ、次!ゆめちゃんがいいと思う人ー!!」
かなりの人数が手を挙げた。
「これで最後!ゆめきさんがいいと思う人ー!!」
ほとんど手を挙げる人はいなかった。
「結果は明らかだね!ゆめちゃんに決定!!みんな、今日から月野さんのことはゆめちゃんと呼ぶように!!」
「「「はーい!」」」
(……みんな団結力あるなぁ。)
夢姫のあだ名はゆめちゃんに決まった。
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歓迎会は、和気あいあいとした雰囲気で終盤に差し掛かってきた。
「もうすぐラストオーダーの時間だから、みんな悔いの残らないように、今のうちにたくさん食べて飲んで下さいねー!!」
(あ、もうそんな時間なのか……。)
夕日のマシンガントークと、大河と神風の天然漫才コンビに囲まれた夢姫は、楽しさのあまり時間を忘れて過ごしていた。
(もうすぐお開きになるなら、先にトイレ行こうかな。)
立ち上がってトイレに行こうとしたら、酔いが思いの外回っていて、足が少しふらついた。隣にいた夕日は少し心配そうに夢姫に声を掛けた。
「……ゆめちゃん、大丈夫ぅ?」
「ぁ、ユウユウ。大丈夫れす。ありあとぉ。」
若干呂律の回らない夢姫だったが、そのままトイレに向かって歩き出したので、夕日はそのまま夢姫を見送ることにした。
(ふー、ちょっと飲み過ぎちゃったかな。ユウユウもだけど、みんな飲むペースが早いからなぁ。あまり飲むつもりはなかったんだけど、周りに釣られて結構飲んじゃっていたのかも。)
「……さて、そろそろ席に戻りましゅか。」
独り言をいいながらトイレを出た夢姫。
席に戻ろうと来た道を引き返そうとしたところで、神風が向かい側からやってくるのが見えた。
「あ、神風さんら。ヤッホー!」
お酒が回り気分の良くなった夢姫は、神風に向かってブンブン手を振りながら駆け寄った。
「あ!……ゆめちゃん!そこ段差になってる!」
「……え??ぅわっ!!」
夢姫は段差につまづき、前につんのめった。
(あーーーれーーーー!!またこの展開!!)
本日2度目の、地面にダイブを想像した夢姫はギュッと目を瞑った。
……が、一向に地面はやってこない。
「はぁ〜……。またですか、勘弁してくださいよ。もう、行動が危なっかしくて見ていられない。」
神風はとっさに駆け寄り、夢姫を抱き止めてくれたのだ。
(神風さんて、細身だと思っていたけど、結構厚い胸板。そして、いい香り。イケメンは匂いまでイケメンなのね……って、イヤイヤ!何考えてんの私!!)
どさくさに紛れて神風の男らしい胸板と匂いを堪能した夢姫だが、神風の言葉にハッと我に返って、バッと神風から離れた。
「す、すいましぇん!また粗相を!!」
「怪我しているのに結構飲んでいたから、心配で様子を見に来たんです。見に来て正解でした。」
「……心配してくれたんれすか。ありあとぉございやす。」
「ゆめちゃんは、ここから自宅までは近いですか?」
「んー、どぉだろ?北部虹色線で15分くらいの花々駅れす。」
「そうなんですね。僕も北部虹色線です。もし、嫌じゃなければ、歓迎会が終わった後、途中まで一緒に帰りませんか?他のメンバーは、そっち方面に帰る人がいないので。」
「そうなんれすか。」
「……呂律回っていませんが大丈夫ですか?」
「大丈夫れす。先戻りますれ。」
夢姫はフラフラしながらも席に戻って行った。