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四代将軍とも  作者: 山田靖
「源とも物語」
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九、四代将軍源とも、神輿ニ矢ヲ射ル!

「加茂河の水、双六の賽、山法師、是ぞわが心にかなわぬもの」

 かの白河法皇しらかわほうおうをして嘆かせた「天下三不如意てんかさんふにょい」!

 殊に、神木や神輿を繰り出し強訴に及ぶ北嶺南都の僧兵には手を焼いた。世は末法である。

 ともは、知栄院昌恵の弟子で「春香」という。昌恵は公家の出。藤原刑部卿の娘であったが、若年より正義感が強く、武家の横暴を憎んでいた。所謂「鹿ケ谷の陰謀」に加担。密告され、計画は破綻。夫は死罪、自身も都を追放された。山科で落飾。以来数十年、今ではかつての女闘士の面影はない。慈悲深き尼僧として広く尊敬を集めている。その昌恵から、ともは薫陶を受けた。四代将軍となった今も、日々精進修行を怠らない。


「山門が、隣接の荘園を騙し搾取!」との訴え、四代将軍様激怒!

「ひとを救うが仏の道」である。しかるに、あろうことかあるまいことか、弱者を狙い理不尽にも土地を強奪するとは何事か!ともは即座に、山門に返還を命じ多額の罰金を科した。法を厳格に適用し、あまりにも素早い処断に誰も口を挟むいとまなし。

 さぁ山門が怒ったの、怒ったの。逆上した僧兵共が神輿を担いで六波羅に殺到!

 おのれ、源とも!四代将軍何する者ぞ。武家ごときが、まして女子の分際で、国家鎮護の道場を蔑ろにするとは神をも怖れぬ悪行。仏罰たちどころに下さん!僧兵の先頭に立つは、善行ぜんぎょう!“十人力”の異名を持つ、身の丈六尺、三十貫はあろうかという雲衝く大入道。破れ鐘のような大音声で呼ばわった。

「仏敵第六天魔源とも、出合え、出合えーっ!」

 すると門が少し開き、中から長身の華奢な若者が現れた。手には弓を携えている。ん?よく見れば男ではない。女だ!嗚呼、何と何と四代将軍源とも、その人ではないか。ともは凛として、僧兵共の前に仁王立ち!

「京は帝まします王城の地。その天下の往来を徒党組んで騒がす不逞無頼の輩、断じて許すまじ!近所で赤子が寝ておる。迷惑千万!この辺には“しょう”とか“さと”という邪魔臭い婆ァがいて、些細な事でもすぐに“五月蠅うるさい!”って怒鳴り込んでくるんだぞ。・・・手前等の方が、よっぽど八釜やかましいのに。で、天下の将軍様が叱られるんだ。鬼より怖いわ。お前等の所為で、ともが怒られる!そんな理不尽な話があるか。鬱陶しいから早々に立ち去れぃ!」

 僧兵共は怯んでジリジリ後ずさり。慌てた善行は声を励まし「猪口才ちょこざいな!神輿が目に入らぬか、踏み潰すぞ!」と喚き散らす。

「とも、もまた出家である。仏の道を正しく歩んでおる。ともに罰なぞ当たろうはずもない!」

 来るなら来いと、ともは胸を張って毅然とした態度。

「それにしても情けなきは神輿よ。衆愚に担がれ引き回されて為すがままとは。そのような神輿に霊験なぞ皆無。叩き割ってたきぎにでもしてくれるわ」

 なっ何を言う!善行怒髪天を突く。されど、とも、委細構わずゆっくりと弓を構えて定める狙いはピタリと神輿!

「まっ待て、待ってくれ!」

 ガシャン!哀れ神輿は無残にも放り出される。わあっと僧兵共は蜘蛛の子を散らすように退散。後に残るは、ともと善行、そして惨めにも地に叩きつけられ半壊の神輿・・・

「何だ、だらしがない。数を頼んでこのざまか。きゃつ等に罰が当たらぬは、仏も慈悲深いものよのぅ」

 とも、傍らの善行にニッコリと笑う。汗顔赤面の善行、思わず平伏!


 結果、事件は山門の全面降伏となった。発端となった土地は速やかに返還され関係者は残らず処分。山門の別当は、謝罪し辞任。六波羅への強訴については、ともが「いいよ、婆共が今回は何故か来なかったからな」と不問に付した。

 強訴を不問はいいが、問題は現場に残された神輿。山門から返還を願い出たが、ともは「拾い物」と取り合わない。そればかりか、神輿に「みこ」という名をつけ庭に置き毎日眺めて喜んでいる。折しも夏の祇園御霊会ぎおんごりょうえ!この時ばかりと、六波羅幕府は都大路を大行列!豪華絢爛に飾りつけた神輿を、これまた奇想天外に仮装した家人共に担がせ練り歩く。これが大層な評判となり、後々までの語り草。今日の山車だしの起源とされる。

 更に、とも作「山門を讃える唄」を大声張り上げ踊りながらの乱痴気騒ぎ。


 山門の法師さん 土地が欲しいが土地はなし

 山門の法師さん 銭が欲しいが銭はなし

 山門の法師さん 酒が欲しいが酒はなし

 あれも欲しい これも欲しい 欲しい 欲しい 欲しい

 さぁさぁそれでは 神輿を担ぎ 

 神罰じゃ 仏罰じゃ 神罰じゃ 仏罰じゃ

 ヤットコセー ヨイナセー こりゃなんでもせーっ!


 勿論、一際目立つ“極彩色・牛若丸”に扮した源とも、先頭に立ち檄を飛ばす。そして、ここぞの場面、千番に一番の兼ね合い!祭りが最高潮に達した五条大橋で、何と何と宙返りを披露!見物衆の狂喜乱舞で五条大橋が揺れたという。

 山門は泣くように朝廷に懇願。見かねた院がわざわざ仲裁、ともは神輿の返還に渋々応じた。別れの日、ともは「みこ、みこ、達者でね」と、手を振り涙ながらに名残を惜しんだそうな。

 その際、善行を譲り受けることを条件とした。

「善行が騒いでも、近所の五月蠅い婆ァ共が出てこなかった。依怙贔屓えこひいきだ。あの強面は婆ァに人気とみえる。魔除けになるから、手元に置かせてもらう」

 以来、善行は、源ともの家人となる。


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