マゴリアの憧れの人か。これはまた懐かしい話だね
「マゴリアってさ、誰か好きな人とかいたりした?」
「なぁに?また藪から棒に」
俺は、この間マリルから言われて気になっていた事を質問してみた。
マゴリアに好きな男がいたのかどうか。
完全に過去形の体で訊いているのは、今はいないよね?って牽制でもある。
「まぁ、憧れた人はいたわ。アカデミー時代だけど」
と、マゴリアは答える。良かった、過去形だ。
それに憧れた人、って程度なら大丈夫、俺にもまだ勝ち目はある。
「へぇ、そうなんだ。因みにどんな人?」
俺は世間話をする感覚で軽く言葉を続ける。
……だが、その質問に対するマゴリアの言葉の熱量は、俺の想定をかなり上回った。
「そうね、凄く研究熱心で素敵な人だった。新しい魔法、それもあまり研究が進んでいない分野に対して好奇心旺盛というか……あたしの幻想具現化に関しても、見出してくれたのはその人なのよ。懐かしいなあ……」
遠い目をしてうっとりするマゴリアの様子にギョッとする俺。
そ、それって、俺とマゴリアの間を繋いでくれているアイデンティティみたいな魔法の事じゃあないか。
そんな大事なものを見出した男……!?
や、ヤバい。急に勝ち目が失くなってきた気がしてきて俺は焦る。
「へ、へぇ。凄い人だったんだな」
俺は単に会話をつなぐだけの意味でそんな風に言ったが、マゴリアは続けた。
「そうなの。ホントに、尊敬する人だったわ。王宮御用達の魔道士として、いくらでも楽に生きられるのに、ストイックで知識も凄く豊富で……」
ヤバいなこれ。
マゴリア、今もマジでその男の事を好きなんじゃね……?
憧れなんてレトリックで誤魔化されそうになったが、恋心って言って差し支えないんじゃ……と俺は内心、気が気でなかった。
◇
「ははは、マゴリアの憧れの人か。これはまた懐かしい話だね」
「シェリルさん、ご存知なんですね」
俺はシェリルさんに話を伺うことにした。
アカデミー時代のそういう話をこれ以上マゴリアの口から聞かされるのが辛くて、適当な所で話を終わらせて俺はこちらにアプローチすることに決めたのだ。
「あの男の噂はマゴリアと同室の頃にさんざっぱら聞かされたよ」
うんざりするような表情でシェリルさんは言う。
そうか……マゴリアと6年間もの間、寮の部屋が一緒だったシェリルさんにしてみれば、片想いの相手がそんな風に男の噂をべらべらと並べ立てるのをどんな気持ちで聴いていたのだろうか、想像を絶する。
「まぁでも過去の話だよ。マゴリアだってそう言っていたのだろう?」
珍しく俺を普通にフォローするかのようにシェリルさんは言う。しかし俺はマゴリアのあの様子からして、まだ好きなんじゃないかと思ってしまうのだ。
「確かにそう言ってましたし、憧れって口では言うんですけど……目がね、恋する乙女のそれなんすよ」
俺はしたり顔でそう言うが、シェリルさんは呆れて肩を竦めた。
「君に恋する乙女の顔が分かるのかね……」
「酷え言いよう!」
そしてシェリルさんはギィ、と椅子の背もたれに体重を預けて前言を撤回するかのように俺に言う。
「ま、君の他人の気持ちに敏い所は、ある程度信頼できるがねえ。
……正直この件は、私も深入りした事がないから、マゴリアが今どんな熱量であの男に対する感情を抱いているかまでは知らんよ」
と、まるで匙を投げるように言った。
「シェリルさんでも知らないんすね……」
俺は別に侮辱とか嘲笑のつもりで言ったつもりではないが、そう聞こえそうな言い方をしてしまい、あ、すみません、と言おうとするが、シェリルさんは意外な反応をした。
「意外かね?私もマゴリアのことを何でも知っているわけじゃないからね」
自嘲気味というか。
知ってたら今頃こうして君なんかにアドバイスはしていないさ、というような。
「あの……こんな事俺が言うのも何なんですけど、シェリルさんはマゴリアの事はもう、諦めてるって事で良いんですか……?」
それは。
訊いておきたかったことだ。
「まぁ、マゴリアは私と違って女色の趣味はないからね。諦めるというか、普通に無理なんだよ」
なるほど。それは如何ともし難い。
「同情は要らないよ?私は納得済みだからね。ま、君がもう少し軽薄な男だったら、マゴリアを譲ろうなんて思いもしなかったろうがね」
皮肉な笑みを浮かべてシェリルさんは言った。俺はお詫びと、感謝の気持を素直に伝えた。
「すんません。ありがとうございます」
するとシェリルさんは笑う。そして付け加えるように言った。
「そんな礼も余計だよ。……ま、君がもしマゴリアの『憧れの男』とやらに嫉妬して、そいつより立派な男になってマゴリアに相応しい男になろう!なんて考えているのだとしたら、止めといたほうが良い」
「え?何故ですか?」
俺は見透かされたような気持ちになり(実際そういう感じの考えにはなっていた)、つい反発的に訊き返す。
シェリルさんは断言した。
「あのねぇオスオミ君。国宝級の魔道士に君が真面目に対抗して勝てると思っているのかね」
そりゃ無理だ。
俺は苦笑し、マゴリアの『憧れの人』とやらが、どれだけ偉大な男なのかを思い知らされる気分になるのだった。
妄想★マテリアライゼーション34話!
マゴリアの『憧れの人』の話。
まだ名前考えてません。ただ、相当凄い人だったんだろうなあ。
登場させるかどうかも未定……です。
雄臣君の反応を楽しむなら、登場させたほうが面白いですけどね。




