なんで未婚なのにこんな所帯染みちゃったのかしらね
「そういや3日に1回なんてハイペースで烈風の剣みたいな伝説武器、ホイホイ精製して大丈夫か?」
俺はマゴリアの魔力を注ぎ込んで固定化した烈風の剣の2本目を眺めながら言った。初仕事が大成功し、王宮での実用結果に太鼓判を貰い、本格的な量産体制に入ろうとした矢先だった。
「うーん、確かに結構な魔力を消費するのよね……」
マゴリアは少し不安な声を上げた。
ほぼ無尽蔵に風の魔法による攻撃を繰り出せる魔法の剣、それを精製するだけならともかく、存在を現世に留めて固定化するために、マゴリアは全魔力をほぼ使い果たして翌日は全く魔法が使えなかったのである。
今も、精製と固定化のためにかなりの魔力を消費しており、顔がだいぶ疲れた様子を見せている。
「ペース落としたら?無理して粗悪品作っても王宮からクレーム来ちゃうかもだしさあ」
俺はマゴリアと少しでも一緒にいたいという下心込みで、彼女の身体を気遣う。
「そうね……正直、3日に1回は、だいぶ無理あるって思ってた所だわ……。今日の分の剣は固定化まで頑張るけど、王宮にはそんなペースで精製可能です、とまでは言い切ってないし、上納のペースはあたしの魔力回復のタイミングに合わせて遅らせるようにする」
マゴリアはこういう時は無理をしないタチである。
最初っからそうだったが、堅実的な性格なのだ。
俺としてもマゴリアの身を削ってまで王宮に尽くして欲しいなんて微塵も思わないので、これで良いと思う。
「あー、疲れちゃった。精製はアンタの妄想でアシストされるから良いんだけど、固定化は純然たるあたしの魔力だけでやる作業だから、疲労度が段違いなのよね」
マゴリアはどうにか烈風の剣の存在固定化に魔力を注ぎ切り、だらーんと脱落した。
「お疲れ様、上行って休もうぜ。マリルも飯作ってくれてるだろうし」
「そうね」
俺はぐったりしたマゴリアをねぎらい、リビングまで肩を貸してやった。
自然とお互いの肌が触れ合うが、最近は全くお互いに気にせずにいた。
俺は内心ドギマギしているけど、これもマゴリアが気を許してくれている証拠だな、と嬉しく思っていた。
「あ、パパ、ママ。お疲れ様、今日のお仕事終わり?」
「そうよー。ほら、2本目。へっへへー」
「ママが頑張って魔力注いで作ったんだ」
マリルが厨房で忙しく準備しながら、その成果を見てニコリと笑った。
そして独り言のように言った。
「私も少しは手伝いたいなあ、少しは魔法使えるようになってきたんだよ」
「マジか」
元々マリルはマテリアルから産み出された人造エルフだ。
故に、魔法が使えてもおかしくないし、そのために最初は彼女を育てる事を決意したくらいだ。
「たまに魔法の講義はしてあげてたけど、マリルの学習速度はかなりのものね。アカデミーに入学するくらい、そのうち余裕でできそう」
とマリルの知能の進化速度に舌を巻くマゴリア。
「入学させてやっても良いんじゃないか?剣の収入も相当なもんだし、余るだろ、アレ」
そうなのだ。
救国のために作った例の『烈風の剣』の収入は、手付金でも小さな皮袋いっぱいの金貨を貰える程の評価を頂けた上、その効果の程を王宮から保証された時の莫大な正式収入には、目を剥いたものである。
この一等地に暮らすため、研究資金を稼ぐために結構あくせくと働いていたマゴリアは、お得意様相手の商売はさて置いて、突発的な魔物討伐なんかのバイトみたいな仕事はカットしても良い、と心底ホッとしていた。
生活に余裕が出る、というのは大事な事だ。
俺は異世界に来る前に不安定なバイトをしていたし、それすら無職になった身なので、マゴリアがこうして安定した収入を得られるようになった事に、我が事のような喜びを感じていた。
「そうね……マリル、あなたは学校行ってみたい?」
マゴリアは俺の提案に少し思案すると、マリルにそんな話を持ちかけた。
「うーん、でもそうしたらパパとママのご飯、私作れなくなっちゃうんじゃない?」
マリルは健気にもそんな事を言い出すが、俺は言った。
「……剣の精製アシスト以外は基本パパが暇だからさ。これを機にちゃんと頑張って自炊覚えるよ。マリル、マゴリア、俺に料理の仕方、教えてくれないか」
マリルが自分で自分の事を出来る様になってしまった今、俺は妄想以外の時間は基本的に暇なので、部屋の掃除とか、洗濯は手伝っていた。しかし、こと食事に関しては情けないことに上げ膳据え膳状態だったので、その分担を自ら買って出た。
「大丈夫?」
マゴリアは不安そうに見てくるが、俺は言い放つ。
「マゴリアが頑張って金稼いでくれるし、マリルも学校行きたいってのに、俺が暇しててもなあ。この世界で妄想するのが一つの仕事ではあるけど、それだけじゃやっぱ、申し訳ないし」
「パパが真面目な事言ってる……エッチな事と強い武器の事以外で」
マリルが意外と辛辣な事を言う。
俺はガクッと肩を落とすが、まぁ割と真実を言い当てているので反論しない。
「分かったわ。……じゃ、マリル。アカデミーの手続きはしばらくかかるから、明日からパパに自炊のやり方、教えてあげて」
一家の大黒柱であるマゴリアの了承を得られたので、俺とマリルは手を合わせて喜んだ。
「わぁい、私も学校行けるんだ!」
「良かったなー、マリル!パパも頑張って料理覚えるからな!」
「やれやれ。なんで未婚なのにこんな所帯染みちゃったのかしらね」
そんな様子を眺めながら、苦笑しつつ満更でもない様子でマゴリアは呟くのだった。
妄想★マテリアライゼーション!21話をお読みいただきありがとうございます。
なんかもうすっかりハーレムじゃなくホームドラマ感出てきましたね。
キーワードに入れるべきなんかなこれ。
マゴリアの収入、雑に考えすぎたな。月収何千万円レベルになってそう。
金貨のレートが異世界でどの程度なんか知らんけど。
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