遠慮するなって言ったでしょ?
「元の力取り戻せたのはいーけど、調子乗ってバンバン製造したりはしないわよ」
「え、どうして?今まで作れなかった分、ガンガン作れば……」
妄想の力が戻って張り切る俺の純粋な疑問に、マゴリアは答える。
「いつまた不調になるか分かんないじゃない。結局、何で戻ったのかも分からないし」
「そ、それは……うん」
マゴリアに告白しようと思って頭を悩ませたり、マゴリアに信頼されてるって言われただけで嬉しくなってその先色々妄想したからなんて言えない……。
「アンタの言い分だと幸せだから妄想が消えたって話だったけど、そうじゃないみたいだしね」
「そ、そうだな」
そうだ。
依然として俺の今の状況が幸せには変わりないけど、だからって妄想は失ってない。
……きっと、俺が妄想の力を失ったのは、幸せになったからなんかじゃなかった。
幸せな今に満足して、その先を見ようとしない俺への、罰だったのだろう。
そう思おう。
だって、そうじゃなきゃ。
俺は、幸せには、なれないから。
◇
とりあえずリハビリに『烈風の剣』を作れるかを試してみた。
流石に3本目である、妄想のイメージはすんなりと思い出せた。
マゴリアもさほど苦戦せずに製造できた。
「拍子抜けするくらいあっさりできたわね。スランプなんてこういうものなのかしらね」
ホッとする俺に、なるべく精神負担をかけまいとしているのだろう、あっさり気味にそう言うマゴリア。
でも俺はもう少し違う反応を求めていたので、ことさら大袈裟に喜んでみた。
「や、やった!前と遜色ない出来だよな?マゴリアのお陰だよ、ひゃっほー!」
俺の不自然な喜び方に眉をひそめるマゴリア。
「そ、そうね、どういたしまして……ってか何よそのテンション。空元気っぽいんだけど」
う。流石にわざとらしすぎたかな。
「あ、いや、その……」
「何なのよ。遠慮するなって言ったでしょ?」
俺は恥ずかしくなってうつむく。
「……復帰第1発目だから、ハムスターん時とか最初に烈風の剣作った時みたいにマゴリアがはしゃいでくれるってちょっと期待してたから……その……」
すげー些細なことでモヤモヤしてる自分の小物っぷりをマゴリアに晒すのは中々にこたえた。
しかし、こういう事を溜め込んだり内緒にしちゃ駄目なんだと俺はマゴリアとの信頼関係を結ぶにあたって学んだはずだ。
だから正直に言う。
するとマゴリアは、
「あー……ごめんね、あっさりした反応すぎた?嬉しくない訳ないけど、やっぱその…………この剣ってすごくお金になるじゃない?アンタが能力戻ったからってあんな無邪気にはしゃいだら、その……ね?分かるでしょ」
勿論それは大事な側面であり俺とマゴリアを今もこうして一緒にいさせてくれる理由の一つだ。
けど、マゴリアはそれだけで俺と同棲してるんじゃない、と強く俺に信じて欲しいようだった。
俺はマゴリアのそんな気遣いに感動してしまい、少し涙ぐんだ。
「……そんなの、それこそ遠慮するなよ。俺、マゴリアが俺の能力で得られるお金のためだけに俺を置いてくれてるなんて……思ってないから」
ほんの少しの嘘。
正しくは『もう』思ってないから、だ。
マゴリアはそれに対して茶化したりはせず、
「……そうね。あたしの方こそアンタの事、気遣い過ぎたかしらね。……で、でもしょうがないじゃない?アンタ、あんなに取り乱すんだもん……少しは、あたしだって気遣うわよ……」
俺が妄想を失った、あの夜の事を思い出して、お互い顔を赤くしてうつむいた。
しばらくの沈黙。
「さ、さて!じゃあ固定化作業するから!アンタは上に戻ってマリルと夕飯の準備でもしといて!知ってるだろうけど魔力注いで固定化するのに、2時間はかかるからね」
「う、うん」
俺は気を取り直して作業を継続するマゴリアの指示に従って、そのまま階上のリビングへと戻り、厨房にいたマリルに声をかけて夕飯の準備に取り掛かるのだった。
妄想★マテリアライゼーション29話。
妄想を取り戻し、早速3本目の烈風の剣を作る雄臣とマゴリア。
でも、あれだけの事があってお互いに無邪気にはしゃげる訳もなく、微妙な反応になってしまう……みたいな。
とはいえもう以前の2人ではないので、信頼関係から来る歩み寄りというか、雄臣がやっとマゴリアの真心を信じ始めた感じですね。
彼、かなり頑なですよね……。過去にあった出来事が彼を人間不信にさせているんでしょうね……。




