第一章
俺は、近所の普通科高校に通ってるガリ勉の高校生。ガリ勉以外は大して特徴もないし。顔面偏差値も低くもなく高くもなく普通だ。友達は、同じクラスで近所の河野 雪子と加藤 武の二人以外いない。
もちろん付き合っている彼女もいないし、好きな女の子もいない。
俺の家は、両親がじいちゃんから継いだ喫茶店を自宅の一階で経営している。俺の家庭で変わってると言ったらそれくらいだろう。俺は、継がされることを恐れて手伝いなどしたことも無くコーヒーに詳しい訳でもない。継がされてしまえば設計図が崩れてしまうかもしれない。
制服に着替えて、リビングに向かう。うちは二階建てで一階は言った通り喫茶店。二階は俺たち家族が生活する住居になっている。
「おはよー」
一応の礼儀として家族に素っ気なく挨拶する。
「おはよーって、もう少し早く起きたらどうなの?今日から二年生なんだから」
「はーい。分かりました⋯⋯」
俺の朝は、こんな感じで素っ気なく始まる。
朝食を済ませ、カバンを持って学校に出かける。今日から二年生になる。だが、俺にはそんなイベント関係なくてガリ勉はどんな環境でも貫き通す。
玄関を出ると、雪子と武が待っていた。
「おはよーっ!かずっち!」
この明るめの挨拶をしたのは雪子で俺の家の隣に住んでいて、果物屋をやっている。俺と違って土日は店の手伝いをしている。
「和樹~また、朝ごはん食ったばっかだろ。口に米ついてるぞ!」
「おぉ。そりゃすまねぇ」
そういったのは武。雪子の家の隣に住んでいる。別に何屋さんでもない。野球少年だ。
学校ではこの二人以外とはあまり関わらない。一番向き合う時間が多いのはノートと教科書だ。
「お前、学校行ったらノートとずっと見つめてるから話できねぇんだよ。二年生になったのにまだそれ続けるのか?」
「当たりめぇだろ。俺はなぁ、いい大学に入って人生安泰な生活を送りたいんだよ!」
「かずっちって本当に勉強しかしてないよね⋯⋯たまには私とも遊んでよね」
そんな女の子の誘惑には負けないぞ。可愛いけど⋯⋯
「三人とも同じクラスになるといいねー」
「そうだな」
別に俺にそんなの関係ないなんて言えないから、一応それなりのことを言っておく。
学校は徒歩で家から十五分ほどだ。正門が見えたあたりで玄関の辺りに人だかりが出来ている。もう、クラス分けの表が貼りだされているのだろう。
クラス分けの結果は、俺と雪子は同じクラス。武は違うクラスだった。
「はぁ⋯⋯」
俺は深くため息をついて、教室に上がる。担任の先生は怖いと有名らしいがガリ勉の俺には関係の無いことだ。
しばらくして、朝礼が始まった。
すると、担任の先生から
「新学期そうそうだが、転校生がうちのクラスに来たから紹介する。入れー」
ガラガラと引き戸を開けて黒髪のロングヘアの美少女が入ってきた。身長は160cm後半ってとこだろう。胸もでかい。
俺は、彼女を見た瞬間感じたことも無い感覚に陥った。
胸の鼓動が早まり、顔が熱くなる。
ふと彼女と目が合う。ニコッ微笑み返される。
「───っ」
なんだこの感じ。彼女から目が離せない。
「水花 真波です。よろしくお願いします。」
彼女が自己紹介をすると、クラスのほぼ全員が
「おぉ。可愛いー」
などと、歓喜していた。
俺はと言うと、この訳の分からない感覚に戸惑い机に伏せていた。
「じゃ。佐藤の隣に座れー」
え?俺の隣?さらに胸の鼓動が早くなる。今にも破裂しそうだ。
「さ、佐藤くん?体調悪いの?」
「べ、別に、大丈夫だから⋯⋯ よろしくね。えへへ」
この訳の分からん感覚のせいで一日中授業に集中出来なかった。おかしいぞ。俺が勉強しないなんて⋯⋯。
「かずっち。それはね。恋してるんだと思うよ?」
「こ、こ、恋!?俺が!?」
「その中でも一目惚れってやつじゃないかな?」
おかしいと思い、帰り道が一緒になった雪子にこの感覚について相談した結果がこれだ。
でも、恋したって言っても俺は勉強に勝てるものはない⋯⋯。なんだこの戸惑う感じ。どうすりゃいいんだ?まじでわかんなくなってきたぞ⋯⋯。
「な、なあ雪子どうすればいいんだ?」
「どうするって?聞くまでもないでしょ。水花さんにそのまま恋しちゃいなよ!」
「それが出来ないから困ってるんだよ!」
「なんで?そんなに勉強が大切?女の子と青春するのも若者の醍醐味だと思うけどなぁ。なんかババくさいこと言ってごめんね」
「あ、いや。ごもっともだと思う」
「だから、出来る時にやりたいと思うことをするのも設計図に入れといたら?水花さんに対する気持ちが本当なら出来ると思うけどなぁ」
このセリフで俺は、決心した。
佐藤 和樹十六歳。好きな人ができました。