アンタも口が上手くなったわねえ……
「マゴリア、たまには仕事を休んで遊びに行かないか?」
「何よ急に。遊びにって言われても……思いつかないわ」
俺は一生分稼いだだろ、と思うくらいの収入を得ても結構、働くのをやめないマゴリアが心配になり、そんな風に水を向けてみた。
するとマゴリアは案の定、そんな事を言うのだった。
「魔力回復の間はどうせ武器精製も出来ないだろ。書類仕事なんてゆっくりやればいいじゃないか」
俺はそう言うが、マゴリアは反論する。
「一応、武器精製を仕事にし始める前からのお得意様からの依頼だから……そういう関係をないがしろにするのって、あたし好きじゃないのよ」
なんとも律儀なことだ。
今の仕事が仮になくなっても大丈夫なように、マゴリアは『これまで築いた関係』を大事にしたいらしい。
まぁ、分かるけどな。会ったばかりの俺への義理堅さを考えれば。
「マゴリアって……そういえば、遊んだことって、あるの?」
と、俺があくまでも遊びに誘いたいという思惑を隠しもせずに尋ねてみると、書類仕事をこなしつつマゴリアは答える。
「んー、そうね。全く無いとは言わないけど、子供の頃からあんまり考えたことはないわね……そういえば」
寂しいな、それは。
「……なんで?家庭の事情とかなの?」
俺はそこまで踏み込んで良いものかどうかやや逡巡しつつ、訊いてみる。
「まぁ家庭の事情といえばそうなのかも」
マゴリアは答える。そして、書類仕事を一区切り終えたのかペンを置くと、
「……あたし、王都ベルロンドの出身じゃなくてね。この話、したっけ?」
「いや、初耳かも」
マゴリアの出身地の話とかは聞いたことがないな。そういえば。
「あたしね、故郷は小さな魔道士の村なの。ヘイネルっていうんだけど、まぁ知らないわよね」
そりゃそうだ。この世界の地理に俺は殆ど明るくない。せいぜいが、この王都ベルロンドの周辺しか知らない。
「南大陸……ここの事なんだけど、その外れの方にあるの。ま、辺境地ってやつ?」
「へえ~」
俺は聞いたこともない村のイメージを想像し、膨らませる。牧歌的で、でも魔道士の村ってんだからきっと皆とんがり被ってパッと見が変な家だったりして、家の中では儀式を四六時中してるとか、かな?
「で、ヘイネルからあたし、王都ベルロンドのアカデミーに入学させてもらってね。父さんや母さんは『こんな小さな村でお前の才能を埋もれさせるのは惜しい』……って言って、安くない入学資金を工面してくれて……ごめん、あんまり興味ないわよね、こんな話」
「いやいや、知りたいよ」
もっとマゴリアの事を知りたい。俺は深く突っ込んで訊いてみた。
「んじゃ、マゴリアは俺の世界で言うところの、東京の大学に行くために上京してきた大学生……みたいな感じだったのかなあ」
「アンタのその喩えは今となっては少し分かる気はするけど……んん、どっちかっていうとアカデミーは中高一貫のエスカレーター制かしら?」
随分と日本の知識にも染まったな、と俺はマゴリアの吸収力に舌を巻く。
「マゴリアの両親ってアレなの?そのためにマゴリアに必死に勉強させた、いわゆる教育パパママって感じなの?」
「んん?どうなのかしら。あたしはそういうの、普通だと思ってたから……」
別に苦にしている様子もない。マゴリアにとっては、アカデミー入学のために必死で勉強した事は、能動的なことだったのかもな。
俺は何となく納得する。
「でもまぁ、同い年の子が魔法で遊んでるのを見て、何でみんなは勉強しないのかしら?その技術、もっと人のためとか自分のために役立てられないのかなぁ、みたいな思いを抱いていた気はするわね」
「どっちかっていうとエリート思考だった!マジか、マゴリアそういう感じだったのな……」
その割にシェリルさんいわく『分不相応な魔法を扱いきれず』にいたという事実は、努力は必ず報われるわけでもないんだという残酷な現実を示しているようで、俺は顔を顰める。
まぁでも、マゴリアがそういう境遇で性格だからこそ、俺みたいな半端者、だけど努力したくないわけじゃない人間には優しくしてくれるのかも知れないな。
お互い誠実なだけで、要領が良くない、っていうか。
そんな俺の思考を知ってか知らずか、マゴリアは苦笑して言う。
「エリートだなんて、そんなもんじゃないわよ。言ってなかったけど、ファンタズム・マテリアライゼーションだってアンタがこっちに来るまで、ずうっと失敗続きで……アカデミー卒業試験での実演は、偶然上手くいったようなものだったし」
そういえば、出会ってすぐの頃に言ってたな。ハムスターを精製できただけであのはしゃぎっぷり。
「マゴリアは、遊ぶのは悪いことだと思ってる?」
俺はなんとなくそういう空気を感じたので一応訊いてみる。
ややデリカシーに欠けた俺の言葉にもマゴリアは別に気を悪くする風でもなく、普通に答えた。
「別に。人生を豊かにするために、遊ぶのも大事なことだとは思うわ。ただ、自分があまり興味がなかっただけ……だから、分からないの、って言うのが正しいかしら?」
勉強したり働いたりする事自体が生きがいになるタイプか。
それはそれで、否定する気は毛頭ないが……
「じゃあ、ちょっと俺と遊びに行こう。俺もこの世界の娯楽が分からないから、お互いに勉強していこうよ」
俺は勉強好き……好きかどうかは知らないが、勉強する事を普通だと思う彼女への殺し文句を使ってみた。すると案の定マゴリアは、
「勉強ね。アンタも口が上手くなったわねえ……ま、そうね。ひと段落したら、一緒に遊びに行きましょうか。たまにはそういう時間も、大事かもね」
俺の思惑を読みつつも、乗っかってくれることにしたらしい。
やった!
妄想★マテリアライゼーション、31話です!
この話、実は一度書いてから消して、書き直しました。ほとんど行きあたりばったりのこの小説では珍しいことです。
というのも、流れ的に完全に結婚まで行っちゃって、いやまだ早えだろ!と思い直したからです。
ということで、真面目人間のマゴリアが初デートを了承してくれるまでの話でした。
マゴリアがこんな娘になるなんて、書き始めた当初の僕は想像してなかったと思うなあ。
ところで『王都ベルロンド』『南大陸』というワード、実は同時連載中の『まちがいだらけのプリンセス』と地味に世界観を共有しているというネタだったりします。
完全に楽屋落ちというか、だからなんやねん、みたいな話ですが。
興味がある方はそちらもチェックしてみて下さると嬉しいです!
あっちはこっちと違ってガチで構成をキチンと考えた小説なので!!(PV数増やしたいマン)




