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妄想★マテリアライゼーション!  作者: 0024
第一部 妄想癖と幻想具現化
23/48

妄想が……出来ないんだ

 俺の嫌な予感は、的中した。


「あれ?オスオミ、おっかしいわね。もう充分魔力は充填したはずなんだけど、3本目が出来ないわ」


 マゴリアのその言葉で、俺の妄想癖の減退症状について、決定的になった気がした。

 信じたくない。

 俺から妄想を奪ったらどうなる。


 俺は必死で願い、祈り、妄想する。

 だが、マテリアルは全く反応せず、剣どころかハムスターも産み出すことは出来なさそうだった。

 マゴリアは息をついて、


「ダメね。ま、こんな事もあるわよ。体調整えて、改めて挑みましょ」


 などと言って俺を励ましてくれるが、俺は酷い顔になっていた。


「ダメなんだ……」


 青ざめて震えて、泣きそうになる俺。


「え?」


 マゴリアは聞き返す。

 俺は絶望的な声で、絞り出すように告白した。

 黙っていてもしょうがない。マゴリアが俺を捨てるかも知れない、とか、そんな不安よりも。

 マゴリアに俺の不安を知って欲しくて。理解して欲しくて。縋り付くような気持ちで、言った。



「妄想が……出来ないんだ」



 マゴリアは耳を疑ったかのように首を傾げた。


「え?ちょっとアンタ、何言って」


 俺はマゴリアが戸惑うのにも構わず、続けた。


「ちょっと前から、おかしいとは思ってたんだ……俺、元の世界じゃ、仕事中も妄想してロクに仕事に手が付かないくらい、集中力なくてさ……でも、マリルに料理教わってた時の、マリルの言葉、覚えてるだろ?」


 そこでマゴリアは気付いたらしく、ハッとした表情になる。


「……パパは私の指示にちゃんと」

「そう、従って、くれる、だ」


 俺の、妄想しない時間が増えて。

 マトモにマリルから料理の指南を受けられて。


 それは、決して俺にとって悪い事じゃなく、俺を苦しめた妄想癖からの解放ではある。

 だが、マゴリアが欲していたのは、俺のその悪癖が生み出す超絶な魔法の力なんだ。


「…………」


 暫く、マゴリアは呆然としていた。

 俺はなんと言って良いか分からず、ただマゴリアの目を見つめる事もできず、俯いていた。

 やがて、俺は恐れていたマゴリアの言葉が発せられる気配を感じた。


「……じゃあ、しょうがないんじゃない?アンタにはだいぶ世話になったけど」


 ……嫌だ!

 その先の言葉を言わないでくれ、マゴリア!


 俺はマゴリアの肩を掴み、半泣きになりながら、言う。


「俺を……俺を見捨てないでくれ、マゴリア……!俺には君しかいないんだ……どの世界でだって、きっと君しか俺を受け入れてくれない!君しか俺のこの悪癖を受け入れてくれなかった!……そんな君に見捨てられたら、俺は…………生きて、いけない…………」


 俺の必死の訴えは、マゴリアにどう映っただろうか。

 情けない?鬱陶しい?もう用済みなんだから、あたしに縋り付かないで?

 俺はそんな風に悪い答えばかり考えてしまう。


 だが、マゴリアはそのいずれとも違う答えを返してきた。



「……バカね。誰もアンタを見捨てるなんて言ってないでしょ?」



 ……え?


 俺は信じられないものを見るような目で、マゴリアを見る。

 マゴリアは呆れたような、照れたような顔で俺を見つめていた。


「アンタにはだいぶ世話になったけど、しばらくは伝説武器なんて高難易度の製造はお休みして、別のもっと簡単そうな精製から試していきましょ、って言おうとしたのに……何、早とちりしてるのよ」


 俺は胸に重くのしかかる昏い感情が、シャボン玉のようにパチンと弾けて少しずつ消えていくのを感じた。


「え……じゃあ」


 俺は、ここにいていいのか?

 俺はマゴリアのそばにいて、いいのか?


 溢れる涙と感情が、滝のように流れ出す。


「あの剣2本でどれだけの収入になったと思ってるのよ……むしろアンタには感謝してもしきれないわよ。なんでそんな、卑屈になってんの」


 マゴリアには、きっと分からないと思う。

 俺がこの妄想癖のせいでどれだけ苦しんできたかも、そのお陰でマゴリアのそばにいられた喜びも、そしてその(よすが)を喪うかも知れないという恐怖も。


「あたしをそんな薄情な女だと思ってたのなら、ちょっとショックだわ……。

 ったく、恥ずかしい台詞、いっぱい聞かされちゃった」


 マゴリアは真っ赤になってプイ、とそっぽを向く。

 だが俺はもう限界だった。


「ま……マゴリア……ぅぁ、ぅぁあ……俺、俺…………!」


 気付けばマゴリアに抱きついていた。

 いや、母親に縋る子供のようだと評するべきだろうか。


「ちょ、ちょっとアンタ……」


 ギョッとして引き剥がそうとして、俺のグシャグシャに泣き濡れた顔を見て、マゴリアは思い留まる。


「……ま、今は好きなだけ泣けば良いわよ。……ホンット、アンタって妙に、純真よね……」


 マゴリアは恥ずかしそうにしながらも抱き付いて離れず泣きじゃくる俺を、慈母のような表情で見つめながら、ポンポンと頭を優しく撫でてくれるのだった。

妄想★マテリアライゼーション!23話をお読みいただきありがとうございます。


ーーー見捨てないで。

雄臣が自分の弱さと脆さをマゴリアの前で曝け出す回です。


少しでも本作を応援したいと思っていただけたなら、

ブックマークや評価をしていただけると嬉しいです。


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