シェリルの問いかけ
「お帰り、早かったじゃない」
「俺、半日はあっちにいたんだけど、こっちとあっちの時間差どうなってんだろうな」
「異世界と異世界の時間差の概念か、興味深くはあるが転移はリスキーな行為でもある。わざわざ確かめるにはサンプル数が不足しているね」
マゴリアとシェリルが出迎えてくれて、俺は無事異世界へ戻ってきた。
ゲートは閉じられ、俺は荷物を下ろす。
「ほいっと」
「ずいぶん詰め込んだわねえ」
分かるのか。
「異世界からの土産かい?それは異世界の文化に触れられる良い品だね。君の研究の代わりにいくつか貸してくれないかい」
「良いっすけど」
俺は自分の身の拘束をやめて貰うのと引き換えならと適当な品を渡そうとするが、
「ちょっとシェリル、勝手に決めないでよ」
「なんだい、彼自身なら良くて彼の品はダメなのかい?マゴリア」
と2人が言い合う。
「そっちの品はあたしが解析してからにして。オスオミ、あんた半日シェリルんトコで研究対象になってきなさい。あたしはしばらくコレ調べさせて貰うから」
「壊すんじゃないぞ。日本戻ってもサポート受けられるか分からんし」
「じゃあ決まりだね。行こうか、オスオミ君」
俺はドナドナのテーマが後ろで流れているイメージを妄想しつつ、日本から持ち帰った品の鑑定と調査をマゴリアに任せて、俺自身はシェリルさんの屋敷に引っ張り込まれる事になったのだった。
◇
「ふぅむ……君の精神構造は、他者に比してとても想像力が豊かなのだね。些細な事で感情を強く揺すぶられ、感動したり、あらゆる想像を連想に繋げてイメージを肥大化させる訳か。面白いね、興味深い」
シェリルさんの解析魔法とやらは、特に不快なモノでもなかった。薬を飲んだ後に彼女の魔法が全身を包み込んだが、僅かに身体がひんやりするくらいのものだった。
「お疲れ様、半日と言わず3時間程度で済んで良かった。余った時間は私と語らおうじゃないか、異世界転移者」
シェリルさんは俺の目をジッと見つめて興味深そうに言う。
「はぁ……じゃあ、まあしょうもない話かも知れないっすけど、なんか知りたい事あります?」
と俺が訊くと、シェリルさんは予想外の話を向けてきた。
「単刀直入に訊こう。君はマゴリアを愛しているのかね?」
俺は出されていたお茶を噴き出す。
「な、な、な……」
「ほうほう心拍数が跳ね上がったね。やはり同居しているというからにはそれなりに意識しているのだろう?どうなんだね、え?」
「……シェリルさんって、研究者っぽいからそういう俗物的な話には興味ないかと思いました」
俺は正直な感想を述べる。
「おや、それはつまらぬ偏見だね。私は今、見ての通り君の精神構造を探査したのだよ?
ーーー君の色恋の話に興味がまるでないと、何故言えるかね」
ニタニタと悪趣味な笑顔を浮かべ、シェリルさんは金色の目を怪しく光らせる。
「んまぁ……愛してるなんて高尚な感情かどうかは分かんないけど……俺、日本じゃどん底人生で、このクソみたいな生活から抜け出せねえかな、ってずっと妄想してたんす」
「ほお」
それが愛しているのか?という問いの答えとどう関係があるのかね、などと急かしたりはせず、ニヤニヤ笑いを保持しつつ興味深そうに耳を傾けるシェリルさん。
どうやらこの人、マジで俺の恋話に興味あるらしい。
「……で、なんつーか、偶然でしょうけど、マゴリアはそんな俺をこの世界に連れ出してくれたんす。それって、やっぱ嬉しくて。
俺の、何の役にも立たないどころか、むしろ生きる足枷になってた妄想なんて力を、アイツは欲してくれて……もしその感謝の気持ちとかが愛してるって事だとしたら、そうなんじゃないかな……って思いますね」
俺は周りくどく、だが、今この時はっきりとマゴリアへの気持ちを自覚した。
「ふぅん……なるほどね」
シェリルさんは全て聴き終えると満足げに頷き、腕を組む。
「あの、こんな感じで良かったんすかね、答え」
俺がビクビクしつつ訊くと、シェリルさんは答える。
「いやあ、殊の外純情な答えで驚いたよ。もっと肉欲にまみれたドロドロの感情なのかと思っていたのだがね」
「俺の恋心を性欲と一緒くたにしないで下さいよ!!」
茶化すシェリルさんに俺はつい声を荒げてしまう。
「ははは、すまないね。いや、でも私は喜ばしいよ。マゴリアが君をどう思っているかまでは知らんが、わざわざあのマゴリアが君の同居を許しているのだから、憎からず思ってはいるのだろうと愚考するね」
「そう……なんすかねえ」
あのマゴリアが、とか、喜ばしい、とか。
この人、マゴリアとどういう関係なんだろうな。
その言葉に秘められた友人を超えた何かを俺は感じ取り、興味が湧く。
「おやおや、私とマゴリアの馴れ初めについて知りたいのかい?」
見透かしたような事を……いや、実際精神探査魔法を掛けたんだから、見透かしている……のか?
「……まあ、興味がないと言えば、嘘になりますね」
なんとなく正直に答えるのが悔しくて、俺はそんな言い方をしてしまう。
するとシェリルさんはまた悪趣味な笑いを浮かべ、言った。
「ははは、心配しなくとも君の想像するような関係ではないよ。私は単純にシェリルがいつまでも独り身で、救国にかまけて己が分不相応な魔法を扱い切れぬ様に同情して憐憫していただけさ。口喧しい友の諫言とでも思ってくれたまえ」
「……」
露骨に過去話をチラつかせてくるなぁ……
俺は『そうは言っても私とマゴリアの仲は特別だからね』と釘を刺されているように感じ、居心地が悪くなる。
「ま、私は君とマゴリアの間柄にどうこう嘴を挟む筋合いじゃない。君がマゴリアを愛して幸せにしたいと願うなら、どうぞお幸せに、としか言えないね。ただ」
その後の台詞こそ、シェリルさんの本音に思えた。
「彼女を不幸せにする男は、私は許せなくてねえ」
凄みのある笑顔で俺に向き合うシェリルさん。
「俺は、そんな事しません」
即答する。
「そう願うよ。ま、今日は帰って良いよ、マゴリアもそろそろ寂しがって居るだろうしね」
そう言ってシェリルさんは帰宅を促す。
「マゴリアによろしく」
俺はシェリルさんの見送りを辞して、独り帰路につく。
マゴリアによろしく、か。
シェリルさんがマゴリアを想う気持ち程に、俺はマゴリアを大事に思えているかは分からない。
ただ俺は、一刻も早く救国の任からマゴリアを解放して、幸せにしてやりたいな、と改めて思うのだった。
妄想★マテリアライゼーション!13話をお読みいただきありがとうございます。
シェリルは単にマゴリアと雄臣の間柄を茶化すだけにしようかと思ったんですけど……こいつ勝手に喋り始めやがった、怖い。
強火の百合女でしたねシェリル。ヤベーぞ、敵に回したらあかんやつ。
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