え、元の世界に戻れるの?
「やり方変えない?このままだとちょっと、上手く行かなさそうだし」
「そうだな」
マリルが手料理を作ってくれた翌日、俺とマゴリアは方針を転換する事にした。
「とはいえ、通常武器はもう何度も作ったしな……」
「そうねえ。不思議な力を秘めた、いわゆるマジックアイテムの具現化はそこそこ出来たのよねえ」
実は、これまで言っていなかったが、むやみやたらに魔剣を製造しようと躍起になっていたわけでは、当然ない。
何度も試行錯誤を重ねる中で、試作品として何の能力も持たない剣や、火炎を放出する剣くらいの魔法のアイテムは、制作できたのだ。
もっとも、そんなモノじゃちょっと貴重な魔法アイテム程度の価値しかなく、マゴリアが王宮から命じられている『救国の手段』の一つとして提示するにはあまりに弱い。
「炎を発する剣のもうワンランク上くらいのやつでなんとかなんないのかな」
俺は提案してみる。
「アンタの中でのランク付けってのがあたしには想像つかないけど、RPGっていうんだっけ?アンタの世界の、ゲームに出てくる奴で言うとどのくらいの強さなのよ、それ」
俺は自分がかつてプレイしたゲームを例に説明し始める。
「いわゆる伝説の剣が魔王を倒せるレベルだとすると……俺の今言ってる炎を発する剣のワンランク上ってのは、そうだなあ……ゲームにもよりけりなんだけど、例えば、魔王の腹心の、更にその部下どもくらいなら一撃で葬り去れたりするイメージかなあ」
どうしても具体名を出すと色々良くないので迂遠な言い方になってしまうが、まぁ端的に言えば中ボスが待ち受ける物語後半のダンジョンで一線級の武器という感じだろうか。
「分かりにくいわね」
マゴリアはバッサリ切り捨ててきた。
「まぁこの世界にゲームないし、イメージ共有はしづらいよな……」
「それよね」
マゴリアは俺に同意する。
「アンタの言うゲーム、やらせて欲しいわ」
「無茶言うなあ、電気も通ってない部屋で」
それ以前にそもそも、元の世界に戻る術がなかろう、と俺は言うと、マゴリアはあっさり否定した。
「え?戻れるわよ」
「は???」
俺は耳を疑う。
「え、ちょっと待って?戻れるの?」
「うん。ゲートは今は閉じてるけど、アンタが戻ってこっちに帰ってくるよう、
一時的に開き直すくらい、別に……」
「そんな大事な事なんで黙ってたんだよ!!」
「何怒ってんのよ……アンタ別に元の世界に帰りたいなんて一言も言わなかったし」
マゴリアは戸惑い、俺は驚きのあまり語調が強くなってしまった。
た、確かに元の世界に戻ってもつまんねえ事ばっかだから、もうこの世界に骨を埋めても良いかなあと思ってはいたが、しかし……。
「お、俺のあっちの肉体ってどうなってんだろう……」
肉体ごと転移してきたのか。
肉体がコピーされて精神だけ飛んできたのか。
肉体も精神も実はコピーで、あっちはあっちで俺がまだ活動してるのか。
「あぁ、アンタの肉体は精神ごとこっちに引き寄せてるから、あっちにはないわね」
「ええ!?じゃあ俺んち、行方不明者かなんかで警察沙汰んなってんじゃね!?」
家賃も滞納してるだろうし。
うわー……戻れると知ったけど戻りたくねえ〜……
「面倒なのねえアンタの世界も。じゃあ、未練ないならアンタの私物だけ回収して、借宿捨ててきたら?ずっとここで住めば良いじゃない」
「う……マゴリア最近そういうこと言って俺を誘惑するの巧くなって来たよな……魅力的な提案だし乗っかりたいが、今あっちの現代文明に触れてしまったら気持ちが揺らいでしまいそう……」
俺は葛藤する。
正直、元の世界に大した未練はない。
親……も嫌いだし、友人はろくにいなかったし、無職になったトコだから同僚もいない。
別れを今更告げる相手もーーーと、思い出す。
ハッシュタグの件を教えてくれた元バイト先のエンジニア先輩には、一応お礼だけは……と考えた。
あの人があのタグの事教えてくれてなきゃ、今の俺はない。
勿論、タイプミスしたっていう偶然は重なっているけど。
「マゴリア、私物回収と、いっこだけやり残した事がある。ゲート開いて俺を一時的にあっちに帰してくれ。半日もあれば十分だと思う」
「了解。あたしだけだとゲート不安定になるかもだから、前に言ってた召喚術が得意な友達呼んでくるわ。ちょっと待ってて」
そういうと、マゴリアは部屋を出ていき、友達を呼びに行ったのだった。
妄想★マテリアライゼーション!11話をお読みいただきありがとうございます。
停滞した状況を動かすべく、現実世界へ帰還してゲームを取りに戻ろう!
っていうか戻れたのかよ!!な回。
割と義理堅い所のある雄臣くんと、なんかすっかりオスオミをからかうのが好きになったマゴリア。まだ恋や愛じゃなくこいつ面白えなあくらいの感情でしょうけど、こういう女に振り回されるのが好きなんすよ。
少しでも本作を応援したいと思っていただけたなら、
ブックマークや評価をしていただけると嬉しいです。
評価は画面下の「☆☆☆☆☆」から入れることができます。
「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にしてくれたらすごく嬉しいです!
皆様からいただける応援が、執筆する上での大きな力になっています!
何卒、よろしくお願いいたします!