アルベルトとアンハルト
第六十三話です。
十月十三日午前七時。
作戦開始の三十分前である。
アルベルトは未だアンハルトに会っていなかった。
もちろんエリーにも。
その理由は【集中治療室】と書かれた部屋で眠る伯父、ウィリバルトの見舞いをしていたからである。
ことの顛末は把握しているし、衛生兵がアルベルトの生還に大変驚きアンハルトらに知らせに行ったが出撃の準備に忙しく、誰一人としてその朗報を受け取る者がいなかった。
その衛生兵も暇では無かったので急いで他の負傷兵の手当てに移ってしまった。
それにティーメ少将は自分の艦隊の管理や打ち合わせで諸将にアルベルトの存在を伝え忘れていたのだ…。
そんな不運続きのアルベルトは目を覚さないウィリバルトの顔を見つめ続けていた。
特に理由があったわけではない。
いや、あるとすれば誰かしらウィリバルトの見舞いに訪れるのではないかという淡い期待だった。
もっともつい先ほど訪れたティーメ少将以外誰一人として来なかったが。
「忙しいのだろうな…」
そうポツリと漏らし、ウィリバルトに一言「言ってきます、伯父上」と言い残し立ち上がったその時。
「…アルベルト?」
懐かしい、優しい声が聞こえた。
以前に比べ少し男らしくなったその声は紛れもなくアンハルトだった。
「アンハルト!」
思わず大声で呼び、駆け寄る。
「そうだよ!俺だ!アルベルトだよ!」
「でも…お前…戦死したはずじゃ…」
「見ろ!右腕は義手になっちまったけど、生きてるんだ!」
「…アルベルトっ!」
そう言うなりアンハルトが大きく腕を広げ、泣きながら抱擁してくれた。
若干痛かったがアンハルトの後ろで驚愕し硬直しているエリーを見つけたらそんな痛みは気にならなかった。
「ただいま、エリー」
「…お帰りなさい、アルベルト」
午前七時三十分。
ゾラ連合軍の降下作戦隊の準備が整った。
本来なら降りれない空母や航空戦艦はおそらく抵抗してくるであろうゾラ空軍に対応する為、少数精鋭の戦闘機だけを載せて残りに耐熱ジェルを詰め込んだ。
降下作戦の実行部隊長を任せられたのはゼッフェルン中将だ。
彼の旗艦、シャルンホルストも参戦する。
装甲隊を載せた降陸艦四百隻も戦艦の影に隠れて降下するのだがもちろん単体として降下可能なのだがこちらの方が安全だからだ。
「全艦降下準備よし!」
「降下開始!」
空母五隻、航空戦艦五隻、戦艦二十隻、重巡二十隻、降陸艦四百隻が一斉に降下していく。
ゾラ星の重力圏内に侵入すればあとはスラスターなどで微調整し、降下ポイントへ楽に着ける。
言うは易しだ。
確かに降下中は攻撃されないので安全だが耐熱ジェルやシールドを展開しても艦内温度は急上昇する。
空調をフルで回してなんとか耐え凌ぐがそれでも四十度は優に超える。
なのでスペーススーツを着用する者もいる。
戦艦レベルですらこの具合なので降陸艦の室温は想像したくない。
降下を開始して二時間。
全隻、海面への着水が完了した。
監視衛星の類いは全て破壊したのでこの降下作戦は未だにバレていないはずだ。
惑星ゾラは海に地表の八割覆われている。
降下艦隊はその中で最も大きなスラダ海に降下し、すぐに潜水を開始した。
特殊部隊を除いて。
ゾラには政府要人や軍上層部が監禁されているので迂闊には攻撃出来ない。
しかし人質がいなくなれば一斉に強襲をかけることが可能である。
そこで特殊部隊を首都に突入させ、脱出後に主要部へ攻撃を開始するというのが作戦の大筋だ。
その救出作戦を指揮するのは朱の装甲隊だ。
午後五時には首都に到着。
地下水路よりスパイが提示した監禁場所と思われるビルや地下室を片っ端から制圧していく。
そして見事救出に成功した。
「こちら突入部隊。要人の救出に成功。帰還する」
「良くやったツヴァイク大佐。直ちに指定ポイントへ誘導する。ご苦労だった」
「了解。ワインを隊員分用意しといて下さいよ」
冗談を混ぜながらツヴァイク大佐はすぐに通信を切った。
おそらくこれで傍受されたはずだ。
しかし奴らが対応すべきは彼らではない。
アルベルト達、降下作戦主力部隊だ。
「全機発艦用意!」
パイロット達は一気に格納庫に押し寄せ、機体に駆け寄りながら整備兵との最終チェックを行う。
アルベルトは既に着席しており機体内の調整を行なっていた。
すると横にいるアンハルトが話しかけてきた。
「アルベルト。帰還早々の任務でお祝いが出来なくてすまない」
「気にするなアンハルト。俺は帰ってこれただけで満足さ。任務をさっさと終わらせれば良いだけさ」
「盛大にやるから心待ちにしておいてくれ」
「おう!」
二人の会話が終わると同時に管制官が機体の誘導を始める。
「各機、発艦せよ!」
海から姿を現した母艦がハッチを開放して戦闘機を次々と吐き出していく。
その中にはアルベルト達の機体もあった。
「行くぞアンハルト!俺たちでこの戦争を終わらせるんだ!」
「おう!」
中途半端ですが完結しました。
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