伝説の武器なんて、簡単に作れない
「はああああ!生まれよ、空を切り裂く魔剣!!」
「ちょっと、うるさいわよ。黙って妄想に集中なさい」
俺とマゴリアはハムスターに引き続き『伝説の武器』を具現化すべく、妄想と妄想具現化の魔法『ファンタズム・マテリアライゼーション』に挑んでいた。
しかし……
「うおお、何故だ!?何故生まれぬ、魔剣よ!!我が力に呼応せよ、魔剣グラム!!」
「ちょっと勝手に魔剣の名前付けないで!!」
どれだけ逞しく妄想しても、どれだけマゴリアが魔力を注いでも、マテリアルはうんともすんとも言わず、俺たちはただのイタい妄想を繰り広げるアニメ好きのオタクの同好会みたいな有様になっていた。
俺は現代の衣服でマゴリアが魔女っ娘コスプレ女と思うと、割とガチでそれっぽいのが辛い。
「はーっ、はーっ、はーっ。くっそ……お、俺の妄想力がこの程度だと……言うのか……!?」
「ちょっとアンタさっきから変よ?落ち着きなさいっつーの」
俺を窘めるマゴリアの言葉は確かに正論なのだが、厨二病モードに入ってしまった今の俺には馬の耳に念仏である。
「だってお前伝説の武器の再現だぞ!?そんな厨二病ワードを突き付けられて、妄想力を持て余してバイトをクビになる程の男がそそられないわけないだろ!!」
「知らないわよバカ!魔術は繊細な儀式なんだから、もーちょっと厳かにして!色々台無しなのよ!!」
あーもう疲れた、と言ってマゴリアはその場にへたり込んだ。
汗もびっしょりで、ただでさえ露出が多くエッチな感じの衣装が更に艶かしい感じになっていて、俺の中の厨二病モードが徐々に薄れてスケベ心を刺激される事に気付く。
そんな俺の露骨な視線に気付き、マゴリアは顔を赤らめる。
「ちょっと、あんまり見ないでよバカ。スケベ」
「あ、ごめん。つかそれ、儀式用の格好なのか、マゴリアの趣味なのか、どっちなの。正直、目に毒過ぎる」
「儀式用のローブよ……悪魔召喚に近いから、魔女の身を捧げる意味でもコレが正式なの。まあ、別にアンタにあたしの処女を捧げる気なんてないけど」
「すげえ事をカミングアウトしやがったなこいつ……」
割とあけすけな態度を取るマゴリアだが、その言葉は結構危険だぞ……と思う俺。
「ま、いいわ。今日はもうやめときましょ。魔力を使いすぎて疲れちゃったわ」
「えっ、救国のためなんだろ?一刻を争うんじゃないのかよ」
俺はそんな風に切り替えるマゴリアを前に驚くが、マゴリアはあっけらかんと言い放つ。
「バカねえ。国を救うなんて大事業、あたし一人でどうにかなるわけないじゃない。あたしは国を救うための一つの手段を講じるよう、王宮から命じられているいち魔道士よ。あたしだけじゃなくて、色んな魔道士がみんな頑張ってんだから」
「な、なるほど……」
マゴリアの言い方が大仰すぎて勘違いしていたが、別に俺たちの双肩にこの国の未来がかかっている!!なんて大層な状況でもなければ、明日にも伝説の武器を再現せねば!!なんて切羽詰まった状況でもないらしい。
通りで、最初は小動物から、だなんて地道な事を言い出すわけである。
俺は少し拍子抜けしたというか、肩透かしを食らったような気分になるが、まあ徐々に頑張っていく、という猶予が与えられているのはありがたい事だ。
そして、異世界に転移してきてから約3時間、ようやく気付いたのだが……
「……腹減った」
「そうね。あたしもお腹ぺこぺこ。上に戻りましょう、なんか適当に作ってあげる」
マゴリアはそう言うと儀式の部屋から階段を上がっていった。
そして俺は思った。
「てか、だから転生じゃなくて転移なんだよなコレ……俺、帰れるのかな?」
帰った所で無職の俺に、何の展望があるのかは分からないが。
ただ、このままこの世界にい続けたとして……そう、腹が減った事で気付いたのだが、俺はどこに住んで、どこで飯を食うのか。
そんな根本的な衣食住への不安が、むくむくと湧き上がってきて首をもたげるのを感じていた。
妄想★マテリアライゼーション!5話をお読みいただきありがとうございます。
伝説の武器を簡単に作れたらありがたみがないよね……というわけで勢いに任せた具現化は失敗です。
そして今更だけどこの小説、転生じゃなくて転移なんす。
つまり雄臣くんには戻るべき世界が……あるんだけど、戻りたいのかなあ。
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