エピローグ たった一人のSSランク
突然だがあなたは冒険をした事があるだろうか?
冒険という言葉を聞いて、漫画やアニメ、ゲームを思い浮かべる人もいるかもしれない。
別にゲームのように、敵を倒したり、ダンジョンを攻略したりしなくても冒険は人それぞれだ。
自分が行ったことのない場所に旅行したり、まだ自分がした事がないものに挑戦したり、本を読み、自分だけの世界で冒険することだって出来る。
その人が冒険だと思えば、それはその人にとっての立派な冒険になる。
そう考えると誰しも人生に一度は冒険をした事があるんじゃないだろうか。
じゃあ、ゲームのような冒険はどうだろう?
個性豊かな仲間達と、敵を倒し、ダンジョンを攻略し、様々な国を旅をする。時にはライバルと競い合い自分を高める、またある時には凶悪な敵を倒し英雄になる。
そんな冒険をあなたはした事があるだろうか。いや、ないだろう。そもそもあなたの住む世界ではそんな冒険はできない。
それでは少し、こちらの世界の話をしよう。
こちらの世界ではそのような冒険をすることが出来る。
男も女も皆、小さな頃から様々な英雄の話を読み、冒険に憧れる。
そんなこちらの世界で人気な職業、冒険者。
冒険者は街の外にいる魔物を倒したり、貴族の護衛などをして依頼をこなし、報酬をもらう。
魔物とは基本的には剣で戦うが、魔力が高い者は魔法を使って戦ったりする。
魔法を使うには魔力が必要になる。
魔力は生まれた時から皆持っているが、戦いで魔法を使うにはたくさんの量の魔力を使うので、魔法を使えるのはほんのひと握りだ。
冒険者には強さのランクがあり、下から、E、C、B、A、S、そしてSS。
SSランクの冒険者は皆、絵本に出でくるような勇者や英雄など過去に素晴らしい功績を残している者ばかりだ。
現在こちらの世界にはSSランクの冒険者は一人しかいない。
冒険者は皆、SSランクに憧れ、英雄になりたいと願う。
たった一人を除いて....
そうこんな男以外は――――
♢♢♢
「ハックション!!」
またくしゃみが出た。最近多いな…なんでだろう?誰か俺の事でも噂しているのかな?ホントにやめて欲しい....
俺は今魔物の討伐が完了したので、冒険者ギルドに報告しに来たところだ。それにしても……
「さ、寒い……」
現在の時間は夜中の2時、外はパラパラと雪が降っていて、黒のローブのフードをかぶっているというのに耳がじんじんと痛い。
ギルドに入るとモワッとした温もりが体を包みんだ。
肩にかかった雪を手で振り払い、受付に向かって歩き出す。
この時間帯に魔物の狩りを行なっておる者はほとんどいない。暗くなると魔物の動きが見えづらくなるので、圧倒的に危険度が増すのだ。
そのためギルドの中は静まり返っており、暖炉の音や、せかせかと働く受付嬢達の足音だけがコツコツと響いて聞こえてくる。
そんなギルドの中で俺は気配を殺して受付にいた顔見知りの受付嬢に声をかけた。
「ヤッホー、ユリヤさん!依頼されてたレッドドラゴン倒してきたよ~」
「きゃぁぁぁ!!....って、ルイ君!気配を消して話しかけてくるのはやめてって言ってるのに!」
「あはは、ごめんごめん。毎回毎回ユリヤさんが面白いくらいに驚いてくれるから楽しくなちゃって」
この艶やかな長い茶髪の美人さんは受付嬢のユリヤさん。俺より2歳年上で、俺が冒険者になった頃からお世話になってる姉みたいな存在だ。一部の冒険者からはすごく人気がある。ファンクラブまで作られているんだとか。
俺が冒険者になったのは13歳の頃。今はもう18になるというのに未だに君付けされていてちょっと恥ずかしい。
「それにしても、もうレッドドラゴン倒してきちゃったの?流石はルイ君だね!じゃあ報酬あげるからギルドカードと魔物の一部を出してもらえるかな?」
俺は言われた通りにギルドカードとレッドドラゴンの角を差し出す。報酬を受け取るためには名前とランクが記入されているギルドカードと、討伐した魔物の一部を差し出す必要があるのだ。
「はい、これが今回の報酬ね!」
そう言ってユリヤさんはドンッと金貨の入った袋を差し出してきた。ざっと200枚はあるだろうか?流石はレッドドラゴンだ、ちなみに金貨は200枚もあれば人生遊んで暮らせると言われている。まぁ俺はこれ以上金はいらないんだが......
「あ、えっと、その.....ちなみにルイ君はその仮面を外すことは考えていないの?」
なぜか少し顔を赤くしてユリヤさんがそんなことを聞いてきた。俺は今、目元だけ隠すタイプの白い仮面をつけている、普段人の前では絶対に外さないが、一度だけ前にユリヤさん素顔を見せたことがある。それからほぼ毎日外す気は無いのかと聞いてくるのだ。
「これは、師匠の形見だからね……そもそも俺自身あんまり顔見せたくないし、本当に信用してる人しか見せないようにしてるんだよ」
「あ、そうなんだ……それは悪いこと聞いちゃったな…でも、私信用されてるんだ、うふ、ふ、うふふ……」
師匠突然姿を消してから五年がたった、当時は寂しくて泣き喚いたがもう五年も前だ。今ではあまり寂しいと思うことはない。形見とか言ってるけど、あの人がそう簡単に死ぬとは思えない。あの人が俺に何も言わずに姿を消したということは、あの人にも事情があったのだろう。
ユリヤさんの最後らへんの言葉は小さくてよく聞こえなかった。なんか変な笑い方してたけど大丈夫かな?
「師匠のことはあんまり気にしてないから大丈夫。それじゃ、もう俺は帰るよ。誰か来るかもしれないしね、ユリヤさんも外寒いから風邪引かないようにね」
「まったく……相変わらず人見知りなんだから…ルイ君以外にこんな夜中には誰も来ないよ。それとこう見えて私、風邪にはめっぽう強いから!今年の冬も大丈夫よ!って、あ!ルイ君!ギルドカード忘れてる!」
「あ、本当だ、また忘れるところだった」
「もう……ルイ君のギルドカードは忘れられるとヤバイんだよ!怒られるのは私なんだからね!?」
「ご、ごめんって……」
ユリヤさんが本気で起こり始めたから逃げるようにギルドを出た。
外はまだパラパラと雪が降っていて、ところどころ積もり始めている。
「さて、帰るか」
半分くらい凍っている道を転ばないように慎重に歩きながら来た道を帰える。
手にはさっきユリヤさんから渡された虹色に輝くギルドカードを持って……
名前 ルイ
ランクSS