本当にありがとうな。俺を、この世界に呼び寄せてくれて
「今日はほんと、ごちそうさま。美味しかった。片付け、手伝うよ」
「お粗末さまでした。じゃあ洗い物、半分ずつ分担しましょうか」
「半分じゃなくて三人で分担だよー!」
マリルも間に入って、俺たちは手早く洗い物を済ませた。
食後のひとときをリビングで過ごしていると、マリルが耳打ちしてくる。
「……今夜、言うの?」
俺は少しドキッとしたが、無言で頷く。
マリルは満足そうに笑うと、じゃあ私はお邪魔にならないように早く寝ちゃうからね、と言った。
ありがとうよ。
「パパ、ママ、私もうお風呂入って寝るね。ごゆっくりどうぞ」
マリルはハッキリと聞こえるようにそんな事を言って、そそくさと風呂場に行ってしまった。
……マリルちゃん、最後の一言は余計だよ。
俺はにわかに緊張してしまい、マゴリアも少しばつが悪そうに目を泳がせていた。
「……オスオミ」
俺が何と声をかけようか迷っていると、逆にマゴリアから声をかけてきた。
「え!?な、何?」
少し声が上ずってしまう。
「何、緊張してんの。……いやー、しかしアンタが魔法を使えるようになって、マリルがアカデミーに入学かぁ。何ていうか、感無量だわ」
マゴリアは感慨深そうに言う。
「そうだなぁ……俺が召喚された当初は、こんな事になるとは思ってなかったよ」
俺もしみじみと召喚当初を思い出し、少し恥ずかしくなる。
「それは、あたしもね。そもそも、異世界からちゃんと召喚できるのか?ってところからして『思ってもみなかった』わね」
言ってたな。
「シェリルさんには感謝しないとだなあ」
シェリルさんがマゴリアに異世界召喚術を正しく手助けしていなければ、俺は呼ばれなかった。
それに、俺もバイト先の先輩が例のSNSのハッシュタグを教えてくれなければ、それを俺がミスタイプしなければこんな事になってなかった。
「ディクシオさんにもね」
マゴリアは言う。
そうだ。そもそもマゴリアが俺の妄想力を必要としてくれた理由、即ち幻想具現化魔法をマゴリアに教えたのはディクシオさんなわけだ。
彼にも当然、むしろ彼に一番感謝するべきと言っても過言じゃあない。
「マリルを呼び寄せた偶然もだな……」
「最初はただのアンタのスケベ心だと思ってたけど、あの子のおかげで色々助かってるわ。可愛いし、飲み込み速いし、健気だし、ほんっといい子よね」
「最初の話はよしてくれよ」
マゴリアが茶化して俺は苦笑するが、まぁ最初はそういう気持ちがなくもなかったので否定はしない。
俺は少し間を置いて、言う。
「……いくつもの奇跡と偶然が折り重なって、俺は今こうしていられるんだな」
俺がそんな風に言うと、マゴリアは笑う。
「奇跡と偶然、ね。ホント、その通りね」
ちょっと何クサい事言ってんの、と笑われるかなと思ったが、そういう意味での笑いではなかった。
本当に、慈しむような笑顔。
「マゴリアに会えて、良かった」
俺は自然とそんな言葉が口から出ていた。
マゴリアは俺の方を見て、真顔になる。
俺は続けた。真摯で真剣な、一切の冗談を含まない声音で。
「他の誰でもなく、マゴリアに会えたから、いま俺はこうして幸せでいられるんだと思う。
……本当に、本当にありがとうな。俺を、この世界に呼び寄せてくれて」
マゴリアは徐々に顔を赤くしていく。
その言葉の重みを実感して、肌で感じ取っているようだった。
「……あたしこそ。色々、ありがとう。感謝してるわよ、オスオミ」
ぽつぽつと、辿々しくマゴリアの言葉が紡がれる。
俺はソファから立ち上がり、そっとマゴリアの方に近づく。
対面していた席から、隣の席へ。
「……マゴリア」
言おう。
俺は今しかないと思って、決心する。
「……オスオミ」
マゴリアもその空気を察してか、ただ俺の名を呼び、それから黙り込む。
「…………マゴリア、俺と……本当の意味で、家族になってくれないか?俺……マゴリアの事が、好きだ。女性として。誰よりも」
心臓は早鐘を打ち、一言ごとに死にそうなくらい緊張していたが、その言葉自体は、意外なほどスッと口から出てくれた。
あれだけ逡巡し、言い淀んでいた言葉も、出してしまえばわずか数秒の事だった。
マゴリアは――――
「……はい。あたしで良ければ……」
ただ、それだけを言うのが精一杯、といった風だった。
顔を赤くし、目にはうっすら涙を溜め、辛うじて俺から目を離さずにいる。
この言葉だけは、誤魔化したり、目を背けたりするべきじゃないと思っているのだろう。
マゴリアらしい、真摯で誠実な態度だと思った。
俺は、静かにマゴリアを抱きしめる。
「……ありがとう。俺を、受け入れてくれて」
マゴリアも俺の抱擁に合わせて、抱き返してくる。
そして、一言。
「……ちかい」
え?距離、近すぎたか?
俺は一瞬そう聞き間違え、身体を離そうとしたが、マゴリアは離してくれない。
むしろ引き寄せる。
そして俺は、その言葉の意味に気付く。同時にマゴリアは言った。
「……誓いのキスを……ちゃんと、下さい」
目を瞑って、ふるふると震えて、顔をこれ以上なく赤く染め―――
マゴリアは、求めてきていた。
「……うん、そうだな。ちゃんとしなきゃ……だな」
そうして俺は、マゴリアにそっと唇を重ね……お互いに強く強く、抱き締め合うのだった。
妄想★マテリアライゼーション、43話。
そして2人は幸せなキスをして終了―――
ってな感じで第二部終了!?
いえいえ、もうちょっとだけ続くんじゃ。




