ファンタズム・マテリアライゼーション
俺はマゴリアと共に初の妄想具現化儀式をやり始めることになった。
「それじゃまずは簡単な所から行くわね。小動物とかの、少ない魔力と妄想力で生み出せるやつを試してみましょう」
マゴリアは意外と地味な事を言い出す。
「そんなんで良いのか?」
するとマゴリアは顔を顰めて言う。
「あのねえ、物事には順序ってもんがあるでしょうが。そもそも、生物を生み出す、なんて結構な高等魔術なんだからね?妄想力と魔力をキチンと融合させなきゃ、小動物どころか無生物だって上手く作れないモンなんだから」
「そうなのか……」
国を救うなんていうから、てっきり無敵の戦士を生み出したいとか、伝説の聖剣を生み出したいくらいの事は言い出すと思ったのに、俺はなんだか拍子抜けしてしまう。
「オスオミ、あんた異世界転生には詳しいみたいだけど、この世界の理とか魔法の常識にまでは通じてないみたいね。ちゃんとそのうち説明してあげるけど、分かったつもりになって先走るのはやめてよね」
「あ、ああ。それは仕事でもよく言われたから、気をつけるよ」
妄想癖について指摘される以外にもたまにバイト先でそういうお説教食らったな……とにかくここはマゴリアに従っておこう。郷に入っては郷に従え、俺の思う異世界の常識は、この世界の常識とイコールではないのだから。
「じゃ、始めるわよ。あたしの魔力を込めたその小さな球を持って」
「これか?」
マゴリアが指差したのは、薄い青色に染まったビー玉のようなモノだった。
「そ。それが幻想具現化に必要な素材、マテリアルよ。名前、憶えといてね」
「ファンタズム・マテリアライゼーション……それが妄想を具現化する魔法の名前?」
「そゆこと」
マゴリアはそう言うと杖を構え、魔力を集中し始める。
景色が歪み、何やら呪文を唱えている。そして少し経ってから、息を整えて俺に指示した。
「オスオミ。あんたは自分の思い描く小動物を想像して、そのマテリアルが変化するイメージを念じ続けなさい。あたしが最後のキーワードである『クリエイト』を唱える、その瞬間までね」
「わ、分かった。……小動物って、俺の世界ので良いの?」
俺の質問にマゴリアは答える。
「ええ、構わないわ。どうせアンタ、まだこの世界の小動物なんて知らないでしょ」
そりゃあそうだ。この世界に来て、まだ1時間と経過していない。
「そっちの世界にも似たようなのがいるかも知れないけど……ま、アンタの世界にしかいない生物を生み出せれば、それこそ大成功って事よ」
「なるほどな。……よし、じゃあこれでいくか」
俺はこの世界にいない小動物が何かなんて見当もつかないので、まず小動物と言って連想するアレを思い浮かべた。
「じゃ、行くわよ……………………………………………………………………………………」
「あ、因みに何分ぐらい待てば」
マゴリアの呪文がブツブツと続く中、俺は気になって尋ねてみた。
するとマゴリアは身体をびくり、と強張らせ、怒りの形相で俺に怒鳴りつけた。
「呪文唱えてる最中に話しかけるなー!あと、集中切らすな!妄想し続けろ!!」
「ご、ごめん」
仕事中に妄想してんじゃねえ、ボーッとするな、って怒られてた俺がまさか、妄想する集中力を切らすな、なんて言われるとはね……と、苦笑しながら妄想を続けた。
やがて、5分としないうちにマゴリアの身体から魔力がマテリアルに集まりだし……その言葉が紡がれる。
『創造』
その時だった。
マテリアルに注がれたマゴリアの魔力が渦を巻き、マテリアルを骨格の形に変え、魔力は肉を形成していく。
まばゆい光に包まれて、光が止んだ時。俺の持つマテリアルは……
ハムスターの姿をかたどっていた。
俺はその光景を見て、あ、可愛い。などと呆けた感想を抱いたのだが、当のマゴリアはといえば……
「で、で、できたぁあああああ!!やったやった!やったわ!!生きてる!!ちゃんと一発で成功した!!」
と狂喜乱舞していた。
なんだ、動くハムスターを作れたというのはそんなに凄い事なのか……と俺は改めてこの世界のファンタジーの生物創造魔法のレベルを認識した。
ゴーレムのような魔法生物を生み出す技術は、あまり発展していないのかな。
うろ覚えで様々なファンタジー小説やアニメの『前例』を頭の中で反芻する俺だったが、マゴリアはまるで気にも留めずに大はしゃぎだった。
「ありがとうオスオミ!あんたの逞しい妄想力あっての成功だわ!!こんな上手くマテリアライゼーションが成功したの、アカデミー卒業試験以来じゃないかしら!?」
「そ、それは良かった」
あまりのはしゃぎっぷりに初めて出会った時のマゴリアの様子を思い出す。
そういや、初っ端で胸を揉むなんて大失態をやらかしたからずっと警戒されてたっていうかツンツンされてたけど、俺の召喚に成功した時もこんなテンションで階段降りて来てたな……と思い出す。
「いやーしかしこの生物なんだか可愛いわね。アンタの世界の生き物?」
どうやらマゴリアはハムスターは知らないらしいので俺は説明する。
「ああ、ハムスターっていうんだ。ネズミの一種だよ」
この世界にもネズミがいるのかは知らんが。
と、俺がハムスターの説明をしたところでマゴリアはサーっと青くなった。
「ね、ね、ネズミ……?」
「うん。どうかした……うわっ!」
マゴリアは先ほどのはしゃぎようはどこへやら、ハムスターに変身してチョロチョロと可愛らしく動き回るマテリアルを放り出すと、大声で叫び、俺に抱きついてきた。彼女の薄布に包まれた柔らかな胸が押し付けられる。
「きゃーっ!きゃーっ!!ね、ネズミ嫌い!!ネズミだけはダメなの!!!」
「お、落ち着いて……くっついたら胸が、胸が………」
俺はマゴリアを宥めるが、混乱のさなかにあったマゴリアが落ち着くまで、ずっと抱き付かれてしまってどうしたものかと途方に暮れるのだった。
妄想★マテリアライゼーション!3話をお読みいただきありがとうございます。
初めての共同作業。生命を作る行為って大変なんです(意味深)
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