頻繁じゃなくていいから、またマゴリアの料理を食べたい
「お待たせー!
今日のメニューはオードブルにカルゴとチーズと根野菜の盛り合わせ、ビネガーソース。スープは定番、カボチャのクリームポタージュ。隠し味に少しニンジンも入れてるの。それと、フルコースじゃフツーは間に挟まないけど健康面を考えて新鮮野菜のポテトサラダ!んでもってメインが虹色トカゲの香草焼きで……、あ、バゲットは好きなだけお代わりしてね。それに、デザートもあるわよ。ふふふ」
「豪勢だぁ!ママの作るフルコース、初めてだね!」
「あ、ああ。こんなの俺も初めて見る。ビックリするぜ」
今夜は久々に腕を振るうとは言っていたが、家庭料理レベルを軽く超えてないか……?
マゴリアが料理上手いのは知ってたけど、こんな派手でやたら手間のかかるタイプの料理を作ることはなかったから、かなり意外だった。こんなの作れるなら、料理人にもなれるんじゃねえか……?
「一人暮らしじゃ作らないからね、こんなの」
マゴリアは笑って言った。
そりゃそうだな、と俺は思う。一人暮らしって、料理作るの色々と無駄というか、徒労感があるんだよな。
「アンタ達がこの家に来てくれて、随分賑やかになったわ。だから、あたしもこんな料理作ろうって気になったの。覚えておいて損はなかったわね」
誰に教わったのかが気になるが、まぁ今はいいだろう。食いながら話そう。
「じゃ、いただきます」
「いただきまーす!」
「どうぞ、召し上がれ」
そして俺たちはグラスに注がれたワインで『俺の初めての魔法習得』記念の乾杯をし、おめでとうと言って笑いあった。
◇
「美味しい~!もうすっかり料理は私の当番で定着したけど、たまにはママの料理も食べたくなるよね、パパ」
「そうだな……マゴリアは仕事がそれなりに忙しいから、頻繁には作れないだろうけど」
「って言っても、剣の収入が3本目で……うん、ちょっとあたしも働く必要性を感じなくなるくらいになってきたから、いつでも作ってあげるわよ」
俺たちはマゴリアの料理に舌鼓を打ちながら、そんな会話を繰り広げていた。
しかし、そうは言ってもマゴリアはまだお得意様と取引をしているし、そっちの仕事は割と頻繁にやっている。
他ならぬマゴリアが、大金を手に入れたからといってそのまま取引をやめるなんて不義理はしたくないと言っていたのだから、俺からもう良いんじゃない?などとは言いにくい。
「そうねぇ、こういう義理堅い所はあたし的にも長所だとは思うんだけどね。古い付き合いで、あたしがまだ魔道士稼業営み始めて食うや食わずの時代からのお得意様相手に、無碍にも出来ないでしょ」
「そりゃあ、そうだな」
「ママってホント、義理と人情の人だよね」
それだけじゃないけどね、とマリルは付け加えることを忘れない。
そうだな。
マゴリアは思えば、ずっと俺に義理で付き合ってきてくれていた。
俺の妄想の能力を打算的に必要とした召喚当初から、同居を始めて、マリルが生まれて、剣を作って……
その全てが義理じゃないことは俺にも分かっている。
でも、個人的感情を源泉とした無私の付き合いじゃない事も分かっている。
だからこそ、俺はその一線を越えたい。
俺はマゴリアの作ってくれた料理をひとつひとつしっかりと味わいながら、今夜、勝負を決めよう、と心に誓っていた。
「……美味しいよ、マゴリア。ほんとに。頻繁じゃなくていいから、またマゴリアの料理を食べたい」
俺が何気なくそう言うと、マゴリアは顔を赤くしていた。
「う、うん。時間が出来たらいくらでも作ってあげるわよ」
その様子を見てマリルはうっすらとニヤニヤしているのを、俺は見咎めていた。
面白がってるなぁ。
「……じゃ、私がお料理する機会も少し減らそうかな?
それと、アカデミーの件だけど、私やっぱり行きたいなぁって思い始めたの」
あれ、マリルは6年も俺達から離れるのが寂しいと言っていなかったか?
俺はそう思うが、はたと気付く。
これは……そういう事か。
マリルは恐らく、そういう状況を作り出して、サッサと2人きりになって進むところまで進んじゃいなさい、と言いたいのだろう。
実際にアカデミーに入学したいとか、そういう気持ちは建前半分といった所だと思う。
そう思っていると案の定、マリルはマゴリアには気付かれないように俺に目配せする。
……気遣いありがとうな。
「あら、じゃあマリルも親元を離れて暮らす決心がついたのかしら。ママも寂しくなっちゃうわね」
おどけてマゴリアはそんな風に言う。
俺は取り敢えずマリルの出してくれた助け舟に乗ってみることにする。
「それじゃあ、アカデミーの手続きを再開するのか?何か俺に手伝えることあったら、手伝うよ」
俺がそう言うと、マゴリアは少し思案して言う。
「そうねえ。一応、『保護者』としてアカデミーに身分を明かす必要があるから、その時にエルフの子を里子として迎え入れている、とか何でも良いから適当な方便をキッチリ考えておかないと面倒になりそうね」
そりゃそうだな。まさか人造生命ですなんて言えるわけもないし、俺の異世界転移者って話も出すと面倒になりそうだ。
「その辺の設定、細かめに考えておいてよ。イザって時にスラスラ台本読めないとね。そういう妄想、得意でしょ?」
「違いないや」
そんな風に冗談めかしてマゴリアは言った。俺は笑い、マリルも笑った。
そうして、楽しい夕餉の時間は過ぎていくのだった―――。
妄想★マテリアライゼーション、42話!
『……美味しいよ、マゴリア。ほんとに。頻繁じゃなくていいから、またマゴリアの料理を食べたい』
プロポーズやんけ。
と思いつつ、まぁ、雄臣君的には日常会話のつもり。
マゴリアはもうここで大分、心のゲージが決壊寸前な気がしますが……。
さて、勝負に出るのか!
どこまで描写するか!
うっかりR-18にならないように、気をつけます!




