妄想にはブレーキをかけるな
「と、取り乱して悪かったわね」
「いや……」
15分後、平静を取り戻したマゴリアはハムスターに変化したマテリアルから注いだ魔力を自身に戻していた。最初からそうすれば良かったんだが、ネズミ嫌いのマゴリアは正常な判断を失ってしまったようだ。
「こほん。ともかくこういう事よ。あたしの魔法、そしてアンタの能力、それが組み合わされば生物を生み出すなんて高等魔術すら、いとも簡単に成し遂げられる!」
マゴリアは気を取り直して胸を張る。
確かに生物を作り出せるのがこの世界ではすごい事らしい、というのは分かった。
しかしネズミならぬハムスターを生み出したところで、可愛い、と人気になるくらいが関の山だろう。
「ファンタズム・マテリアライゼーションの偉大さが証明されたところで、本題を進めていくわ」
「救国の話か」
「ええそうよ。本当に作りたいのは、コレなの」
そう言うとマゴリアは何やら、書物を渡してきた。
「なんだコレ」
「古の魔道書……の複製だけどね。ここに記されている『伝説の武器』を生み出せれば、きっとこの国は救われるわ」
この世界の文章読めるのかな……と思いながら俺は魔道書の複製とやらを読み進める。
あ、ちゃんと理解できる。文字そのものが日本語に変換されてる感じじゃなく、読む端から全部頭に理解できるようになってる感じだ。
もしかして、転生魔法陣かなんかの、魔法の力なんだろうか。
「アンタをこっちの世界に呼び寄せる際にコミュニケーションに問題あったら、文字通り話になんないじゃない?ちゃんと、召喚魔法陣作る時にそこら辺は考えて貰ったんだから」
「へえ。用意周到だな。……考えて、貰った?」
そこで俺が気になる言葉を発したマゴリアに水を向けると、マゴリアは少し照れ臭そうに言う。
「あ、うん。言ったでしょ?あたし召喚魔術の専門家じゃないの。ちょっと友達の魔道士に手伝って貰ってるのよ」
「ふぅん……」
アカデミー卒業試験とか言っていたし、その学校の同級生かなんかだろうか。
まあ、本題じゃないから良いけど。
俺は改めて魔道書に目を通して、理解した。
「空を切り裂く魔剣……大地を打ち砕く神々の斧……海に突き立てられた三叉の槍……こんな武器をファンタズム・マテリアライゼーションで再現して、国を襲う何らかの敵を撃退してやろう、ってハラな訳か」
「ほんとあんた、そういう理解は早いわねー。そういう事よ」
「すげえ昔のビジュアルノベルに似たような話があったんだよ」
俺は苦笑しながら答える。
どの世界でも似たような事を考える奴はいるもんだなあ、と思いつつ、しかしこういった厨二病心をくすぐられるワードをこそ、俺は待っていたんだ!とばかりに張り切る。
「よし!じゃあ早速試してみようぜ!」
しかしマゴリアは首を振った。
「待って待って、言ったでしょ?物事には段階があるって。無生物とはいえ『伝説の武器』の再現なのよ?そんな、小動物作れたんだから次は武器、なんて簡単にできるわけないでしょ」
マゴリアはそんな風に言うが、俺はむしろそうじゃない!と強く言い切る。
「マゴリア、それは違う!妄想ってのは、ブレーキをかけちゃダメなんだ!!こんな事できるわけないんじゃないか、それは無理でしょっていう無意識のブレーキが一番ダメなんだ。なんでも出来る、なんでも生み出せる!!そういう無根拠な自信と、荒唐無稽な絵空事を現実に見てしまう程の情熱こそが、妄想の源泉なんだ!!」
俺は熱く語った。
マゴリアは若干どころかかなり引いていたが、それもそうねと言った。
「た、確かにそうね。最初から出来るわけない、なんて思ってたら、あんたのイマジネーションに無意味な枷を嵌める事になりかねなかったわね。ごめんなさい」
理屈で考えても俺の妄想力に歯止めをかける意味は薄いと気付いたマゴリアは、じゃあ、やってみましょうか?と言い出した。
「よし!俺が生み出してやるぜ!必ず、この世界を救う伝説の武器をな!!」
「生み出すのはあたしなんだけどね……ま、いいわ。しっかり妄想してよね、オスオミ」
マゴリアの半ば呆れたような苦笑も、厨二病心に火を付けられてしまった今の俺を止める事はできなかった。
妄想★マテリアライゼーション!4話をお読みいただきありがとうございます。
妄想ってのは、エスカレートしてこそ、妄想だ。
書いてるうちに「この妄想具現化能力、エミヤの投影魔術と本質的に同じじゃないか……?」なんて思い始めて、本文中にそれと思わせる一言を入れてます。
アンリミテッドブレイドワークス!!
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