安心した?
「ディクシオさん、噂に違わずすげえ人だったな……」
「でしょ」
素直にそう思う。
マゴリアが取られるんじゃないかみたいな不安はとりあえず解消されたので、俺は帰りにそんな風にマゴリアと話をしていた。
何が凄いって、あの余裕な感じだよな……魔道士としての格とかは、俺には感じ取れないし分かんねえけど。
人間としての器のデカさみたいな部分で、すげー負けた気分。
「一応訊きたいんだけどさ」
「ん?」
「……マゴリア、ディクシオさんの事好きだったんじゃないの?」
俺は意を決して訊いてみた。
「うん……分かりやすかった?」
マゴリアはちょっと後ろめたそうに、そう答える。
やっぱりか。
そうじゃないかとは思ってた。
でも、じゃあ。
「今回の誘いは……良かったのか?」
俺は藪蛇になるだろうと思いつつも、訊かずにはいれなかった。
「……うん」
……それだけ?
俺は不思議に思った。
もう過去の気持ちなのか、それとも。
「……」
だけどそこまで踏み込むのは躊躇われ、俺は黙り込む。
マゴリアは少し間を置いて話し始める。
「……ディクシオさんは恩人で恩師で、尊敬できる人だけど。
…………好きだった事もあるけど、やっぱり、あたしが踏み込める相手じゃないから」
踏み込める相手じゃない?
その言い方に俺はふと思い当たる。
もしかして。
「ディクシオさんって……既婚者だったりするの?もしくは良い人がいるとか」
「……アンタ、そういう勘はほんと良いわねえ。……そうよ、あの人結婚してるのよ」
苦笑してマゴリアは言う。
なるほど。
そりゃあ、踏み込めないな。
そしてあの余裕な感じの態度にも納得だ。
マゴリアの事、単純に弟子として大切に思っているだけだった訳だ。
俺がマゴリアの事好きだから、変に対抗意識を感じてしまっただけで。
そう考えると、俺の空回りは、なんとも滑稽であった。
俺が苦笑していると、マゴリアが不意打ちのように言ってきた。
「安心した?」
俺はギョッとする。
マゴリアは俺の顔を覗き込むような姿勢で、ニヤッと笑っている。
「な、な、なにが」
俺は動揺する。
もしかして、もう既に気付かれて……
「いやあ、あたし大概鈍いって言われるけど、流石にねえ……アンタ、分かり易すぎるって言ったでしょ?」
そんな風に言うマゴリア。
そして、おどけるように言う。
「……でも、ちゃんと言われなきゃ、あたしは何も答えません」
……外堀を埋められた。
俺はそんな気持ちになった。
「マゴリア……」
「さ、帰りましょ。マリルが待ってる」
話はおしまい、とばかりに。
くるりと前に向き直って、マゴリアは歩き始めた。
俺は慌ててその背中を追いかける。
「……もうちょっと、俺に自信がつくまで、待ってて」
ボソッと言った言葉は、マゴリアに聞こえたかどうか。
マゴリアは振り向かずに、呟く。
「あたしは慎重派で堅実で、気長だからね。待たされるの、別にそこまで嫌いじゃないのよね」
気付かれた以上、俺たちの偽夫婦みたいな関係にどういう形であれピリオドが打たれるのも、目の前なのかも知れない。
そう思った俺だったけど、マゴリアのその言葉を聞いて、分からなくなってしまった。
このままでもいいよ。
焦らなくて良いから、ゆっくりね。
マゴリアはそう言っているように思えてならなくて、それは……俺にとっては、とても安心できる言葉だったのだ。
妄想★マテリアライゼーション39話ッ!!
そりゃ気付くわ。
という話。
でもマゴリアの性格を考えると、急かさないのですね。
さてさて、この先どうしようかなあ。




