パパとママこそ、私がいなくてもちゃんとご飯食べてね
「うん、それはパパが悪いね。反省して。シェリルさん、可哀想」
「面目次第もございません……」
シェリルさんの屋敷から帰ってきて、マリルに一部始終を話すと、普通に怒られた。
「浮かれすぎだよー、私にならいくら惚気を話そうと別に良いけど」
「分かってたつもりなんだけど、だからなるべくただ事実を話す感じで言ったつもりだったんだけど」
「言い方の問題じゃないんじゃない?勿論、言い方を考えた事はまぁ、最低限許すとしても、相手が相手でしょ」
そうだなぁ……。
シェリルさんが『普通に無理なんだよ』と諦めていることにかこつけて、甘えすぎたな。
今度、改めてお詫びをしよう……。
「あと、まさかとは思うけど私やシェリルさんに相談してたことはママには言ってないよね?」
「言ってない」
流石にそれは言えるわけがない、恥ずかしすぎる。
「私とシェリルさんの両方に相談してる事実をお互いに明かしてしまっているパパだから、有り得ないと思いつつも可能性ゼロじゃないなあって」
「信用ねえな……」
パパって人の気持ちに敏い所と疎い所がけっこう両極端だよね、とマリルは言った。
「なんていうか、対面した人の気持ちを態度とかからスッと推測して理解できるくせに、自分の言葉で相手の気持ちがどう動くかまではあんまり想像しないで言っちゃう感じ、ない?」
「……それは、確かに、あるな」
俺は何となく、俺のこれまでの人生での失敗をそのまま言われているような気持ちになって、ガチで凹んでしまう。
「これからはママと夫婦関係なんだから、もっと色々考えたほうが良いと思うよ。『義理』を越えて、お互い『愛情』で繋がる関係になるんだから」
「すげえ速度で人間情緒に敏くなったマリルの成長に俺は脱帽するよ……」
マリルは俺に滔々とお説教をする。
でも、そうだな。俺はマリルの言葉に、深く納得する。
もう、俺とマゴリアは夫婦になるわけだから、お互い遠慮なく言うことも増えるだろう。
これまでも遠慮するな、とか言ってたけど、そりゃあくまでも『仕事関係』と『同居人』ってだけだった。
今後はそれに加えて『愛情』が含まれる以上、これまで踏み込めなかった事も色々言うようになるだろう。
多分、お互いに好き同士なのに喧嘩が増える、なんて一見矛盾するような事も起きるだろう。
でも、だからこそ。
互いを尊重しあい、より慎重に関係を続けて行くことが大事になるだろう。
「シェリルさんの件は、彼女には申し訳ないことをしたと反省する反面、いい試金石になったと思うよ……マゴリアに同じような事言って、怒らせないようにしないとな……」
「だね」
俺とマリルがそんな話をしていると、後ろから声がかかった。
「何の話してるの、オスオミ、マリル?」
ぎくり、と俺は慌てるがマリルは冷静沈着に答える。
「アカデミー入学時の私の『設定』の打ち合わせ。取り敢えず先日ママが言ってくれた『里子』案に枝葉末節をくっつけていこうかな、って」
よくそんな嘘が淀みなく口からペラペラと出るものだ……。
俺の血かな?などと思って感心してしまう。血は繋がってないけどな。
「そうね。ま、あたしはそういう台本を読むのはともかく、考えるのあんまり得意じゃないからオスオミとマリルに一任するわ。さて、アカデミー入学手続き進めないとね……えっと、学用品も買わないとだし」
そう言ってバタバタとまた準備に戻るマゴリア。
「ふう。危ない危ない」
「間一髪だったね。もうこの話はあんまりしないほうが良いね」
そうだな、と俺は頷く。
マゴリアとの関係はもう夫婦になった以上、その進展を相談することもなかろう。
俺はこれまで粘り強く相談に乗ってくれたマリルに感謝しつつ、話を打ち切るのだった。
◇
「お待たせオスオミ、マリル。アカデミーの入学手続き、済ませてきたわよ。入学時期は年に4回だから、次の入学は、ええと……1週間後ね」
マゴリアはアカデミーから帰ってきて、入学に必要な各種書類と今後の日程について書かれたメモを見せてくれた。
「1週間後か」
それは奇しくも俺たちが5本目の伝説武器を精製しようか、というタイミングだ。
次はいつもの『烈風の剣』じゃなく、別のものを試してみないか?とも言っていたな、そう言えば。
因みに、地球の暦で言うと今は9月末くらいに相当するみたいだ。
なので、マリルは(地球の暦で言うとだが)10月1日に入学する、という事になるらしい。
「通常の入学式が春(4月1日)なんだけど、半年ズレる事になっちゃうわね。ルームメイトもこの時期の入学生の中から選ぶとなると、少ないかも」
とは言っても、日本の学校の感覚とはだいぶ違うので、そこまで気にすることはないらしいが。
「マリル、6年間も大丈夫?なんだか、あたしのほうが心配になってきちゃった」
マゴリアは母親らしい台詞を言うが、マリルは言う。
「んーん。私、全然平気だよ。パパとママこそ、私がいなくてもちゃんとご飯食べてね」
などと、マリルは俺たちの胃袋の管理者らしい台詞を言った。俺は思わず苦笑するが、
「大丈夫、そのためにマリル先生から料理教わったわけだしな」
「そうね」
俺とマゴリアは顔を見合わせて、それからマリルに向けて大丈夫、のジェスチャーをする。
「良かった」
マリルはにこりと笑い、安心した、と言った。
残り1週間。
俺たちが三人で一緒に暮らす生活も、マリルが寮生活を始めれば6年間はお預けだ。
それまで、何をしよう。
しばらくは離れ離れになるのだ。
家族っぽいことを、沢山しよう。
旅行もいいし、川の字で寝るとかも良いかな。
俺は、そんな風に『三人家族としての』残り時間をどう過ごすかについて思いを巡らせるのだった。
妄想★マテリアライゼーション、45話っす。
マリルちゃんのお説教と、アカデミー入学前のやり取り。しんみり。
この子、生まれたての頃は無垢なエッチボディのハーレム要員のつもりだったんすけどねえ……。
なんか……いい娘に育っちまったな……。
そしてエルフ設定がほぼ死んでるな!(2回目)
マジでこの辺、少しは活かせるエピソードが欲しい。




