訃報
三十六話です。
遠征帝ジェームズ九世が死んだ。しかも暗殺によって。
落とした受話器を取りあげて幼子のように泣きそうな声を漏らすエドワードに事情を聞く。「エドワード!父上は、どうやって…」
だが質問の続きを口に出せない。涙が目からこぼれる。軍に入隊後は疎遠だったが入隊前は政治体制の相談や問題、経済について財務大臣の師事の場を設けたり、艦隊戦の基本、応用、戦闘技も手ほどきされ、馬場で供として連れて行ってもらったりもした。
エドワード、ウィリアムも愛情を注いではいたが自分ほど熱心に指導された者はいなかった。長男であるチャールズよりも信頼されていた。
嗚咽を堪えていると
「兄上…父上は…宇宙港へ新造戦艦の視察と…兄上とウィリアムの帰還を迎える為に出向かれました。…バッキンガム宮殿を出て一時間後、脇道から…ウォーベック子爵手先と思われるテロリストが発射した…ロケットランチャーを公用車に…私の目の前で撃ち込まれ…救出した時は…もう…!」
犯人はその場で拳銃自殺したこと。
同乗していた侍従長アンドリュース男爵も即死したこと。等々。
ついに涙腺の防波堤が破れた様子でエドワードは泣きながら語った。
普段や公務では十八歳とは思えぬ態度をとっているがエドワードはウィリアムやアーサーと違って実は泣き虫で臆病だった。
それを封印して父王の補佐、ゆくゆくは皇帝に即位するであろう兄、アーサーの政治の右腕となりたかったのだ。
だがやはりそこはジェームズ九世の子。泣き声を押し殺し、三十秒ほどでエドワードは気持ちを整えて兄に具申した。
「兄上、陛下がお隠れになった以上チャールズ皇子とオズワルド公爵、クラレンドン公爵夫人やその他多数の貴族と最悪の場合、血を見る戦いが起こるでしょう。兄上の決心次第で。如何なさいますか?アーサー皇子」
既に決意を決めたであろうエドワードの声にアーサーはすぐに答えた。
「ああ、だが私は帝位にはつかないぞ。従兄のウェールズ公爵にお願いする。ウェールズ公爵は二十五歳と年齢は申し分なく政治の勉強もなさっているそうだ。ただし唯一の欠点がある」
「ええ。帝位継承権が五番目でしかも五番目以降の男子がいない。そしてガンダー帝国皇室典範によって一回継承権を放棄すると二度と帝位にはつけません。帝位を継ぐべき男子がいなければ女子が継ぎます。例外として女子もいなければ継承権を放棄した者の中から選出されます。ウェールズ公爵が帝位につくにはチャールズ皇子に継承権を放棄して頂くか、死んでもらうしかありません」
淡々としたいつもの口調に戻ってきたエドワードの解説にアーサーはきっぱりと言った。
「チャールズ皇子が継承権を放棄するとは思えん。だからエドワード、お前にやってもらうことがある」
そうエドワードと話し終わった直後、目を赤くしたウィリアムが自室に入って来た。
帝国暦三百十五年十月十日。暗殺されたジェームズ九世の国葬が行われた。
列席した貴族や高級軍人、大臣や高級官僚などからお悔やみの言葉を延々と聞かされる立場にある皇室はチャールズ皇子やアーサー皇子、エドワード皇子にウィリアム皇子、そして従兄のウェールズ公爵が並んで座っていた。
チャールズ皇子の母親であるクラレンドン公爵夫人は泣いている第二夫人エジンバラ公爵夫人に向かって嫌味をグチグチと言っているがその度に義理の息子達に睨まれて不機嫌そうだ。
エジンバラ公爵夫人をジェームズ九世が宮殿に迎えた途端、自分自身に対する皇帝の愛が薄れていくのを知っていた為エジンバラ公爵夫人に嫌がらせをする様になった。
元々気位が高く、チャールズ皇子が帝位につくと信じて疑わなかったのにアーサー、エドワード、ウィリアムと三人もの皇子を産んだなら尚更だろう。
転じて愛してくれていた夫が暗殺され失意の中にあるエジンバラ公爵夫人は普段の気丈さを取り戻せていない。
そんな母親をフォローする三人の息子達とその空気の中で肩身が狭いウェールズ公爵は窮屈そうだ。
場の空気が最悪なまま国葬は終わり、すぐさま奥の部屋へ移った皇子とその母親達、ウェールズ公爵、大臣代表のオズワルド公爵、軍人代表マンチェスター侯爵が帝位継承について広い円卓に椅子を並べ会議を始めた。
「それでは帝位継承についてのお話しを致します」
オズワルド公爵のその言葉で血を見ない戦争が開始した。
年末年始や冬休みでダラダラしている為ストックが減ってきて若干焦っている居眠りですd( ̄  ̄)




