価値観の違い
幾筋の火線が階上と階下から交換されると階下の男はもんどり打って転げ回った。それに悲鳴が続く。
アンハルトは狙いを定めて拳銃を二連射した。狙い違わず必殺の弾丸がマシンガンを構えた男の眉間と心臓部分に当たる。
男は音もなく崩れ落ち周囲には動揺が広がった。
「フロレンツ!ここは任せろ、お前はビスマルク中将をお救いしろ!」
「はいっ!」
フロレンツは迷いなく答えた。先程は上手く出来たが片腕が使えない状況ではアンハルトの足でまといになってしまうことを知っていたからだ。
銃撃戦が行われるすぐ側を走り抜けフロレンツは三階に向かって行った。
ビスマルクの病室にノックしつつ入ると老提督は落ち着いていた。
なぜなら側にはウィリバルトがいたからだ。
フロレンツは驚きつつも息を荒げながら状況を説明し、上官に避難を促した。
それは最早、心配のあまり退去を強制するかのように見えた。
ビスマルクはそのことを顔に出して不満そうだった。それに気づいたフロレンツは素直に謝罪した。
「バイエルン提督にも言われたがわしは逃げんぞ。代わりにハウクウィッツの小僧を連れて行け」
「しかし…」
「わしを逃がすよりハウクウィッツの方がまだ楽だろう」
フロレンツはウィリバルトに視線で助けを求めたが既に説得に失敗したと思われる白髪の提督は顔を横に振った。
なおも三回説得したがついに首は縦には振らなかった。
仕方なく近くの病室にいるハウクウィッツ少将を抱えてフロレンツはウィリバルトと共に二階まで降りた。
すると説得に夢中だった為気づかなかったが辺りが静寂に包まれている。
怪しむフロレンツと提督二人は味方を探したがすぐに見つかった。
顔に安心と疑問を浮かべたアンハルトが彼らを迎えた。その周りには多数の敵兵が転がっていた。無論、死体であった。
自身の活躍を淡々と上官に報告したアンハルトはフロレンツにビスマルク中将は何処か?
と聞いてきた。
「提督は残られるとの事です」
「何故!?」
アンハルトは驚きを隠せなかった。
「提督はご自身が捕まらず我々将官が逃げてしまうと捕まった者たちが危害を加えられると心配しておいでです。故に残るとの事です…」
フロレンツは暗い顔でそう告げた。
周りの衛兵長や兵士、二人の提督と若い大佐は沈黙した。だがすぐに行動を起こした。
直ちにこの士官病院から脱出するのだ。
玄関付近は敵兵が多い。裏口から逃げることになった。
だが裏口にも三十人ほどの兵士が配置されていたようだ。
たちまち交戦となった。フロレンツにハウクウィッツ少将を任せ、アンハルトとウィリバルトが落ちていたマシンガンをばら撒いて敵兵をなぎ倒していった。
銃声の間隙から地響きのような音が聞こえてきたのを周囲を警戒していたフロレンツがいち早く気がついた。
「何か来ます!!!」
大声で叫んだ直後、機動装甲車が立て続けに五台突っ込んで来たのである。
「バイエルン閣下ぁ!ご無事ですかぁ!!」
機動装甲車についている固定式機関銃の弾を撒き散らしながらスキンヘッドの男がウィリバルトを呼ぶ。
「お乗り下さい!!」
五台の機動装甲車が乱射している間にアンハルトたちは急いで乗り込んだ。
今回の士官病院襲撃事件はなんとか乗り切った。
しかし彼らはクーデターが起こったこと事態は察していたが、これから起こる苦難はこんなものでは済まないことはまだ知らない。




