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予知能力

作者: 郡司 誠

  心優しいごく普通のこの少年は幼いころより一つだけ人と違う特別な能力を持っていました。少年の周り100メートル以内でこれから起きる他の人の災いを丁度六十秒前に予知出来る能力なのです。他の人の「困り事」を事前に救う事が出来るのです。しかし、小さな子供が危ない事が今から起きますよと周りの人に注意をしても信じる人は誰も居らず、「変な子」扱いをされるのがオチでした。

 幼い少年はこの能力を誰にも言わずに隠し、陰で「人助け」をしていました。幸いな事にそれほど大事に至る他の人に関わる「困り事」は無かった事もあるのですが、この「予知能力」には「負」の大きなおまけが付いて来る事が小さな少年をして目立つ「人助け」に時には二の足を踏ませていたのでした。

 近所の子の身代わりに手足に怪我をするなどは三日にあげずあり、ある時などは、プールに溺れる友達の代わりに水をたらふく飲み一命を落とす寸前まで行った事もあるのです。

 しかし、少年は強かったのです。「負」のおまけとともに出来る限りの人助けを実践し続けたのでした。

 そんなある日、少年が横断歩道を渡ろうと赤信号で待っていた時です。六十秒後に前に居る年老いた女性にトラックが飛び込んで来るという予知をいつもの様にはっきりと感じたのでした。少年はその六十秒の間に、おばあさんを退け、自分がおばあさんの居た場所に代わったのです。自分を犠牲におばあさんを助けた少年は当然大惨事に巻き込まれた筈なのにその場からおばあさんもトラックも消えていたのでした。回りは何事も無かったかの様に静かだったのです。その不思議な出来事があって以来、少年は自らその「予知能力」を閉じてしまいました。

 けれども、少年が十三歳の時、その封印を解かざるを得ない事態が生じたのです。少年の五歳下の妹が六十秒後に目の前で自転車に跳ねられるという「大困り事」を予知したのでした。兄妹は仲が良く、兄の少年に甘えるばかりの妹は、その日も塾に行こうとする少年の後ろ姿を追いかけて来たのです。

「お兄ちゃん、どこへ行くの。私も連れてって、一緒に行ってもいいでしょ」

「駄目だよ。お兄ちゃんは今から勉強に行くんだから、早くおうちにお帰り」

 とその時少年は、前に立ちはだかった妹に角から急スピードで曲がって来る自転車がぶつかるという予知を鮮明に感じたのです。少年は六十秒の間に妹と立つ位置を替え、承知の上で自分が身代わりとなり、頭を思い切りハンドルにぶつけ、足も車輪に取られ骨折したのでした。

 愛する妹の代わりに大事故に遭った少年は足の骨折は完治したにも拘わらず頭の打ち処が悪かったのか、下半身が全く動かなくなり、車椅子が無くては生活が出来ない身体となったのです。それと同時に「予知能力」はそれ以降現れる事は無くなりました。

 しかし心優しい少年は、それから二年、車椅子に乗りながらも誰に対しても笑顔を絶やさず接する事で人々に勇気を与え続けたのでした。

 少年が十五歳のある休日の小春日和の午後、

妹に誘われて散歩に出かけた時にその奇跡は起こりました。

「お兄ちゃん、外はポカポカ陽気だから散歩に行こうよ」

「いいよ。それじゃあいつもの様に愛車(車椅子)を押して行ってくれるか」

 このころには、少年は妹にだけは、事故の事の成り行き、自分の「予知能力」の存在を知らせていたのでした。100メートル先にある踏切に近づいた時です。自分と同じ歳恰好の女の子が踏切遮断機の下を潜り今まさに電車が通過しようとする線路に入って行こうとするのが見えたのです。しかしこれは、少年だけが知り得た六十秒前の例の「予知能力」で、この二年間起きなかった封印事でした。

「危ない」

 少年は咄嗟に躊躇なく車椅子より立ち上がり、全速力で駆け、遮断機を潜り、少女を無事に踏切の外に助け出したのでした。

「お兄ちゃん、足が・・・」

 この短い六十秒の間に少年の心の中に一瞬のためらいが生じていれば、少女は助かったとしてもいつもの様に「負」のおまけの付いた少年は恐らくや死んでいた事でしょう。

 助けられた少女は一言「今までありがとう」と言ってその場を去って行きました。不思議な事に、この「人助け」シーンは、この兄妹以外の誰の目にも映りませんでした。そしてさらに不思議だったのは、少女の顔が昔少年が助けたあのおばあさんの顔だった事です。

 「負」のおまけ、犠牲を伴いながらも人を助け続けた少年を今度は神様が助けてくれたのでした。そののち、少年の「予知能力」は完全に消えてしまいました。    (了)


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