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妄想★マテリアライゼーション!  作者: 0024
第二部 幸せライフと偽(にせ)ワイフ
37/48

君も王宮お抱えの魔道士になる道を選ぶかい?

「マゴリア、今日は魔力の感覚を少し肌で感じられたよ。多分だけど……」


「マリルにも聞いてるわ。頑張ってるみたいじゃない」


 俺とマゴリアは2人で買い物に来ていた。

 市場で俺の修業の進捗状況を伝えつつ、野菜や果物、新鮮な魚なんかを物色していく。


「これと……これもかな。あ、この野菜、みずみずしくて美味しそう」


 マゴリアは結構ヘルシーな料理を好む。

 転移初日に食わせてくれた肉料理やスープなんかは、本当に『手軽な』ものだったらしく、実はこういう一汁三菜というか、バランスを考慮した飯をよく作るのだ。

 尤も、最近は料理は殆どマリルに任せているので、腕がなまっちゃうわね、と言ってはたまに厨房を見たりしているくらいになっているが。


「マゴリアの料理も久しく食べてないよな。もう1ヶ月くらい?」

「そんなくらいになるかしら」


 俺とマゴリア、そしてマリルとの同居生活も、もう3ヶ月を過ぎた。


「なーんか、長かったような、あっという間だったような」

「何、終わりみたいなこと言ってんのよ。まだ続くでしょ」


 俺たちは笑い合う。


 そうだな。


 きっと、これからも。


 こんな、穏やかな日々が続いていくに違いない。


 俺は、願望も込めて、そう思うのだった。


 ◇


「やあ、マゴリア。お邪魔しているよ。

 久しぶり、元気にしてたかい」


 家に帰ると、居間には一人の長身の男がいた。

 俺は動揺する。この男、マゴリアの知り合いか?

 マゴリアの知り合いは、言ってもシェリルさんくらいしか会ったことのない俺は、まさか男の知り合いが家に来るとは思いもよらなかったからだ。


「あ……ディクシオさん!お、お久しぶりです!来るなら言って下されば良かったのに!」

「いや、何。大した用事じゃないよ」


 マゴリアは買い物かごをいそいそと片付け、マリルと俺に彼を紹介する。


「あ、オスオミとマリルは初対面よね。マリルはお出迎えしてくれたみたいだから自己紹介くらいは聞いたかしら?

 この人が、あたしのアカデミー時代の幻想魔法学(ファンタスマゴニア)の教授をしていた、ディクシオさんよ」


「初めまして、オスオミ君。それにマリルちゃん。マゴリアの……えっと、同居人なんだっけ?」


 そこで俺はピンときた。

 この人だ。

 この人がマゴリアの『憧れの人』だ。

 マゴリアの紅潮した表情。

 心なしか緊張したようにぎこちない動き。


 クッソ、なんて爽やかで知的そうなイケメンなんだよ……!!


 俺は対面しただけで心を折られそうになる。


「あ、はい。お、俺、いや僕はマゴリアの……」


 俺が異世界転移の件やら、今のこの夫婦じみた同棲生活やら、マリルにパパと呼ばれてる件やらをなんと説明すべきか逡巡していると、マゴリアが横から口を挟んだ。


「……オスオミは魔法の研究のパートナーなんです。あたしの幻想具現化魔法(ファンタズム・マテリアライゼーション)、お恥ずかしながらアカデミー卒業からこっち、ロクに成功したことがなくて……。

 でも、王宮勤めのディクシオさんには伝わっていると思いますけど、彼のおかげで最近、上手くいくことが多くて」


 その説明にディクシオも満足そうに頷いて笑顔になる。


「そうだね。マゴリアの作った『烈風の剣』の評判は、王宮中に轟いているよ。あのおかげで、魔王軍の撃退がかなり楽になったとね」


 マジで国家防衛に貢献できてたのか、俺たち……

 王宮に勤めているという国宝級の魔道士の言葉に、俺はようやく実感を得られた気がした。


 俺が驚いていると、ディクシオさんは不意打ちのように心臓に悪い質問を投げかけてきた。


「……で、そちらの可愛らしいエルフの娘さんは?何やら、君のことをママと呼んでいたようだが?」


 マリル!

 そこは隠して!!

 マリルはばつが悪そうに目を背けた。


「あ、えーと、その、便宜上そういう感じになっているんですけど、血は当然繋がっていないです」


 しどろもどろになりつつ、マゴリアはディクシオさんに説明する。

 幻想具現化魔法(ファンタズム・マテリアライゼーション)が偶然、マリルを生み出したこと。

 そのパートナーである俺がパパと呼ばれていることなどは、もはや隠しようがなかったからだ。


「……なんと、人間大の生命を製造してしまうとはね。しかも、性質が完全にエルフとして肉体を定着させているとは……。

 マゴリア、君の幻想具現化魔法(ファンタズム・マテリアライゼーション)を見出したのは確かに僕だが、ここまでのものに昇華しているとはね……素晴らしい、伝説の武器よりも、ある意味驚きだよ」


 ディクシオさんは腕を組み、興味深そうにマリルを見る。

 そして褒めちぎられたマゴリアはいえ、そんな、あたしだけじゃ出来なかったですし……と真っ赤になって照れていた。

 俺が少しその様子をなんともいえない表情で見つめていると、ディクシオさんは俺に水を向ける。


「……それに、オスオミ君。君のおかげでもある。マゴリアの魔法をここまでのものにしてくれてありがとう。

 君のアシストあってこその成果であると考えると、僕は君の能力の根源にも興味があるね」


 俺はマゴリアの様子や、急に話を振られたせいで内心穏やかではなかったが、マゴリアと同時に俺の成果も褒められているという事実は、胸に熱い気持ちを生み出す。


「……俺の力なんて、全然大したもんじゃないっす。ただ、想像するだけの力で……」


 妄想という言葉を使うのが憚られてそう言うが、ディクシオさんは続ける。


「いやいや、謙遜しないでくれたまえ。

 ……幻想具現化魔法(ファンタズム・マテリアライゼーション)の基礎理論としては、生み出すモノはあくまでも術者本人の想像力に委ねられるものであって、他人が外部から想像力を差し挟むことで相乗効果が得られるなど、そういった研究成果は捗々しくなかったのでね。君の想像力が、他に類を見ないレベルで卓越している証左だと言える」


 何言ってっか分かんねえけど、俺の妄想力がスゲーと言われている気がする。

 気恥ずかしくて俺は目を背けた。


「それで、ディクシオさんは今日はそのために来たんですか?ママとパパの魔法の力を褒めに?」


 突然、マリルが本質的な質問を投げかけた。

 すると、ディクシオさんは言った。


「そんなところだよ。大した用ではないと言ったろう、久しぶりにマゴリアの顔を見たくなったのと、あの素晴らしい研究成果を一言、面と向かって褒めてあげたかったのさ。

 ……予想を遥かに超える事態が、マゴリアの身の回りには起きていたようだがね」


 にっこりと人好きのする笑顔の奥には、底知れぬ洞察力があるように思えて、俺は身震いした。

 何もかも見透かすような目……シェリルさんほどじゃないが、そういう感じに見える。

 マゴリアは恐縮です、と言いつつも俺が異世界転移者である事は伏せる心算のようだった。


「それじゃあ、また後日改めて挨拶に来るよ。今日は急に済まなかったね」


「あっ、はい!是非!」


 マゴリアはそう言って玄関までディクシオさんを見送る。


「じゃあ、また来て下さい、ディクシオさん」


 マゴリアが手を振る。

 ディクシオさんも手を上げ、出ていく。しかし、一瞬立ち止まって彼は言った。

 振り返りもせず、小さな声だが、はっきりと。


「……もし良ければ、君も王宮お抱えの魔道士になる道を選ぶかい?今回の成果は、当然といえば当然だが、そのくらいの功績だと王宮は判断しているようだよ」


 俺はその言葉を聞き咎め、ガンと鈍器で頭を殴りつけられたような気持ちになった。

 マゴリアは……ただ、戸惑っていた。


「えっ……」


「ははは、まぁ、今すぐに考えろなんて言わないさ。君には君の大事なものがある」


 そして笑いつつ去っていくディクシオさん。

 な、なんて殺し文句を最後に投げていくんだ、あの男……。

 俺は改めて、マゴリアの『憧れの人』の恐ろしさを垣間見た気がした。

妄想★マテリアライゼーション37話。


マゴリアの『憧れの人』ディクシオさん登場。

名前の由来はDictionaryからです。


幻想魔法学は主に自分のイメージを物質化したり、見たものをそのまま複製したりする具現化魔法のエキスパート集団を育てる学科で、マゴリアはそこの異端児だったっていう裏設定があったり。

ディクシオさんは彼女が魔法の才能を持て余して使いこなせずにいる様子を不憫に思って、自分の新しい魔法の研究である幻想具現化魔法(ファンタズム・マテリアライゼーション)の基礎理論をマゴリアに授けたのです。

マゴリアはそれでもなかなか上手くは使いこなせなかったのだけれど、卒業時には……みたいな。


あまり詳しく考えてはいないですが、大まかにそんなくらいの設定は脳内で瞬時に浮かんでおります。

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