悲劇
エリザベートが家を出て三十分後、カフェから見えたのは幾筋もの煙だった。友達も気づいたようで慌てて携帯端末から情報を集めて愕然とした。
「エリー!貴女のお家が火事よ!!」
「嘘…」
エリザベートの顔は血の気を失いつつも急いで家に向かって駆け出した。
エリザベートが外出して二十分程経った時ホーエンツォレルン家の呼び鈴の音が鳴った。
「はい。少々お待ちください。」
落ち着いた声で椅子から立ち上がったのはアンハルトの父だった。かれもまた軍人だった。そしてドアを開け、来訪者の顔を見るが見覚えがないため父は不審がって名を聞いた。
「あの、どちら様でしょうか?」
「お前がホーエンツォレルン少将か?」
名を聞いたはずがいきなりぶっきら棒に言い放つ男に若干の怒りを覚えたが我慢して返事をした。
「ええ。いかにも私がホーエンツォレルン少将ですが」
「そうか」
そう言い放つと父の腹に短い棒のような物を押し付けた。そして何事だろうと玄関に来たアンハルトの目の前で二つの出来事が起きた。一つ目は乾いた破裂音。もう一つは父が血を流しながら崩れ落ちて姿だった。父を撃った犯人は意味のわからない奇声を上げてアンハルトにも銃口を向けた。
とっさに玄関の戸棚に入っていた拳銃を取り出して引き金を二度と引いた。見事に頭と胸に命中し、男は死んだ。
慌てて父に近づいて意識を確認しようとしたが、父はもうすでにこの世の人ではなかった。
アンハルトは今更慌てて母に知らせたが母が指示を飛ばす前にさっきの男の仲間達が銃や手榴弾で家の中を荒らしまわった。
まず当時六歳の弟が撃たれて死んだ。次に母とそのお腹の中にいた妹は手榴弾の破片をもろに食らって死んだがアンハルトは母に庇われて無傷だった。
アンハルト以外で生きている者といえば、銃を持ち濁った目を持つ乱入者達だけだった。
「うわーーー!!!」
アンハルトは叫び、銃口を向けた。
そこからアンハルトの記憶は無い。気がついた時には家の外に出て燃え崩れる我が家を全身血だらけで見上げていた。彼が犯人達を皆殺しにしたのはいうまでもない。彼の隣には完全に血色を失ったエリザベートの姿があるのみだった。
後日わかったことだが犯人達は帝国のスパイに洗脳された麻薬常習犯だった。ホーエンツォレルン家の主を殺せば一生遊んで暮らせる等と唆されたのだろう。
アンハルトとエリザベートの父が標的になった理由はスパイが捕まらなかったため分からない。それからというものエリザベートは笑わず、喋ることなど殆ど無くなってしまった。
ちょうど病で両親を失ったアルベルトがウィリバルトに引き取られたと同時にアンハルト達も父の同僚だったウィリバルトのもと養われることになった。
こうしてアルベルトとアンハルトは出会い、エリザベートは人が変わってしまった。
家族を失う辛さを知っているからか、歳は三つ離れているがアンハルトとアルベルトはとても仲が良くなった。
二人は着実に階級を進め、ついに試作段階とはいえエース機を与えられたのだった。