女魔法使い
「……という夢だったのさ、って事にはなんない?」
「なる訳ないでしょう反省しなさいこのドスケベ異世界転生者!!」
夢だと思ったんだからしょうがねえだろ、と思いつつ俺は目の前にいる女魔法使いに謝る。
あと俺は死んでねえ。トラックに轢かれたりしてねえ。まあ、眠ったまま死んだ可能性もなくはないだろうけどさ。
「ごめん。で、俺は一体なんでこんな……アニメみてーな世界にいる訳?君が召喚したってさっき言ってたけど、なんか俺が呼ばれるキッカケでもあったの?」
俺は一息に尋ねる。
「な……何よアンタ、異世界から来た割に理解早いわね……そうよ、あたしがアンタを呼び寄せたの。そこにある召喚の魔法陣でね」
「ふーん」
俺は召喚の魔法陣とやらを観る。
ん?そこに、見覚えのある文字列がある。
#tenseisitai
……俺が『さえずったー』に投稿した転職タグ……の、誤タイプしたタグだ。
tenseisitai、てんせいしたい、転生したい………………………………
「マジで!!?」
じゃあ俺、マジで異世界転生者としてこの世界に呼ばれたの!?
ていうか、現実世界のSNSのハッシュタグが異世界転生の扉を開くなんてパターン、初耳だぞ!!
「マジよ。アンタはその魔法文字によってこの世界と共鳴し、その『能力』を見込まれてアタシに呼び出されたって訳」
女魔法使いは俺の理解の早さに最初こそ戸惑っていたが、それならば都合が良いと思い直したか、一気に説明した。
「えーと……俺の『能力』って……?」
異世界転生……いや、正確には転移であって元の世界の俺は死んだ訳じゃないはずだが……ともかく、転生者によくある神様からのチート能力譲渡とか、そういう儀式もイベントもなかったと思うのだが……。
今も、別に俺の身体に不思議な力が溢れているとか、魔法が使えそう!とか、そんな気はまるでしない。
元の世界にいた頃と何も変わらない、一般人の身体のままだ、と俺の感覚では感じられた。
すると女魔法使いは端的に言った。
「妄想力よ」
は?
俺は声に出して言ってしまった。
「だ・か・ら。アンタのその、類稀なる妄想力こそ、あたしが欲していた能力なの」
「何を言ってんだか分からねえ」
俺は説明を求める。
すると女魔法使いは語り始めた。
「あたしはね、異世界からの召喚術なんて本当は専門外なの。あくまでも、『ある術』に特化した魔法使い……人の心の中に潜む願望、欲望、夢想……即ち、『妄想』をこの世に呼び出し、具現化する魔法を得意としているのよ」
「なるほど……」
少しずつ話が見えてきた気がする。
つまり、この女魔法使いはどうやら、俺の妄想を具現化する事で、さっき言っていた『国の危機』とやらをどうにかしたい、と言いたいらしい。
「アンタ、ほんとに話の飲み込みが早くて助かるわ」
「そういう感じのアニメや小説はいっぱい知ってる……」
ベッタベタの展開だな、と俺は思いながらも、俺自身の能力がムチャクチャ強くなる訳じゃない辺りは、前例に思い当たるものがなくどう対処すべきか悩みどころだ。
「じゃあ、早速試させてくんない?アンタの妄想力の程をね」
「いや、ちょっと待て」
俺はストップをかけた。
「何よ」
女魔法使いは訝る。だが俺はまだ、彼女に訊くべき事が一つある事に気付いたので、流される前に訊いておこう。
「君の名前は?」
女魔法使いは一瞬、キョトン、となり……そして笑った。
「そういや、自己紹介もまだだったわね。あたしはマゴリア。アンタは?」
「俺は王留守。王留守……雄臣だ。よろしくな、マゴリア」
俺はマゴリアと握手をし、ようやく地に足がついたような心地になった。
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