寮が相部屋だったのよ
「お帰り、早かったじゃない」
「ただいま……怖かった……」
俺はシェリルさんの屋敷から、マゴリアの家に帰ってきた。
ゲンナリした様子の俺の様子に、マゴリアはニヤつく。
「その様子だと、だいぶ絞られたみたいね。ま、たまにはアンタもお灸を据えられるべきよ」
何があったかは問わず、とりあえず俺に悪態をつくマゴリア。
まあ、半分冗談半分本気くらいだろうけど。
俺はさして気にもせず、マゴリアの言葉を流す。
それよりも。
「……なぁ、マゴリア、お前とシェリルさんって……結構仲良いの?」
どういう関係だったのか、まで深く突っ込むのは憚られ、ジャブを打ってみる。
「んー?悪くないわよ。学生時代はお互い、魔法の研究や修業でずっと一緒だったし」
「ずっと一緒?」
「寮が相部屋だったのよ。ルームメイトってやつね。6年くらい」
それを聞いて、俺は納得する。
6年も寝食を共にしたルームメイトに、特別な感情が生まれない訳がない……とまでは言わないが、シェリルのマゴリアに対する、友情と言うにはかなり重い感情の源泉がどこから来ているのか、なんとなく見えた気がする。
「そっか……なるほどね」
「でもそれがどうかしたの?」
どうかしたの、と訊かれて馬鹿正直に
「いやあ、実はマゴリアとの関係に釘刺されちゃってさあ、マゴリアを不幸にしたら許さないぞ!って脅されちゃった」
なんて言える訳もなく。
そんな事言ったら、俺の密かな恋心も、シェリルさんの気持ちも全部暴露する事になる。
……シェリルさんのマゴリアへの感情については、マゴリア自身は知ってるのか知らないのか、今の態度からはあんまり伺えないな……
そんな訳で俺は適当にお茶を濁す。
「いや別に。思い出話なんかを聞かせてもらってさ、結構仲良さそうな雰囲気に見えたから」
するとマゴリアはサラッと衝撃的事実を告白する。
「そうねえ、長く一緒にいたからね。アカデミーでは適性をある程度考慮するけどルームメイトって基本はくじ引きで決まるから、普通6年一緒に寮で過ごす事あんまりないのよ。これも腐れ縁ってやつなのかしらね」
いやいやいやいやそれは明らかにシェリルさんがなんらかの工作をしているだろ!
と俺は全力で突っ込みたかったが、黙っておく。
シェリルさん、マジで底知れねえな……
「ははは、そうなんだ。まあ仲が良いって素晴らしい事だよね」
俺は潮時だなと思い話を打ち切り、マリルが夕食の準備をしているのを見て自分も手伝おうか、と声をかけた。
「えー、良いよ。パパ、下準備とかした事ないでしょ?邪魔になっちゃうもん」
辛辣な事も言うようになったな、と寂しく思いつつマリルの成長に胸を温かくして、俺は今後の方針について考えを巡らせるのだった。
◇
「で、持ち帰った私物の分析結果なんだけど」
翌日マゴリアは俺の私物を点検した結果をレポートにして俺の前に提出してきた。
真面目な奴だ。
「まずアンタからのちゃんとした説明なしに調べた内容だから、アンタの世界の知識で間違いないかチェックして頂戴」
「おう」
RPGの件とかでお察しだろうが俺は日本の話をちょくちょくマゴリアにはしていたので、断片的にはあちらの情報は伝えている。しかし本格的にこうして日本から持ち帰ったモノを前にしてあれこれ説明するのとは訳が違う。
マゴリアは先入観なしに自分で一度解析したいという事で一度俺のスマホとかの電化製品、紙の資料なんかを半日かけてチェックしたらしい。
「冷蔵庫……スマホ、電子レンジ……まあ、この辺の用途がチグハグなのはしゃあねえよな……」
マゴリアのレポートは読みやすく整理されていて、俺も認識を合わせるのに苦労はしなかった。
逐一チェックして認識齟齬を埋めていき、あるレポートに行き着いて俺は青くなった。
「ま、マゴリアさん、これもチェックしちゃったの?」
「ん?あぁそれ。全部チェックしたって言ったでしょ?何、不都合でもあるの」
こいつ絶対分かってて言ってるな……。と俺は赤面する。
そう、独り暮らしの男の部屋の私物をフルチェックともなれば、こんなモノがあっても当然だ。
エロ本である。
よりによって文章のほとんどないタイプのグラビア誌で、そこにはあられもない姿でポーズを取る女性が写されている。
こんなもん、用途について解析したレポート書くなよ。
「何、あたしのレポートに間違いあるなら言いなさいよ」
既にニヤニヤと笑みを浮かべ、間違いないでしょ?と言わんばかりである。
エロ本についての解析レポートに書かれていた内容は……
『女性の裸体を艶かしく描いた高画質の春画と推察される。恐らくは性欲処理の一助とする娯楽的用途』
クソ真面目な文体で書かれた、アンタの自慰用でしょ、というマゴリアのメッセージであった。
俺は無言でレポートにマルをつけ、間違いございませんよ!とヤケクソになってレポートのチェックを継続していくのだった。
妄想★マテリアライゼーション!14話をお読みいただきありがとうございます。
強火の百合女シェリルがマゴリアとどういう関係だったのかの開示。
そしてマゴリアによるエロ本チェック……辛い、これは辛い。
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