私の言う通りにしてくれれば大丈夫だよ
「そんな訳でマリル、パパに魔法を教えて欲しい」
「うん、良いよ。具体的には何を出来るようになりたいの?」
マリルはマゴリアからの手ほどきを受けているので、最近ではすっかり魔法を使った実践的な仕事をこなせるようになっていた。
具体的には料理やお風呂の時の火起こしとか、冷蔵庫のない異世界における食材保存のための冷気魔法とかだ。
なので俺も同じような事をまず出来ないか、と訊いてみた。
マリルは難しい顔をする。
「超自然系の魔法は初歩ではあるけど、いきなりは無理かなあ……。確かにパパの身体にはそれなりの魔力が備わっているから、出来なくはないと思うけど、生まれついてエルフとして魔法の素質を与えられた上にママの魔力を注がれている状態の私と違って、まず自分で魔力を感じ取れる所に行かないと……」
「け、結構大変なんだな」
マゴリアは遊ぶ感覚で、とか言っていたから、そんなガチの修業が必要とまでは思わなかった。
だが冷静に考えてみれば、そりゃあそうだよな、とも思う。
魔法に関してはズブの素人である俺が魔法をホイホイと使いこなせたら、それこそちゃんと努力してる連中に申し訳が立たないしな。
俺は気を取り直し、じゃあまず魔力を感じ取るための基礎修業から教えてくれ、と言おうとして気付く。
「……マリルは生まれつき、魔力を感じ取れたんだよな?」
「うん、そうだよー」
「じゃあ、教え方分かんなくない?」
俺はそんな当たり前の事に言及するが、マリルはあっさり答える。
「あ、感じ取れるかどうかの判定と、感じ取れなかった場合の修業方法はママから教わってるから大丈夫だよ」
なるほど。最初から感じ取れると知ってたならともかく、その前提を満たさない場合の対処も、マゴリアはキッチリ考えて教えていた訳だ。
相変わらず、マゴリアの慎重かつ堅実なモノの考え方には感心してしまう。
「だからパパは安心して私の言う通りにしてくれれば大丈夫だよ」
マリルの言葉も、心強い。
そうして俺は、マリル先生に料理のみならず、魔法の勉強も教わる事になったのである。
◇
「そうじゃないよパパ、魔力が自分の血液のように全身を巡るイメージ。イメージは得意でしょ?」
「イメージ……妄想は得意だけど集中力はないんだよパパはー!」
マリル先生からの手ほどきを受けて、俺はまず自分の身体を流れている魔力を自覚する所から開始した。
瞑想、というやつである。
正直言って、魔力が自分の血液のように身体を巡るイメージ自体は、昔読んでた漫画のお陰で容易ではあった。
ところがそのイメージ通りに実際に魔力を感じ取るには、尋常ならざる集中力を要するらしく、俺の最も不得意とする分野だと気付いてからが大変だった。
「ぐ……ぐぬぬぬぬ……」
俺は自分の持てる限界まで集中し、イメージを膨らませて魔力が身体を巡っている、俺はそれを操れる!
と信じ込もうとする。
「あぁあダメ、魔力が身体の外に逃げてる。身体に押し留める感じだよパパ、そんなに力んだら無駄に魔力を消費して精神力を使い果たしちゃうよ!」
俺の魔力を視認できるのか感じ取れるらしいマリルが慌てて俺の力みを取るように促してくる。
俺は脱力し、目を開いた。
「ぷはーーーーーっ!!だ、ダメだ……ぜんっぜん感じ取れねえ……」
「最初だししょうがないよ。お疲れ様、パパ」
マリルはいつの間にか用意していた水を差し出してくれる。
俺はそれをゆっくりと飲み干し、肩で息をついた。
「ありがとマリル。はー……ここまで難しいとは思わなかったぜ……」
正直もう少し簡単にこのステップはクリアできると思ったのだが……
くそう、魔法を身に付けるのって、そうそう簡単じゃないんだな。
俺は改めて自分が挑もうとしている事の難易度を理解し、前途多難な気持ちになるのだった。
「でも、ママが魔法の勉強してみる?なんてパパに言うとは思わなかった。難しそうならママ、無理させない人でしょ?」
「そういやそうだな」
マゴリアは二言目には『無理はしないで』と言う。
慎重派ゆえなのか心配症なのかは分からないが、俺はその優しさにだいぶ救われている。
しかし今回のこの修業はそもそも、マゴリアの提案だ。
俺が無理だろ!って言っても、結構丁寧に説明してくれたし……。
「なんでなんだろな」
「さぁ……でも、パパも張り切ってるよね」
「……まぁな」
俺が魔法を習得したいというのは、マゴリアが提案してくれた事もあるし、純粋に暇だからってのもあるが……
何よりも、先日聞かされた『憧れの人』の話の影響が大きいようにも思う。
そりゃあ、国宝級の魔道士に、一介のバイトだった俺なんかがどう逆立ちしたって敵うわけがない。
けど、敵わないから何もしないでいるのと、敵わなくても努力するのでは、マゴリアからの心証もだいぶ違うだろう、という下心めいた気持ちがないとは言い切れない。
「パパ、ママに相応しい男になろう、って必死なんだね。頑張ってるパパ、私は好きだよ」
そんな、俺の本心を見抜いたかのようなマリルの言葉にドキリとした。
「まぁ……なんだかんだ、釣り合い取れてねえって気持ちがあるからな」
「そんな事ないのに。ママもきっとそう言うでしょ?」
「まぁ……な」
マゴリアは俺の妄想力が必要だったのもあって、俺と対等に接してくれる。
でも俺はもっと、マゴリアと対等な関係になりたいと思うのだ。
マゴリアの魔法に頼るだけじゃなくって、俺だってマゴリアをちゃんと支えられる男になりたい。
そうして初めて俺は、マゴリアに好きだって言えるし、結婚の申し込みだって出来るという気がしているのだ。
「頑張らないとな……」
俺はそう独りごちると、瞑想に戻り己の魔力を感じ取る修業を継続していくのだった。
妄想★マテリアライゼーション36話、雄臣の魔法修業編です。
異世界チートハーレム要素どこ行ったと言わんばかりの真面目な修業シーン書いてて、僕がこの小説で書きたいモノって多分『雄臣の真っ当な人生やり直しとサクセスストーリー』なんだな、って確信しました。
行き当たりばったりの割には結構ちゃんと構成してると思うんですけど、展開がどうなるかはホント読めねえ、1話1話がキャラの会話するままに綴ってるので、自分がこの先どうしたいかの無意識に任せた自動筆記って感じです。




