同居生活の始まり
「うまっ!マゴリア料理上手くねえ!?異世界メシは初めて食ったけど、俺の世界のメシと大差ない!」
「あ、ありがと。素直に嬉しい」
魔女の作る適当なメシなんて、ヤモリの黒焼きだのマンドラゴラの野菜炒めだのゲテモノを覚悟していただけに、普通の家庭料理が出てきたときには驚いた。食ってみてますます驚いた。西洋ファンタジー風の世界観だから、絶対中世レベルのクソマズ飯を覚悟してたんだが……
「いやー感激だわ、元の世界じゃコンビニ飯ばっかでさあ、女の子の手料理なんてそれだけでテンション上がる」
「コンビニって何……まあ、喜んでもらえて何よりだわ。それよりアンタ、今後住む所なんだけど、どうしようかしらね」
「あ、そうそう。そこ俺も気になってた」
マゴリアの出してくれたスープや肉料理なんかにがっつきつつ、俺は尋ねる。
「そもそも転生者を迎えるつもりだったんなら、その衣食住について保証する気ってあったの?」
するとマゴリアは決まり悪そうに答えた。
「うーん……いや、正直ね、アンタが転生してきた時にポロっと言ったと思うけど、マジで転生者が来るなんて思ってなかったから……実は何も考えてなかった」
「そりゃあ、まずいなあ」
俺も人間だから、飯は食わなきゃ生きてけないし、寝床だって欲しい。
とはいえ女の身であるマゴリアの家に泊めてくれというのも図々しさを通り越して下心が見え透けるので却下である。そりゃ、泊めてくれるならそれが一番楽だけど。
あっちの都合で呼び寄せたんだから、と強引に迫るのは、代案が何もない時だけにしよう……と俺は思いながら、マゴリアの口からどういう提案が出てくるのかを興味津々に待っていた。
「んじゃあ、ウチに泊まって」
ややあってマゴリアはサラリと言い出す。
俺は拍子抜けすると同時に、僅かに疾しさと期待を感じてしまう。
「え、でも」
俺が何か言う前にマゴリアは続ける。
「ウチ、結構広いしね。二階にアンタの部屋用意するから、ゆっくりしてて。小一時間もあれば準備できるから」
「お、おう」
まだ儀式をしていた地下室から一階のリビングらしきゴチャついた部屋に来ただけなので『広いし』のレベル感は分からないが、広いとか狭いとか以前に男を一つ屋根の下に泊める事への抵抗感がまるでないかのようなマゴリアのあっさりした態度に、期待は実らないかな……という気持ちが生まれるのは否めなかった。
「ま、会ったばっかの女の子にそこまで下心剥き出しにしてもね」
俺は自戒しつつマゴリアの飯の残りを腹にかっこんで、邪念をお茶と共に腹に飲み下すのだった。
◇
「お待たせ。ここがアンタの部屋よ」
そこはどうやら元は倉庫か何かに使っていたらしくやや散らかってはいたものの、ベッドは用意されちゃんとした個室になっていた。ガチャリと窓を開けると、外の景色が見える。
「おー、街の景色、いいな」
「でしょ、一等地なんだから」
俺は初めて異世界に来て、外の空気を吸った。
胸いっぱいに広がる異世界の風。少し鉄臭いそれは、恐らくは『国の危機』に関係する何らかの血生臭い事情によるものだろう。
「……でも、なんか平和だな」
異世界の街並みを二階の部屋から眺める感じでは、別にその辺に戦災孤児が飢えて死にそうだとか、兵士が傷つき倒れたまま死を待っているとか、そういう切羽詰まった状況にはなさそうだ。
「表面上はね……でも、この国を襲ってきた魔王の軍勢は、日々少しずつ私たちの領土を脅かしているわ」
「魔王の……軍勢」
それが俺を呼び寄せた理由という訳か。
マゴリアの言葉に少し気を引き締め、俺は改めて決意した。
「マゴリア。君が何の取り柄もない俺の能力……妄想を活かしてくれた事、感謝してる。もし、俺たちがこの国を救う事が出来たら、俺は……」
俺は……何だろう。なんか良い感じのエモい台詞を言おうとして、俺は言い淀む。
「ま、そんな先の話は良いじゃない。それより、共同生活になるんだからお風呂とか水回りの事は覚えておいてね。アンタ、物覚えは良さそうだから心配はしてないけど」
言いかける言葉は生活感のあるマゴリアの『共同生活のルールについて』という話で遮られ、俺は苦笑した。
「……いかんいかん。まだ打ち解け切れても居ないんだから、色々先走らないようにしないとな」
俺はマゴリアの指示に従って、これからマゴリアの家で生活するに当たっての諸注意を頭に叩き込んでいくのだった。
妄想★マテリアライゼーション!6話をお読みいただきありがとうございます。
衣食住の話。地味っす。
女の子との同居生活に結構露骨にすけべ心を滾らせる主人公。
アニメとかで客観視するとうわあってなるんですけど、まあ、こんくらい分かりやすい方が男は親近感を覚えるんですよね、書いてて。
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