両手に花で楽しくなかったのかい?
「ほう、これがネカフェとやらかい。図書館のように静謐だが、間仕切りが非常に狭いね」
「個室があるらしいのよ、ね?オスオミ」
「ああ、手続きすっからちょい待ってろ」
2人で入るつもりだったから小さい部屋にしようと考えてたんだが……シェリルも一緒となると、あまり狭いとまずいな。少し大きめの部屋にするか……
俺はメンバーズカードを提示して、よく行くネカフェの店員に3時間、と言って料金を支払った。
「お待たせ。行くぜ」
俺は指定された部屋へ向かう。いつもは利用しない少し大きめの部屋。
入ってみると3人くらいならまあ、ギリギリ肩がつかない程度だが、所詮は個人の利用を想定した部屋が多いので微妙に狭苦しいな、と思った。
「これ、パソコンね。操作方法は分からないから任せるけど、一応教えてね」
「ああ」
一足先に俺のパソコンを調べていたマゴリアがそう言う。
シェリルも一部調べさせてやったので初見ではないはずだが、マゴリアと違ってレポート提出と認識合わせなんて細かい事まではしていないので、興味深そうに眺めている。
「オスオミ君のパソコンよりもモニタが大きいようだね。やはりこういう公共施設ではそれなりに良い物を揃えているという事かな?」
研究者らしい視点なのかは知らんが鋭い洞察力を発揮するシェリル。
「ああ、まあ俺が金あんまりかけたくなくてショボいモニタ使ってただけだが、概ねその推察は合ってるよ」
個人でネカフェなんかより高額なPCを揃えるやつも全然いるけど、という話は面倒なので言わなかった。
さて、俺はPCの電源をつけ、早速インターネットの閲覧を開始する。
ブラウザを起動させ、ゲームのプレイ動画を探し始めた。
「わっ、わっ、凄い。なんて精密な映像なのかしら……」
「これはあくまで虚構の映像であって遠隔で戦争の状況を投影するタイプの魔法とは異なるという認識でよいのかね?」
と、マゴリアとシェリルが思い思いの感想や質問を述べる。
俺はシェリルにその認識で合っている、記録映像としてリアルな戦争を収めた動画もある、などと軽く説明してやった。
「世界中の情報をこんな簡単に集められるなんて、凄いわね……」
「こんな技術が発展したら、我々の戦争も一変するね」
インターネットに対する、素朴な感動を抱くマゴリアと、早速軍事利用を考えるシェリル。
ホント対照的だなあ、この2人。
俺はPCを操作しつつ、両側から画面を食い入るように眺めるマゴリアとシェリルにこれがゲーム動画で、これが一般的な中級クラスの武器かなあ、などと説明をしていくのだった。
◇
「いやあ、大変参考になったね、マゴリア」
「ええ、ファンタズム・マテリアライゼーションの基軸になるのはあくまでオスオミの妄想だけど、あたし自身のイメージが膨らむと製造もしやすくなるし、すっごく助かったわ!ありがと、オスオミ!!」
俺の召喚に成功した時や、ハムスターを一発で製造できた時のように無邪気にはしゃぐマゴリア。
俺は彼女の笑顔に思わず胸が温かくなり、良かった、連れてきて、と心から思った。
「喜んでもらえて何よりだよ」
これでまた一歩、救国に近付けたという訳だ。
やってる事はネカフェで3時間、延々ゲーム動画や攻略サイトなんかを眺めただけだが……。
「いやはやしかし、今日のこの経験はまるでデートのようだったね」
と、1日の締めくくりにシェリルは爆弾を放り投げてきた。
こ、この女……!敢えて言わなかった事を……!
「で、デートって。ただの情報収集でしょ?何言ってるのよ、シェリルは」
慌てて顔を赤くして否定するマゴリア、何も言えずに黙り込む俺にシェリルはニタニタといつもの悪趣味な笑顔を浮かべて追撃する。
「おや?しかしオスオミ君は、マゴリアと私、両手に花で楽しかったのではないかな?」
マゴリアの部分だけ強調するように言いやがる。
くそっ……
「あ、あのねシェリルさん。俺は別に、そういうつもりでマゴリアを連れてきたんじゃ」
しかしシェリルの追撃は止まらない。
「ほー、では楽しくなかったと?あ、そうか。オスオミ君的には、両手に花よりマゴリアと2人きりで個室に入りたかったのかな?それは悪い事をしたねぇ」
ニヤニヤ笑いもこれ極まりといった邪悪な色に染まり、俺を牽制するシェリル。
くっつけたいのか邪魔したいのかどっちなんだ……。
その様子に流石のマゴリアも意図を感じ取り、シェリルを窘めようとする。
「あのねシェリル。あたしとオスオミは別に、そういう関係じゃないから。言ったでしょ、マテリアライゼーションのためなんだって」
それだけで同居を許すものかね?とかシェリルが突っ込んでくるかと思ったが、
「そうだったね。いやすまないすまない、思わずからかいたくなってね」
と素直に謝ってくる。こいつ、マゴリア相手だとスッと引きやがって。
俺がそんな風に心の中で悪態をついていると、声のトーンを下げてシェリルは言った。
「……ま、お互いなるべく素直になる事だ。キチンと自分の気持ちに正直にならないと……いつか後悔するからね。これは口煩い友人からの忠告だと思いたまえ」
俺は自嘲気味に発せられたその台詞を、一体誰のことを言っているんだろうな、と半ば察しつつ……ハイハイ、と受け流すマゴリアを見ながら少し寂しく思うのだった。
妄想★マテリアライゼーション!17話をお読みいただきありがとうございます。
両手に花のネカフェ回。
描写しませんでしたけど部屋が狭くてお互いの体温を感じたりしてそう。
シェリルが激重感情をあらわにするとすぐに文章量増えますね……。
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